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08 隊服 (馬子にも)

 マーガレットの直属の組織である執政警邏隊の隊服には幾つかの種類がある。一般隊員は紺を基調とした色で、各部隊を率いる隊長は赤。そしてごく少数の幹部は白の隊服だ。


 暗殺未遂から2日後の14時にのこのこ現れたランバートに支給されたのは白の隊服だ。つまり執政警邏隊の中でも最高のエリートとしての証を与えられたことになる。


 もっとも、ランバートはそんな事を知らないので「俺は白は似合わねんだけどなあ」とボヤいて応対したマーガレットの秘書官に軽く引かれていた


 そもそもマーガレットの命令とはいえどこの馬の骨ともわからぬ冒険者を執政警邏隊に加えるのも反対だった(それもよりにもよって白の隊服を与えるほどの厚遇)のだが、このマーガレットに忠実な秘書官はランバートにボヤかれながら命令された『ランバートをまとな姿にする事』をもくもくとこなしている。


 そんな秘書官がめちゃくちゃ頑張った結果、マーガレットの発注を超えた(スーパー)ランバート(執政警邏隊・白の隊服仕様)ができあがる。

 

 「これくらいでいいでしょう。今後は外に出るときは常にこの姿でお願いします」


 「…これ、一人でやったら二時間くらいはかかるだろ」


 「大丈夫ですよ。最初ですから髪を切ったり無精髭を剃ったり時間がかかりましたが、毎日やってればそれなりでできるようになります。髭も毎日そって下さいね」

 

 (面倒くせえ…)


 ランバートはあからさまにげんなりしている。


 そんなランバートを様子を待っていたように秘書官は口を開く。


 「マーガレット様からのお言葉をお伝えします。たぶんあなたはこの格好になるのを嫌がるだろうが『諦めろ。任官するという事はそう言う事だ』とおっしゃっていました」


 「そりゃ、どーも」


 フリーランスがいろいろあって初めて就職したときに使われる禁断の呪文を唱えられてランバートはますますげんなりするのだった。

 


 

 


                         *


 「よお」


 白の隊服姿で現れたランバートを見てマーガレットは目を見張る。


 「意外と似合うな」


 「皮肉か?」


 「いや本心から言っている。うまく化けたものだ」


 心底感心したように言うマーガレットだが、ランバートは居心地が悪そうだ。


 「ちっ、なんかバカにされているような気がするんだよなあ」


 ランバートは伸び放題だった無精ひげを剃って、ボサボサだった髪も短く切ってぴっちりと七三分けにしている。伊達眼鏡をかけているその姿はいかにも怜悧(れいり)な『できる』文官といった感じだ。


 「せっかくうまく化けたのだ。その言葉遣いも何とかした方がよいな」


 少しからかうような口調のマーガレットに、


 「わかってるよ。これでも姫さんよりは世間の事がわかってるつもりだ。いい年だしな」


 そう言いながらもランバートの口調は変わっていない。


 「本当に大丈夫なのか?私がいうのもなんだが私の部下はあまり融通が効かないんだぞ」


 「心配するなって。その時になったらちゃんとするさ」


 軽い感じで答えるランバートに(本当に大丈夫か?)とマーガレットは思うがそれ以上は注意しない。


 このままのランバートでも困るが、かと言って普通の真面目な警邏隊員になられてもランバートをスカウトした意味がない。ランバートには今までの執政警邏隊にはない役割を期待しているのだ。


 「しかし、それができるならなぜ私の秘書官にはそのままで話したのだ?」


 「あの秘書官なら大丈夫だろ。あいつもそれほど行儀がいいタイプじゃなかっただろ。()()()()()


 ()()()()()を強調して言うランバート。その眼力にはマーガレットも驚かずにはいられない。秘書官は名門貴族の出だが、一時は市井(しせい)無頼(ぶらい)()と交わっていた過去があるのだ。


 「…貴様はやはり不気味な男だな。だが、その力を私のために使う事を期待しているぞ」


 「承知いたしました。執政官殿下」


 不気味だと言いながらどこか楽し気なマーガレットに答えるランバートの仕草は、礼儀作法の指南役ができるくらいに完璧なものだった。


 




次回は 09 執政警邏隊 (参謀官) です。

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