076 解任
ランバートはアデューによる『マーガレット暗殺計画』事件が片付いたら参謀官を解任され、帝都から放逐される事に取り決められていた。
取り決められたと言ってもこれはマーガレットの指示だけではなくランバート自身が望んだことでもある。
未遂とはいえマーガレット暗殺の実行犯である事が執政警邏隊の一部の幹部には知れ渡ってしまったし、このまま参謀官を務める事はできないと自らケジメをつけたのだ。
というのは建前で、
(また、根無し草暮らしか。まあ、今回は金もたっぷりあるし困ることはないだろう。このまま田舎に行ってセミリタイアしちゃおっかなあ~。そういうのも最近はありみたいだし)
帝都で飢え死にしそうになっていた頃と違って、今は参謀官としての給金やこれまでの悪人たちからの(ほぼだまし取った)大金がある。これなら地方に行けば遊んで暮らしても当分は困らない。
(『引退した元世界最強(を目指した)剣士が(大金をもって)田舎でスローライフします』的な?)
と作者的にはあまり書く気にならない設定を考えているランバートは晴れ晴れとしている。
そんなランバートはマーガレットに話があると執政官室に呼び出されていたが、無理難題を押し付けられるいつもの呼び出しと違ってウキウキしていた。
アデューの事件は解決したのでこの呼び出しはランバートを執政警邏隊から解任する通告だろう。
(いよいよ、ここからもおさらばか。大事な話があるって言っていたが、もしかして特別ボーナスとして退職金でもくれるのか?まあ、今回は俺はかなり頑張ったからな~)
何しろ命懸けでチート武器をもっている最強クラスの剣士と戦ったのだ。まあ、実際は戦ったというよりは反則技で捕まえただけだが。
しかし、結果としてアデュー相手に犠牲を出さずに捕らえる事ができたのは賞賛されてもいいだろう。
だが、ランバートが入室一番で聞いたマーガレットの言葉は全く予想外のものだった。
「残念ながら貴様の解任はまだまだ先になりそうだ」
「どういうことだよ!?」
約束が違うとばかりにランバートは身を乗り出すが、マーガレットは冷静に答える。
「実は最近帝都の治安が悪化していてな」
(そう言えばミラリオもそんな事を言っていたような…)とランバートは思い出す。
『五選会』と呼ばれる帝都を代表する民間軍事組織のうちの二つ、白龍会と黒鬼会がなくなり、アデューの独立騎士団もなくなったことで帝都の治安は間違いなく悪化していたのだ。
「兄上のやり方は褒められたものではなかったが、悪事を働く者からしたら脅威だったからな」
マーガレットが言うにはアデューは独立騎士団で独自に取り締まりをしていたが、少なくとも罪のない一般人に危害を加える事はなかった。
それがアデューの倫理観によるものなのか、独立騎士団としての権限を抑える口実を与えないためものなのかはわからないがアデューが斬ったはのはなんらかの罪がある者だけだった。
ただ、『悪人』と言われる者に対してはやりすぎる事があった。死罪を受けるべきでない者も抵抗されたら殺していた。なにしろ『死を与える剣』魔剣フラガラッハを所持していたので斬ってしまえば相手は死んでしまうのだ。
公式には正当防衛として扱われていたが王子というアデューの身分に守られていなければとっくの昔に問題になるべきレベルの事だ。
その過剰なまでの悪の取締りが、犯罪の抑止力になっていたのは皮肉ではあったがアデューのやり方を認めるわけにもいかないのも事実だ。
マーガレットとしてはアデューのやり方を黙認するしかなかった自分にもこの事態を招いた当然責任はあると思っているが、今はその反省をするよりも帝都の治安を維持する事を優先することにしたのだ。
つまり『本来なら認めるべきではなくても使えるものは使おう』という事で、
「貴様は今回の件が全て解決したら帝都を去る約束だっただろう?この状態では全て解決したとは言えないからな」
放逐予定だったランバートを利用としようという事だ。
事情を知っている執政警邏隊の幹部たちはかなり反対したようだが、ミラリオやブーティカなどがマーガレットに賛成し、最終的に総隊長のサミュエルも認めたのでランバートを残留させる事が決定していた。
「いやいや、治安の悪化ってそんなのは今回の件には関係ないだろう?」
「いやあるな。独立騎士団が廃止されたのは間違いなく今回の件が原因だ。それに伴っての治安悪化は関係があると言わざるをえない」
(言わざるをえない、じゃねーよ!)
犯人逮捕後の結果が事件に関係していると言うのはこじつけに近いが、ふてくされながらもランバートは確認する。
「それじゃあ、どういう状態になったら今回の件が終わるんだよ」
「そうだな…。帝都で一件も犯罪が起きなくなったらいいだろう」
涼しい顔で言うマーガレットだが、ランバートはさすがに納得できないで食ってかかる。
「そんな無茶苦茶な!だいたい一件も起きないってどのくらいの期間だ?一日か?一週間か?まさか一ヵ月とか言わないだろうな」
正直、この広い帝都で一日でも犯罪が全く起きない日がくるとは思えないが念のためランバートが確認すると、またマーガレットは少し考えた後、
「そうだな…一億年くらいか」
(こいつ…冗談で言っている顔じゃない)
唖然とするランバートに、マーガレットさらに続ける。
「少し短すぎたか」
「ふざけるなあ~!」
執政官室には思わず素のランバートの叫びが響き渡るのだった。
以上で本作は完結となります。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
東野の主人公としてはかなりいい加減な性格だったのでなかなか楽しいような書きにくいような主人公でした。
12月半ばくらいから新しい作品『精霊騎士長人情噺』を連載しようと思いますので気になる方がいましたら頭の片隅でも入れて頂けたら幸いです。




