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065 とりまき

 アデュー・レイ。レイ家の第一王子にして独立騎士団団長(ただし、団員は他にはいない)である。


 マーガレット暗殺を企てた張本人であり、その目的は妹に執政官の座を奪われた私怨を晴らすためだ。


 そして、あわよくば自分が執政官の後釜に座ることもできるのではないかと思っているのだ。


 一度は自ら捨てた執政官の座だが他に適任の者がいないと請われて仕方なく了承する、そんな事を夢見ているのだ。


 そんなアデューに対してウォーベックは、


 (この方は見通しがいかにも貴族的で甘い。だが…)


 第一王子として育てられて感覚が浮世離れしているアデューと違って、海千山千のウォーベックは政治がそんな単純なものではないとわかっている。


 しかし、自分が協力して裏工作をしてやればこの王子を執政官にできるのではないかとも思っている。


 (少なくとも『資格』はあるのだ。この王子には)


 平民出身の冒険者としてはほぼ最高位まで成りあがっているウォーベックだが、この王子の様な『資格』はない。今以上の存在になるという己の野心を満たすためにはその『資格』を持った者を利用するしかないのだ。


 (だから、この王子に近づいた。可能だと思ったから暗殺計画に協力したのだ。暗殺自体はうまくいっていたはずだった。あの男さえいなければ…)


 あの男とはもちろんランバートの事である。


 マーガレット暗殺の最大の障害(とウォーベックたちは思っている)、参謀官ランバートを取り除くためにウォーベックとアデューの二人は尾行しながらチャンスをうかがっていた。


 さすがに二人とも達人なのでランバート相手に尾行していても気付かれない距離を保っている。


 もし、ワルキューレちゃんがいたらどんなにうまく気配を消していてもその優れた嗅覚で存在を察知しただろうが、そのワルキューレちゃんは最近はシャロという危機的状況を愛する少女に連れまわされている。


 以前の事件でシャロに好きに暴れさせて貰ったことに味を占めたのか、ワルキューレちゃん自身も精神的構造が近いシャロに懐いている。


 この場合ワルキューレちゃんがレッドウルフとして特殊というよりはシャロの方が人間として特殊なのだろう。


 レッドウルフの本能として暴れて己の力を誇示することを喜びとしているが、それと感覚が近いのだから。


 というわけでランバートに対する尾行は上々だったのだが、肝心のランバートと二対一になる好機がなかなかめぐってこないのだ。


 もともとランバート自身は群れるのが嫌い(というか人付き合いが下手)なので一人で行動することが多かった。しかし、最近のランバートは行く先々で知り合いたちに絡まれている。


 「あれは執政警邏隊の赤服か。ということは隊長クラスだな」


 「はい。三番隊隊長です。わたくしたちには到底及ばないレベルですが邪魔だてされると面倒です」


 「まあ、赤服だしな。ザコではないか」


 ミラリオがランバートの巡視について回っているのを見てその日は襲撃をあきらめる。


 アデューは赤服だから強いと思っているが、ウォーベックの方は腕前もそうだがミラリオのその身分が殺すとうるさい事になりそうだと判断していた。


 また別の日。

 

 「今度は執政銃士隊か。あれは一般隊員の制服だからいけるか?」


 「いえ、あれは隊長クラスではないですが隊長以上に強いでしょう。私の破門した弟子です。恐らくあの者はランバートに与するでしょう」


 ジャービスはランバートにやられた怪我もすっかり治っていて、最近はランバートと殺し合いをした事すらなかったかのように振舞っている。


 ランバートの方もわだかまりがない。むしろ前よりもジャービスに心を許している。これは仲良くなったというよりはジャービスの性格からして、貸しのある自分に対してジャービスが危害を加える事はない、むしろ危害から守ってくれるだろうと判断しているからだ。


 ウォーベックもそう判断している。ジャービスにはそういった義理堅さがあるからだ。この日も襲撃をあきらめるしかなかった。


 またまた別の日。


 「あれなら大丈夫じゃないのか?どう見ても騎士には見えんぞ。あの様子から見るとランバートの女なのだろうがただの市民だろう」


 「いえ、ああ見えてただものではないようです。先ほどランバートはあの女の手から逃げようとしましたが、それをものともせずにランバートの右腕を捕まえています。あの動きから察するに相当の腕前があると言ってよいでしょう」


 受付嬢のラナがランバートの右腕を捕えた動きにウォーベックはその非凡さを見抜いている。


 実際はラナは戦闘力はそれほどでもなく非凡なのは神業と言っていい捕縛術だけなのだが、その動きはいかにも達人に見えるのでウォーベックがそう思うのも無理はないのだ。


 またまたまた別の日。


 「あの女なら大丈夫じゃないのか?身分は高そうだが腕は細いし、戦えそうにないぞ」


 「私服ですがあれは執政警邏隊の5番隊隊長のブーティカです。無類の怪力の持ち主で油断のできる相手ではありません。やめておきましょう」


 「そうか、しかしお前はよく知っているな」


 「いえ、それほどでもありません」


 そう答えながらもウォーベックは少しアデューに呆れている。


 (この人は本当に相手の強さを見る目がないのだな)


 アデューは全くと言っていいほど相手の実力を測ることができない。普通、一定以上のレベルに達せればある程は相手を見るだけで実力が分かるようになるものだが、アデューにはそれがない。


 何しろ本物の天才なのでほとんど努力することなく今の強さになっているので経験が少ないのだ。


 相手の力を見極めるには才能もあるが、一番はやはり経験だろう。


 普通は強くなる過程で多くの強者と戦って経験を積むので、それに比例して自然と強さを見る目も養われるのだが、アデューにはその経験がないのだ。


 もっとも、それは悪い面ばかりではない。相手の実力が読めない事は剣士にとって致命的な弱点にもなりえるが、強みにもなる。


 自分よりも強い相手であっても臆せずに戦う事ができるからだ。全く怯むことなく剣をふるえるという事は有利になる場合が確かにある。


 (この方の強みを消すこともないか)


 ウォーベックは無理にそう考えてアデューの絶望的なまでの見る目をなさを肯定するのだった。

 


次回は 066 わな です。

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