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067 相談

 ウォーベックから招待状を受け取ったランバートはジャービスの所に相談に来ていた。


 目下のところランバートとウォーベックの関係をある程度知っていて、相談できそうなのはウォーベックの元弟子のジャービスしかいないからだ。


 「なあ、これって…」


 「ええ、間違いないでしょうね」


 (それにしても師匠もわかりやすい事するなあ…)


 ジャービスはなりふり構わなくっているウォーベックのやり方に対して、少し呆れたようにため息をつく。


 ランバートから見せられたウォーベックからの招待状は要約すると『食事でもしながら手柄話を聞きたい』というものだったが、どう考えてもランバートをウォーベックの指定する場所に誘い出す口実に違いない。


 ランバートもそれがわかっているのか深刻な顔になっている。


 「…やっぱりそうか。金返せって事だよな」


 右の拳を握って「くっ」と心底残念そうに言うランバートにジャービスは思わずずっこける。


 「違いますよ!これはランバートさんを襲うためにこの場所に誘き出そうとしているんですよ、師匠が!」


 正確には元師匠なのだが、破門されたとはいえ元師匠というのも変なのでジャービスはいまだにウォーベックの事を師匠と呼んでいる。


 「じゃあ、金は返さなくていいんだな?!」


 鼻息荒く迫ってくるランバートを避けならがジャービスは続ける。


 「…それはよくわかりませんけど、今大事なのはそこですか?」


 誘い出そうとする罠であることを告げたのにまず金の心配をしている。


 (この人、金が絡むと急にポンコツになるな。ミラリオが金が弱点だと言っていただけはある)


 妙に納得しながらジャービスは話を進める。


「あの師匠の事です。ランバートさんと一対一で戦うという危険はおかさないはずです。ランバートさんの実力をよくわかっていますからね。かなり勝率が高い条件じゃないとランバートさんと戦おうとしたりはしないはずですよ」


 「そうなると手練れの助っ人を用意しているって事か」


 ジャービスに言葉にランバートが息をのむ。ウォーベックの手紙の真意がわかるとさすがに理解が早い。


 「そうなんですけどねえ。ただ、それほどの手練れがいるかって事なんですよ。師匠の元にはまだ直弟子がいますけど、ランバートさんとやりあうには力不足かなあ。さっきも言いましたけど師匠の性格を考えると相当の勝率がなければしかけてこないと思うんですけどね」


 「ジャービスにも心当たりはないのか?」


 帝都の剣士の事情に詳しいジャービスにもわからないとなると、よそ者のランバートには全くわからないのだ。


 「…協力するかどうかは別として帝都でランバートさんとやり合えるのレベルにいるのは、師匠を除くと独立騎士団のアデュー殿下か元老院のサーデイ議長くらいでしょうからねえ」


 「アデュー殿下?」


 騎士団なのに殿下とはどういう事かとランバートは疑問に思う。


 「レイ王家の長男ですよ。だから殿下です。あなたの雇い主のマーガレット執政官の兄上ですね」


 「そんな大物がいくら大きな組織の長とはいえ民間人のウォーベックに協力するのか?」


 「そうなんですよね。それはサーデイ議長も同じで普通なら師匠に協力しないでしょう。元老院の議長ともなれば普通の貴族ではないですからね」


 ジャービスの考えではどちらもウォーベックに協力しそうにないとの事だが、ランバートは一応二人の剣士とのして特徴を知っておきたいのでそれをきくと、


 「サーデイ議長は魔法と剣を組み合わせて戦います。ランバートさんも魔法を使いますけど使い方は補助的ですよね。あのばあさんは魔法もガンガン使いながら剣をふるうタイプです。逆にアデュー殿下は魔法は一切使えませんから剣だけですね。ただ剣だけでも天才的に強いし、持っている剣がフラガラッハっていうえげつない魔剣ですけど」


 「どっちにしても嫌な相手だな」


 ランバートは顔をしかめる。


 「そう言えば、ランバートさんは剣にこだわりはないんですか?」


 ふと思いついたようにジャービスがきくと、


 「俺は剣には金を使わないタイプだからな」


 (でしょうね)


 思ったとおりの答えが返ってきてジャービスは無駄な質問をしてしまったと少し後悔する。


 「そもそもなんで師匠はそんなにランバートさんに殺意を抱いているんですか?なにか心当たりでもありますか。なんかさっき『金を返せ』とかなんとか言ってましてけど…まさか借金でもあるんですか?」


 「いやあ…借金って言うか…」


 ランバートはさすがに口ごもる。


 「教えてくださいよ。一度は殺し合いをした仲じゃないですか」


 なんでその関係で教えて貰えると思ったのかわからないが、妙な説得力があるせいかランバートもマーガレット暗殺の依頼を受けた話をついしてしまう。


 …まあ、誰かに話したかっただけかもしれないが。人間、秘密にしている事があるとつい話したくなるものだ。


 「そんな事してたんですか…」


 「いや、でもさ、もうどうやって、金返したらいいか、わかんないし、もらってても、いいかな、と…」


 やたら区切りながら話すのはランバート(ドケチ)にも後ろめたい気持ちがあるからだろう。


 「ともかく、いくらランバートさんでも一人で行くのは危険すぎますよ。強力な助っ人のあてはありますか?もし、ないから私が同行してもいいですよ。まあ、私では強力というには物足りないでしょうがね」

 

 自嘲気味に言っているがジャービスはランバートへの『貸し』を返すつもりらしい。これがいい機会だと思ったのだ。


 「強力な助っ人ねえ…」


 「あてがあるんですか?」


 考えがありそうな顔のランバートにジャービスがきくと、


 「そうだな…。ぱっと思いつくのは酒場の店主くらいしかいないな」


 「…わかりました。私が同行しましょう」


 ランバートの言葉を冗談だと受け取ったジャービスが覚悟を決めるが、


 「いや、ちょっと考えさせてくれ」


 前のめりに話を進めていくジャービスにランバートの方がためらっている。


 「もしかして師匠と私の関係を気にされているのですか?それなら心配されなくてもいいですよ。すでに破門されていますし、何より師匠とはランバートさんが戦って下さい。私では師匠の相手は無理ですからね。私が相手をするのは邪魔になる師匠以外の者ですよ」


 あっけらかんと話すジャービスは自分の分をわきまえているのだ。


 「それはアデューやサーデイでもいいのか?」


 「…その場合も頑張りますけど、あまり期待しないで下さい。正直あまり時間を稼げないでしょう」


 (ジャービスが時間を稼げない相手か。そいつらが出て来たらマジでどうするかなあ…)


 ランバートは(いっそ帝都から逃げるか…)と考え始めていたのだった。

次回は 068 報告 です。


だいぶ佳境に入ってきました。とりあえず完結まで毎週更新できることを目標に頑張ります。

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