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073  アデュー・レイ

 サーデイがウォーベックと対峙していた頃、ランバートは独立騎士団の本部を訪れていた。


 本部と言っても独立騎士団は戦闘要員はアデューのみの騎士団なのでアデューの他は雑務をこなす秘書官が一人いるだけだ。


 ランバートは秘書官に自らの所属と身分を名乗ると、秘書官の返事も待たずにアデューの部屋に向かっていく。


 慌ててランバートを追いかけようとする秘書官をミラリオの三番隊とブーティカの五番隊、ダンケルの七番隊(隊長に複数空きができたため五


 「執政警邏隊参謀官か。何の用だ」


 公式には初対面のはずなのだが、アデューはウォーベックとともにランバートをつけまわしていた事があるので思わずランバートを認識した答えをしてしまっている。


 「あなたを重要参考人として連行するように命令を受けています。お手むかいはされないで頂きたい」


 ランバートは参謀官として来ているので口調が参謀官モードになっているが、


 (抵抗するなよ~。マジで。あ~、改めて近くで見ると、こいつはすげーヤバい感じがする)


 とアデューの腰にある魔剣フラガラッハを注視して、(あれが抜かれたらすぐ逃げよう)と考えている。


 「その命令は却下だ。執政警邏隊の権限では俺を連行などできないぞ」


 にべもなく答えるアデュー。


 (やっぱり、そう簡単にはいかないよなあ。なんでこんな事になったかなあ…)


 キリっとした顔のままで心中で愚痴を言いながらランバートは先日執政官室で行われた作戦会議の事を思い出していた。


       

                         *



 マーガレット暗殺計画の重要参考人としてマーガレットの実兄のアデューと黒鬼会会頭のウォーベックを連行する事は決まったのだが、問題はその二人の強さにあった。


 ウォーベックとアデュー。ともに国三指の一人としてその実力は折り紙付きなのだ。そして二人とも命令に大人しく従うタイプではない。


 仮に力づくで連行しようとしても抵抗されれば多大な犠牲が出る事は間違いないだろう。下手をすれば片方だけでも執政警邏隊の一隊くらいなら全滅できるだろう。それこそ数隊が束になっても連行できるかどうか。


 そうなると自然とこの二人の逮捕には精鋭で、なおかつ少数であたる方が犠牲がすくなくなる、と議論の方向が向かっていた。


 その議論の中でサーデイが以前ランバートに「ウォーベックの方がランバートには勝率がある」というニュアンスの事を言っていたのを総隊長サミュエルが覚えていたので、


 「ウォーベックはランバート参謀官が対応するほうがいいのではないか」


 と意見したのだが(あんなヤバいくらい強い奴と戦えるわけないだろ!)と思ったランバートが


 「いえ、ウォーベックはサーデイ議長が適任でしょう」


 とサーデイに押し付けようとしたのだが、そのランバートの発言を『ウォーベックと戦わない、つまりランバートはアデューと戦いたい』と受け取られてしまったのだ。


 この時点でかなりランバートの本心と食い違ってしまっているのだが、その後に


 「いや、私は二人とも…」と『どっちとも戦いたくない』と言う事を遠回しに主張しようとしたのが悪かった。


 ランバートがみなまで言う前に、


 「いくらランバート参謀官でも二人ともを相手にするのは無理でしょう」「いやいや、ランバート参謀官ならあるいは…」となぜか二人ともランバートがメインで相手をするという流れになっていた。


 どうもこの執政警邏隊内でのランバートの評価はほとんど最高値まで上がっているようだった。


 (このままで一人で二人と戦わされてしまう!死亡フラグすぎる!)そう思ったランバートが「一人で十分です!」と言ってしまったがために「おおっ、一対一で戦おうというのですか!さすがは参謀官!」と更なる勘違いを生んでしまう。


 こうなるともうランバートが何を言おうと無駄になっていた。


 もともと執政警邏隊には貴族が多く騎士道精神を好むものも多い。


 いくら任務とはいえ一人を多数で取り囲むのは気が引けていたのだ。


 そんな中でのランバートの『一対一で戦う宣言』(本人にはそんな意図は全くなかったのだが)はまさにうってつけだったのだ。


 『強者に対して一対一』これほど騎士道精神を満たせるものもないだろう。


 そしてサーデイも「いいねえ、あたしも一対一でやってみたかったところなんだよ。あんたがアデューとやるんならあたしはウォーベックだねえ」と乗り気になってしまったのでランバートもアデューと一対一の戦いを望んでいる(そんなわけはないのだが)のは確定してしまった。


 


                      *




 (…今思い出してもあれはマジで最悪な流れだった。だけど…やっぱりこいつとは絶対に戦いたくないっ!)そんな思いを抱いているランバートはなんとか事を穏便に運ぼうとしている。


 「マーガレット執政官のご命令です。執政官の権限なら問題ないでしょう」


 執政官は帝都の全ての組織をつかさどっているのでアデューの独立騎士団もその例外ではない。しかし、


 「妹に言っておけ。連行するなら証拠を揃えてこいとな」


 とアデューは血縁関係を持ち出してくる。公私混同もいいところなのだが、アデューは本気でそれが通ると思って言っているのだ。


 (こんの、くそボンボンがぁ~!)


 心中で本音が出るランバートだがそれ以上は強く出れない。とにかく無茶をしてアデューを刺激したくないのだ。


 言われてみれば確かにマーガレット暗殺をランバートに直接依頼したウォーベックはともかくアデューに関しては全く証拠がないのだ。


 ウォーベックが自白でもすれば別だが、それでもアデューが知らぬ存ぜぬで通せば逃げられる可能性はある。


 「しかし、この俺をアデュー・レイと知って一人で来るとは大した自信だな」


 淡々と言うアデューはどこかマーガレットに似ているように見える。


 「いえ、あなたと戦おうとは思っていません」


 (自信なんかあるかあ!戦う気はないんだって!)


 あくまでも戦闘を避けようとするランバートに、

 

 「それは奇遇だな。実は俺も一人で貴様と戦うのはよせと言われているからなあ。意外かもしれないがそんな事を言われたのは人生で初めてなのだぞ」


 (意外でも何でもねえよ。天才レベルの剣才を持ったやつがチート武器を持ってたらそりゃそうだろ!)


 ランバートはしっかり相手の実力が分かる(多少上に見過ぎる傾向はあるが)のでアデューのヤバさがよくわかっているのだ。

 

 「では、大人しくついてきて頂けますか?」


 「それは無理だろう」


 埒が明かない問答が続くがランバートは辛抱強く説得を試みる。


 だが、先にしびれを切らしたのはアデューの方だ。


 「そろそろ出て行かないか。これ以上の無礼があるなら俺は実力行使に出るぞ。貴様と、外にいる連中全員にな」


 今までの冷静な声から少し苛立ちをにおわせながら言うアデューに、


 (ここまでか…)

 

 ランバートはイヤイヤながら覚悟を決めたのだった。

 

次回は 074 約束 です。

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