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068 報告

「久しぶりだな。貴様が自分から私の所にくるなんて」


 マーガレットが皮肉な言い方で自室に訪ねてきたランバートを出迎えている。


 「三日に一度はそっちから呼び出してるだろ」


 (こっちから出向く暇がないくらいに)と心中で愚痴を言うランバートだが、今日は用件があって自分から来ているのでそれ以上は言わない。


 「目を離していると貴様はすぐにサボるからな。不思議と仕事はしているからいいが、あまり大っぴらに遊ばせていると示しがつかない」


 「うるせえよ」

 

 マーガレットが言うようにランバートは決して仕事熱心ではないのだが、事件の方からランバートを目がけてやってくるので自動的に仕事をたくさんこなしている形になっている。


 「それで何の用だ?」


 「ちょっと、報告しておこうと思ってな」


 ランバートは自身の安全のために帝都を離れる気になっていたが、さすがにマーガレットに黙って出ていくのは気が引けていたのだ。


 (さてどうするかな。ヤバい奴らが俺を狙ってるから逃げるけど、元々はお前を狙ってるはずだから気を付けろ…。言いにくいなあ。だって、これってこいつを見捨てて俺は逃げるって宣言するようなもんだからなあ)


 『するようなもん』も何も事実その通りなので、なかなか言い出せないランバートにマーガレットの方が切り出してくる。


  「実はこちらからも貴様に教えておくことがある」


 (なんだ、なんだ?)


 不意を突かれてランバートは返事ができないが、マーガレットは気にせず続ける。


 「貴様が仕事をサボらないか定期的に尾行させていたのは知っているな?」


 「知ってるよ。正直、尾行している事が俺に分かるように尾行させていただろう?どれだけ信用ないんだよ」


 愚痴るように抗議するランバートだが、


 「経費を使ってカジノで遊んでいた奴が何を言う」


 マーガレットに一刀両断されている。


 「ま、まあ、そんな事もあったな。でも、あれからは真面目にしてるだろ!」


 「そうだな。真面目かどうかは知らんが勤務中にカジノには行ってないようだからそれはいい。ただ、その尾行のお陰で分かったことがあるのだ。ウォーベックに指示していた人物の事だ」


 「ウォーベックに指示していたって事は姫さん暗殺の首謀者だろう?そいつがわかったのか?!」


 「ああ。貴様を尾行している者が他にもいる事に気づいてな。私の兄、アデュー・レイだ。独立騎士団という治安維持組織を個人的にしている困った人だ。おおかた私が執政官になったのが気に入らないのだろう」


 衝撃の事実を他人事のように淡々というマーガレットだ。


 だが、ランバートはアデューという名前に反応する。


 「…そっちの方かよ」


 「なんだ?目星がついていたのか?」


 「ウォーベックのおっさんが俺と戦う時の助っ人を頼むならそのアデューか元老院の議長だって言われていたからな」


 ランバートはサーデイ議長の名前をまともに覚えていないらしい。


 「いくら貴様でも兄上とウォーベック相手では分が悪いだろう。ほとぼりが冷めるまでまた視察でも出て帝都から離れておくか?」


 まさに帝都から逃げ出そうとしていたランバートはマーガレットの方から提案されてギクリとするが、


 「今回はそのままいなくなっちゃうかもしれないぜ?」


 あえてその真意は顔に出さずに冗談ぽく答えている。


 「それでも構わん。貴様には給金分は十分働いてもらったからな。というよりも期待以上に働いたよ。正直、雇った時はさして期待していなかったのだ」


 「それはそれで少し傷つくぞ」


 「そうか?かなり褒めているつもりなのだが」


 真顔で言っているマーガレットは本気でそう思っているようだ。


 「暗殺計画の首謀者がわかったのなら告発できるのか?」


 「…難しいだろうな。前にも言ったが、いくら貴様がウォーベックから頼まれたと証言したとしても証拠がないからな。ウォーベックが貴様に暗殺を依頼したという証拠になる物はないんだろう?」


 「それはないな。暗殺の依頼をわざわざ書きつけて残すなんて、そんなバカな真似をするヤツがいるはずがないだろう」


 「別に書面でなくてもいいのだ。例えば契約の証として貰った小剣の類でもいいのだぞ。いや、この際、ウォーベックから受け取って今も形に残っているものならなんでもいいのだが…」


 「だからそんなものなんてあるはず…」


 そう言いかけてランバートはあるものを思い出す。


 (そう言えば…暗殺の前金に貰った金貨の袋はそのままだったな)


 返すのは嫌だったが、かと言ってなんとなく使いにくくてまだ手を付けてなかったのだ。


 もし、本気で金に困ったら使っていただろうが、参謀官になってからは給料も良かったし、時々(不正な)臨時収入などもあったのでそのままにしていたのだ。


 「その顔、なにかあるのだな!なんでもいい!それがあれば奴らを追い詰めることができるかもしれんぞ!」


 今まで冷静そのものだったマーガレットが珍しく興奮しているが


 「いやあ、そんないいもんじゃないんだぜ…」


 「あるんだな?それは直接ウォーベックから受け取ったんだろう?!」


 「そりゃあそうだけど…」


 「奴らも意外と腋が甘い。形に残るような物を渡してるとはな!」


 高笑いをして喜んでいるマーガレットに、 


 (まあ、普通なら使うか返すかして残ってないもんだろうからなあ…)


 『形に残っている物』がなんなのか言うべきかランバートは迷うのだった。

次回は 069 逮捕 です。

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