074 約束
ここに来ているのがランバート一人ならこの後の事を何も考えずに逃げに専念すれば、無事に脱出する事も可能かもしれない。
しかし、アデューが強行突破をする事を宣言した以上、ランバートが逃げればミラリオたち執政警邏隊は壊滅させられるだろう。
ランバートと同じように逃げればいいかもしれないが(それでも相当の数は殺されるだろうが)おそらく彼らはそうしないだろう。
かなわないとわかっていてもアデューを捕えようとするはずだ。
(新参者の俺はともかく、さすがに執政警邏隊には手を出さない可能性にかけていたが…ダメのようだな)
この王子には禁忌というものがないらしい。
「仕方ありません。多少、手荒になりますがご覚悟下さい」
そう言ってランバートはアデューに近づいていく。
(ほう、近づいてくるか)
その行動にアデューは少し驚く。
ランバートは先ほどから明らかに魔剣フラガラッハを警戒してる。
それはフラガラッハの性能(少しでも斬られると死ぬ)を知っているためだとアデューは思っていたが、その性能を知っている者は皆、距離を空けて戦いを挑んでくるのが常だったからだ。
(ウォーベックの話では剣以外にもいくつかの魔法と、棒手裏剣も使うとの事だから離れて戦う手段がないわけでもないはずだが…)
今までの相手にはなかった行動に、惑わされたのかアデューはフラガラッハを抜くのが少し遅れる。
だが、それもわずかな時間でランバートがアデューの間合いに入る前にはフラガラッハを抜刀する動作に入っていたが、そこにはあるはずのものがなかった。
「!?」
「探し物はこれですか?」
いつの間にか魔剣フラガッハはランバートの手中にある。
「きっ、貴様…!」
何が起こったのかわからないといった表情のアデューはそれ以上言葉がでないようだった。
それまで余裕たっぷりだったアデューが狼狽する姿を見て、
(うまくいったな)
とランバートは胸をなでおろしながら小さく「ラナのおかげだな」とつぶやくのだった。
*
ランバートがアデューの連行担当に決まった次の日、ギルドの受付嬢ラナのもとを訪れていた。
「私に教えを教えを請いたい?私がランバート様に教える事などないと思いますが」
困惑するのも無理はない。ランバートの剣名は帝都では知らぬものがいないくらい高まっているのだ。
「そんなことはありません。むしろあなたにしか頼めないのです」
ランバートにとってこの帝都で明らかに自分よりも優れた技術をもった者はこのラナをおいて他にはいない。
もっとも、それはあくまで捕縛術で戦闘用ではないのだが、その技術は卓越しておりまさに神業だ。
(あれはただの捕縛術じゃない。何か秘密があるはずだ)
ランバートはそう確信している。以前捕縛術の達人と言っていた男たちと戦った事があるが、ラナのそれは明らかに捕縛術の技術を超えていると感じたのだ。
しかし、その秘密を教えてもらうにはこちらは全てをさらけ出さなくてはいけないのもわかっている。そこで本来なら部外者には言えない任務の詳細を話すことにしたのだ。
ランバートは執政警邏隊がアデューを連行する事になった事。それは命懸けになるし、少しでも犠牲を減らすためにラナの捕縛術の技を知りたいと頭を下げたのだ。
「…事情はわかりました。そのような機密を話すほどランバート様が追い込まれている事も。確かにアデュー殿下を捕らえるとなるとまともにすれば相当の犠牲がでるのもわかります。ですから、教えてもいいですが、一つ約束してください。相手を傷つけるために使わないと約束して下さい」
「約束します」
ランバートは考えるまでもなく即答する。少しでも返答に躊躇すれば教えまいと思っていたラナだったが、そのランバートの態度に嘆息する。(これでは教えないわけにはいきませんね)ランバートの覚悟の重さが伝わってきたのだ。
「…わかりました」
そう答えてからもラナはなかなか話そうとしなかったが、ランバートもせかさなかった。ラナが話すタイミングまで待とうと思っていたのだ。
30分ほどしてラナはようやく口を開く。
「ランバート様は魔法を使えますね?」
「一応使えますが、それほどではないですよ」
「使えれば大丈夫です。魔法を使える方ならコツさえ掴めばすぐ使えますし、魔力もそれほど使用しませんから」
「と言うことは魔法なのですか?」
ランバートはある程度予想していた事ではあるが、あえて驚いて見せる。
「はい。ランバート様レベルの剣士がこの魔法を使えば世界最強になれるでしょう。この魔法を使えば殺せない相手はいないはずです」
思わぬところで世界最強と言われてランバートはドキリとするが、ラナは気にせずに話し続ける。
「実際に使ってみた方がわかりやすいですね。私は今からランバート様を捕まえますから、捕まらないようにしてみてください」
今までもラナから散々逃れようとしてきたランバートはそれが無駄な努力だと知っているが、それでも最大限にラナの動きを警戒していた。
しかし、(あっ!)と思ったときにはもう右腕を捕まれている。
(これだ!どんなに警戒していても知らぬ間に捕まっている!)
警戒をしていてもいつものように捕まえられてランバートは改めてそのすごさを思い知る。
そんなランバートとは対照的にラナは落ち着いた声色で説明する。
「簡単に言いますと、私の使っている魔法は『自分を少しだけ未来に置く』魔法です。…私はランバート様に今日会う前からこの魔法を使っています」
ランバートが「何時発動したのか?」ときくのが分かっていたようにラナは答えている。
「会う前から!?今までずっとか?」
「はい。だからあなたが気付いた時にはすでに捕まっているというわけです。捕まえた今は魔法を解除していますけどね」
(こりゃあ確かに反則だな…)
ランバートが今日ラナを訪ねた時点でそのラナは少し前の過去のラナだったことになる。ややこしい話だが。
「この魔法を使いこなすには過去の自分の身体を現在の意識で動かすことにあるのですがランバート様なら器用だから練習するとすぐにできると思いますよ」
「過去の自分の身体を現在の意識で動かす?」
(ちょっと何を言っているかわからない)といった表情のランバートに、
「説明がむずしいのですが、使ってみたらわかりますよ。でも、先ほども約束したようにこの魔法は傷つけるためには使わないで下さい。ランバート様が使えば誰でも殺せるようになってしまいますからね。文字通り最強です。実際、私はこの魔法を身につけてからあえて剣の腕は磨きませんでしたから」
剣の腕がなくてもこの魔法なら殺せそうなものだがラナに言わせると違うらしい。
時間を止める魔法でないので相手は動いており、一撃で仕留めるのは戦闘技術がないと難しい。そして最初の一撃で仕留めなけらば、いくらこの魔法で先手を取れても一流の剣士には後れを取る可能性がある。
だからランバートほどの達人に本来は教えるべきではないのはわかっているが。と付け加えた。
「では、どうして教えてくれるのです?」
ランバートの当然の疑問に、
「教えなければランバート様はこの帝都から出ていくつもりだったでしょう?私はまだ、ランバート様には帝都にいて欲しいですからね」
「ははは・・・」
ランバートは乾いた笑いを上げながら(…俺が逃げようとしてたのもお見通しかよ。こえー、女だよ)と改めてラナからは逃げれないような気がするのだった。
次回は 075 後処理 です。




