09 執政警邏隊 (参謀官)
マーガレットは城の一室で執政警邏隊の主だった者たちにランバートを引き合わせていた。内訳としては白の隊服が数名で赤い隊服が5、6名、紺の隊服は50名程度だろうか。
執政警邏隊は総勢で300名を超えるが任務についていたり、市中の見回りをしている者もいるので全員が集結するのはなかなか難しいのだ。
「このランバートを私の執政警邏隊の参謀官として採用することにした。みんなよろしく頼むぞ」
マーガレットは機嫌よくランバートを紹介するが、執政警邏隊の面々はランバートに胡散臭そうな視線を浴びせる。
「姫、このような他国の者を執政警邏隊に加えなくても我らがいるではないですか。しかも、白の隊服まで与えて…」
ランバートと同じ白の隊服を着た執政警邏隊総隊長のサミュエルはマーガレットを役職の執政官ではなく身分の姫で呼んでいる。
サミュエルはレイ王家譜代の家臣出身なのでそうしており、実際、執政警邏隊の中では姫と呼ぶ方が多数派だ。
そんなサミュエルたちに強烈な敵意を向けられたランバートだが、しれっとした表情で言い放つ。
「確かに私は他国の者ですが、これまでこの世界をめぐってきた経験、知見があります。これはきっと執政警邏隊の任務に役立つでしょう」
「それがどうした。経験や知見など我らにもある!」
反論するサミュエルに、これまた涼しい顔で言い返す。
「私の話を聞いていましたか?世界各地を旅してきた私にはこの国だけに留まっている方にはない見識を執政官殿に提供できるということなのです」
ランバートは言葉遣いこそ丁寧ながら中身は(お前らは視野が狭いんだよ。この井の中の蛙が)と言っているのと大差ない。
そのくせ(この言葉遣いなら文句はないだろう)とマーガレットの方を見ているから質が悪い。
根本的にこのランバートには協調性というものが欠けているらしい。元々単独での最強を目指していただけに誰かと協力するために必要な事がわからないのだ。
そんな事を知らないサミュエルはコケにされたと思ったのか、
「そこまで言うのなら何か助言できることがすでにあるのだろうな?」
そんな事はまだ考えてないだろうと意地の悪い質問をするが、
「そうですね…。まずは執政官殿の警備体制について言わせて頂くと、今の状況を考えるとお粗末な、としか言いようがないですね。あれでは姫を殺すための警備しているとしか思えませんね。政敵が無数にいる今、早急に改善する必要があるかと」
「無礼な!何を根拠にそんな事を!」
「そうだ!我らは姫の安全を第一に考えて万全の警備体制を敷いている!」
マーガレットの直属兵として警護する役割も持っている執政警邏隊に対してその警備に不備があると言うのは完全に喧嘩を売っているだろう。
しかし、これに関してはランバートは適当な事をいっているわけではない。実際に暗殺できるところまで侵入しているので根拠は十分にあるのだ。
マーガレットの寝室に侵入するために下調べしておいた警備の穴を一つ一つ丁寧に指摘していく。
いわく、警備ルートが決められた時間に決められた場所に進んでいくのでそれを見極めたら簡単に侵入できる。
警備人員はそれなりにいるのに配置する場所が悪すぎて、まったく存在する意味がない人員が多数いる、などなど。
実際にその穴をつかってランバートは侵入しているので、指摘されたサミュエルたちにとっては図星なので反論できない。ぐうとすら言わないでひたすら悔しそうに唇をかんでいる。
「そもそも、姫の寝室前の警備が一人なのも問題です。せめて複数人いれば様々な対応ができるのです」
調子に乗って寝室前の警備体制にまで言及したところで、
「警護が二人もいたら姫に余計な気をつかわせるではないか。腕の立つものが一人で警護すればよいのだ」
姫第一のサミュエルがさももっともらしい理由を言うが、
「それは一人で問題ない、誰にも負けない者が警備についていた場合だけです。残念ながら皆様の中にはいらっしゃらないかと…」
ランバートがしたり顔ででそこまで言ったところで、
「そこまで言うなら貴様の実力を見せてもらおう!まさか口だけが達者だとは言わせないぞ」
「そうだ、そうだ!我らをこれほどまでに侮辱したのだ。その力を示して見せろ」
さすがに黙っていた他の執政警邏隊員たちも騒ぎ出す。
(少し言いすぎた…。やってるうちに楽しくなってきたからなあ…)
自分でしておきながら面倒な事になったと思ったランバートは、
「そんな事を言われましても…」
と助けを求めるようにマーガレットの方を見るが、(何だ、その顔は。貴様ならば実力を見せるのは問題ないだろう)とマーガレットはまるでかばう気はないらしい。
「よろしい。手合わせを許可する」
「私は気が進みませんが…」
(これは特別ボーナスだしてもらわないとな~)
「よいではないか。このままでは皆、納得しないぞ」
(ふざけるな!契約の範囲内だ。だいたい貴様が煽った結果だろうが!)
「しかし、殿下…」
(ケチ王女!)
「そう言うな」
(この守銭奴!)
たまたま二人が考えている事が一致して脳内で会話になるという謎のテレパシーを使って心の中で罵り合うランバートとマーガレット。
しかし、はたから見る分には二人とも笑顔なのでいかにも信頼し合っている上司と部下というようにサミュエルたちには見えている。
(姫はこんなヤツにここまで心を開いているのか)
とサミュエルは誤解をするのだった。
次回は 010 決闘 (なかなか強い) です。