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069 逮捕

「ランバートさんが逮捕された?!」


 地方の視察から二週間ぶりに帝都もどっていた三番隊隊長ミラリオはシャロから留守中の報告を受けて素っ頓狂な声を上げている。


 「正確には逮捕というか、事情聴取をうけているみたいなんですけど…」


 「ああ、ついに…。いつかはやると思っていた。私に言ってくれれば少しくらいは融通したのに…」


 絞り出すように嘆息するミラリオにシャロは慌てて付け加える。


「いえ、まだどのような嫌疑で事情聴取を受けているか明らかになってないですよ?」


 「…お金以外ではそれほど悪い人ではないのだ。他にあるはずがないだろう」


 頭を抱えるミラリオは完全に金がらみの不正だと決めつけている。


 「…ランバート参謀官の事を信じていらっしゃるんですね。(お金以外は)」


 「ああそうだ。(お金以外はな)」


 不思議と声には出していないはずの2人の考えは一致している。


 「こうしてはいられないな。姫様と話をしてくる」


 「マーガレット様に直談判されるのですか!?」


 ミラリオがそこまでランバートに入れ込んでいるとは思っていなかったのかシャロが驚きの声を上げるが、ミラリオは返事をする事なくそのまま隊長室を出ていく。

 

 (全く、困った人だ。していい事と悪い事の区別がお金が絡むとできなくなるのだから…)


 どうせ『悪人からの金は返さなくていい』的な事をしていたのだろうと呆れながらも、ランバートのために少しでも口添えしてやろうと執政官室に向かうのだった。



                       *


 

 


 「姫様、お話があります!…んんん?」


 ミラリオが執政官室に入ると思いもよらない光景を目にする。


 そこには執政官マーガレットに総隊長サミュエル、五番隊隊長ブーティカ、元老院のサーデイ議長、そしてなぜか酒場の店主シュートに渦中のランバートその人もいる。


 マーガレットを除くと全員が剣の達人でそうそうたるメンバーが揃っている。仮にこの場に帝都で選りすぐりの刺客たちが襲撃してきても簡単に返り討ちにできるだろう。


 「なんだい、騒々しいねえ。久しぶりに顔を見たと思ったらあたしに挨拶もなしかい?」


 「大叔母様こそ、どうしてここに?」


 ミラリオはサーデイの存在に気付いていたが、あらためて元老院議長でミラリオの大叔母でもあるサーデイが執政官室にいる事に驚いている。

 

 「あたしはランバート参謀官の取り調べをするために来たのさ。執政警邏隊の参謀官を調べるのが執政警邏隊の者たちだけじゃあ公平に見えないだろう?それよりも大叔母様って言うのはやめな。それじゃあ、あたしがババアに見えるだろ」


 そう言って白い歯をのぞかせるサーデイはまるで山賊の親玉のような口の利き方をしているが、その容姿は年老いて深いしわこそ無数にあるが、帝国貴族としての威厳を十分に感じさせるほど整っていて、高貴な凛々しさを放っている。


 「まあ、いいさ。あんたも参謀官の事はよく知ってるんだろ?せっかくだから取り調べに加わりな」


 「サーデイ議長、勝手な事は…」


 ミラリオを勝手に加えようとするサーデイにサミュエルが抗議しようとするが、


 「黙りなっ!あたしに指図する気かいっ?!」


 その痩せた体からは想像もできないほどの地を震わすような大声で一喝されてひるんでいる。


 「サミュエル。もともとミラリオは視察から戻ってきたら参考人として話を聞く予定だったのだ。この場にいても問題ない」


 マーガレットが自分に忠実なあまりにサーデイに口出ししたサミュエルをたしなめている。


 そもそもここに集められているメンバーは容疑者であるランバートを抑えるためというよりは、むしろサーデイを警戒してマーガレットが集めたのだ。


 (この方の力添えが必要だったとはいえ、お呼びしたのは早まったか?だが、味方になってくれるならこれほど心強い方もいないからな。政治的にも、戦力的にもな)


