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072 ウォーベック

 

 先に刀を抜いたのはウォーベックだ。ウォーベックは幅広の大刀を愛用しているが、普通なら振り上げるのも難しいほどの大刀をその剛力をもって軽々と扱っている。


 対して、サーデイはまだ抜かない。といっても戦闘態勢に入るのが遅れているわけではない。サーデイは魔法と剣の比率が半々くらいなので剣を抜いていなくても戦闘準備は整っていると考えていい。


 サーデイとウォーベック。この二人は国三指として高名なだけにその戦い方は知れ渡っている。


 また、二人は帝国内の手練れの剣士として何度か公式の場で手合わせをしたこともある。


 つまり、お互い手の内をある程度は知っている状態なのだ。


 「あっ、そうそう。言い忘れたがねえ。あたしはジャービスからウォーベック流の技を教えて貰ってるからね。多少フェアじゃないような気もするが、戦う前に相手の流派を研究する事は剣士として間違ったことじゃないからねえ」


 サーデイは自分はウォーベック流の技を知り尽くしたと揺さぶりをかけている。


 (まあ、そうは言ってもあたしも全部わかったわけじゃないんだけどねえ)


 「それは困りましたね。ジャービスはわたくしの直弟子ですから全てお見通しということですか」


 本当に困ったような顔をしているウォーベックだが、


 (こいつ、絶対にまだ隠している手があるくせにしらじらしいねえ)


 サーデイはそれを真に受けていない。仮に弟子にウォーベック流の奥義を授けていたとしても慎重なウォーベックはそれを打ち破る技を用意しているとサーデイは思っている。


 しかし、このサーデイの「ウォーベック流の技を知っている」という発言はウォーベックに疑念を抱かせる。


 わざわざその事実を伝えたのは何か意図があると思ったのだ。


(わたくしの技を知っているという事は伏せておいた方が有利なはず。それをこちら教えてくるのは剣での戦いを仕掛けてくるとわたくしに思わせるためではないのか?わざとらしく剣を抜いていないのは魔法攻撃と見せかけて剣で挑んでくるためと思っていたが、やはり魔法攻撃なのか?しかし、ここでは魔法を使うにしてもその種類は限定されるはず)


ウォーベックはそう考える。


この狭い地下室ではウォーベックの大刀も使いにくいが、威力の高い魔法を使えばサーデイ自身も巻き添えにあう。


 自らへのダメージ覚悟でサーデイが大魔法を使ってくる可能性もなくはないが、それは追い詰められてからだろう。初手から大魔法を使ってくる事はまず考えられない。


 (さて、何を使ってくる?まさかこの密室で炎系はないだろうが…)


 威力が低くても炎系はこの密室で使うと燃え広がる可能性があるので、ウォーベックは水系か氷系だろうとあたりをつける。


 発動する魔法がわかれば、ウォーベックほどの剣士なら先手をとることもできるのだ。発動する場所、範囲、速度、それらが魔法によって微妙に違う事を知っているのだ。


 そんな読み合いの中でサーデイのとった手は、


 「はっ!」


 目にも止まらぬ速さで抜いたレイピアによる連続高速突きだ!


 一瞬の間に7回も突きを放っているが、ウォーベックはそのうち5回までは大刀で防いで、残りの2回も突かれはしたものの致命症にならない場所の筋肉で受け止めている。


 (信じられない神業!)


 そう思ったのは傷を受けたウォーベックではなく攻撃した側のサーデイだ。


 ウォーベックは完全に魔法攻撃が来ると思っていたはずで、その虚を突いたにも関わらずほとんどダメージらしいダメージを与えられなかった。


 しかも、軽量なレイピアでの鋭い突きを取り回しの悪い大刀で防いでいる。


 (剣技に関してはあたしより少し上だと思っていたが、こりゃ少しどころじゃないねえ)


 こうなると勝つには大魔法を使うしかないと覚悟を決めてサーデイは炎系の大魔法を自らもダメージ負う覚悟で発動させる。

 

 が、ウォーベックは避ける事もせずに真正面から大刀で炎を斬り裂くと全身を火だるまにしながら地下室のドアを蹴破って逃げ出していく。


 肉が焦げる嫌な臭いを残して…。


                       *



 「サーデイ様!」


 サーデイが地下室から出ていくと執政警邏隊の総隊長サミュエルが数名の部下たちとともに駆け寄ってくるが、煤まみれになって、ところどころ煙があがっているその姿を見てうろたえた声を上げる。


 「お怪我は?」


 「あたしなら大丈夫だよ。アイツはどうなった?」


 思ったよりも元気そうなサーデイの返事に安心しながらサミュエルは答える。


 「ウォーベックは東の方に逃げていきました!すぐに追っ手を向かわせます!」


 その言葉に我に返ったように走り出そうとする執政警邏隊の隊員たちだったが、


 「やめな!…残念だがあんたらが追ってもどうこうなるほどのダメージは与えられなかった。追っても死人が増えるだけだよ」


 サーデイが一喝する。


 もともとサーデイが仕留めそこなった時のためにサミュエルたちは控えていたのだが、その場合でもウォーベックにある程度のダメージを与えている予定だったのだ。


 今のウォーベックは火炎魔法でかなりの火傷を負っているが、それでも執政警邏隊が束になっても勝つことはできないだろう。


 (ざまあないね。勝つのは確実じゃないにしても、逃げきれないくらいのデカいダメージは与えられると思ってたんだがねえ)


 サーデイが心の中で自嘲していると、まだ諦めきれないサミュエルが食い下がってくる。


 「しかし…!」


 「まあ、今回はアイツの勝ちだね。諦めな。もっとも、二度と帝都にもどってくることはないだろうがね。…それよりも心配なのはあっちに行った連中だよ。あっちはこっちよりも、もっと分が悪いだろうからねえ」


 サーデイはその肩をポンっとたたいて血気盛んなサミュエルをなだめながらアデューの元に向かったランバートたちを心配するのだった。


次回は 073 アデュー・レイ です。

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