 そんなマーガレットの想いも知ってか知らずか、サーデイはマイペースに話を続けている。


 「じゃあ、取り調べを続けるよ。ええと、執政警邏隊が白龍会を潰した時のことを話してたんだったよねえ。あんたが白龍会のじじいを殺ったんだろ?うまくやったもんだね。あのじじいの方がまだあんたよりも人を殺すのはうまかったはずだよ」


 「確かに私が白龍会の会頭を殺しましたが、今、議長が言われたように手加減できる相手ではありませんでした。生かして捕えようとすると私の方がやられていたでしょう」


 ランバートは参謀官モードで真面目に答えている。


 「まあ、そうだろうねえ。あたしやあんた、ウォーベックなんかは持ってる手札をうまく使って勝つタイプだからね。うまくすれば格上にも勝てるもんさ」


 わざわざ自分やウォーベックと比較しているのはランバートの事を国三指と呼ばれる自分たちと同格だとサーデイが認めているからだろう。


 その後もサーデイはランバートに話しかけて、その答えにいちいち頷きながら上機嫌で『取り調べ』を続けていく。


 だが、その『取り調べ』はランバートのこれまでの執政警邏隊での活躍をなぞっているだけのもので、『取り調べ』というよりはイキのいい剣士を見つけた老剣士がその英雄譚を聞くのを楽しんでいる様にしか見えない。


 さらにミラリオやシュートには第三者から見たランバートの戦いぶりを話してもらって、これまた満足そうに頷いている。


 あまり意味のないように見える『取り調べ』に、


 「そもそもランバートさんはどういった容疑でこの取り調べを受けているんですか?」


 ミラリオが当然の疑問を口にするとサーデイはちょっといたずらな笑みを浮かべて、


 「ああ。あんたは知らないんだったね。こいつは『マーガレット執政官暗殺未遂容疑』で取り調べを受けているんだよ。暗殺を依頼されたと自白しているし違いないね。…ただし、これは口外禁止だよ」


 「暗殺って…」


 ただならぬ事態にそれ以上言葉が出ないミラリオに、


 「その事はもうよいのだ。私は知っていながら彼を参謀官に抜擢したのだからな。そもそもこいつは暗殺などする気がなかったとしか思えない行動をしているからな。ただ、依頼金が欲しかっただけだろうよ」


 「それはそれでダメではないですか…」


 とツッコミながら(でも、『依頼金が欲しかっただけ』には妙に納得できるかも)と思うミラリオだ。


 「もっとも、あたしが来たのはこいつにその罪を償わせるためじゃないのさ。さっきも言ったがあくまでもこの事実は口外しないで、()()()()()()を流すだけさ」


 「どうしてそんな回りくどい事をするんです?」


 「真の目的はこいつの逮捕を餌にして黒幕をいぶりだしてやろうって事さ。実際、黒幕連中からしたらこいつがマーガレット暗殺の依頼を受けたのは事実だとわかっているし、その男が暗殺を依頼された証拠を提出して取り調べを受けてるとなったら気が気じゃないだろう。しかも、元老院議長(あたし)まで動いていると知ったらより真実味があるからね」


 「提出された証拠があるんですか?!」


 サーデイの言葉にミラリオが驚いていると、

 

 「ある、という事にしている。さすがに捜査上の都合で現物を公表するわけにはいかないが、ランバートが依頼人から受け取った物は確かにあるからな」


 マーガレットが静かに説明すると、

  

 「一体何なのですか?それは!?」


 重要な証拠なのだろうからそれをつまびらかにする事ができないのはわかるが、やはり気になる。普通に考えたら暗殺の依頼の証拠になるような物など残すはずがないのだ。


 ミラリオの追求に、ランバートが参謀官モードで、


 「まあ、なんでもいいじゃないですか。大事なのは直接私が依頼人から受け取った物があるというだけで十分なんですよ」


 話をそらそうとするが、


 「くっくっく、依頼金だよ、こいつが渡された」


 笑いをこらえきれないといった感じでサーデイは答える。


 「あっ…、へえ~…」


 ミラリオに何とも言えないような視線を向けられたランバートは(何度目だろうなあ…この表情をされるのは…)とこの部屋に来てから何度も見た光景に、ごまかすように口角を上げて視線を逸らすのだった。




次回は 070 魔剣 です。

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