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061 強力すぎる助っ人

 ひょんなことから街の不良少年たちの組織、『死神会』のボスの座に上り詰めた執政警邏隊三番隊隊員のシャロは不機嫌だった。


 組織を調べるために潜入していた『死神会』を乗っ取った事で上司である三番隊隊長のミラリオに「何をやっている!」こっぴどく叱られたものだが、それについてはスリルを味わうためにわざとしたので後悔はなかった。むしろ処罰されるのははじめから覚悟していたのだ。


 問題はその後のミラリオの指令にあった。


 自分が知らせた『誘拐計画』のターゲットの貴族が誰かはミラリオからは教えて貰えなかったが、よほどの大物だったらしい。「なにがなんでもその黒幕を突き止めろ」と言われたのだ。


 一応、作戦らしきものも用意されていた。


 裏切った『死神会』を制裁しようとする『兄ィの組織』を返り討ちにして、今度はその上の組織が報復にやってきて、更にその上の組織がやってきて、という感じでどんどん上の組織をつぶしていって黒幕までたどりつくという作戦らしい。


 活字にするとバカみたいな作戦だが、この指令自体は危機的状況が向こうから次々にやってくる(うまく相手が来てくれたら、だが)という点ではスリルを味わいたいという性癖を持つシャロにとってご褒美のようなものだ。


 しかし、残念ながらその指令には余計なおまけがついてきたのだ。


 「でもよ、いくらボスやワル姐さんが強いって言っても兄ィたちの組織に逆らってタダで済むわけがえねえよ」


 死神会の元リーダーが情けない顔でぼやいている。


 この元リーダーはボス(シャロはリーダーではなくボスと呼ばせている)の座をシャロにとられて、№2もシズク、№3もワル姐さんことワルキューレちゃんが居座っているので№4でギリギリ幹部といった立ち位置になってしまっている。


 もっとも、その立場には不満はない。シャロたちにしっかり教育された(主にワルキューレちゃん)からだ。


 「大丈夫。そう言うと思って心強い助っ人たちを用意しています」


 しかし、そう言うシャロのテンションは低い。


 この刺激を求める新人騎士とって、強力な助っ人などはスリルを減らすだけの余計な存在なのだ。


 (しかもよりによってランバート参謀官…。その圧倒的な安心感…ありがたくないなあ)


 そう、その助っ人とはランバートなのだ。それともう一人腕利きが来るらしい。


 「では、助っ人のお二人、どうぞ!」


 まるで演劇のような言い方で助っ人を呼び出すシャロ。

 そこに現れたのは白い仮面と赤い仮面をつけた二人組の男だ。


 仮面と言っても目の周りを覆うくらいの仮面なので口元は見えているし、見る人間がみれば丸わかりなのだが不思議と誰も気付いていない。


 (白い仮面の方はランバート参謀官ですが、もう一人は誰でしょうか?)


 シャロはさすがにどっちがランバートかわかっているが、もう一人だ誰だかわからない。


 だが、執政警邏隊の隊員だとは思っている。


 執政警邏隊に来て日が浅いシャロは執政警邏隊の全員の顔を知っているわけではないし、執政警邏隊の中でも隠密に活動する者たちがいる事は知っているのでそのうちの一人とでも思っているのだ。


 実はこの白い仮面の方は執政警邏隊隊員ではなくランバートの旧友であり、シズクの父親でもるシュートだ。


 ここで気になるのはランバートはいいとしても、一般人のシュートが執政警邏隊の作戦に組み込まれていることだ。


 普通なら一般人であるシュートを同行させるなどありえないのだが、娘を心配するシュートに土下座までされて「友達だろ!?俺も一緒に行かせてくれぇ!」と頼まれたからだ。


 ランバートは(どうせ無理だろ)と思いながら一応、総隊長のサミュエルに話しを通したらあっさり承諾してくれたのだ。


 これが誤算だった。


 サミュエルはランバートが提案する事なら「何か深い考えがあるはず」と思うようになっている。一般人であるシュートを作戦に組み込みなど本来あり得ないが、ランバートが言うなら、と判断したのだ。


 そうとは知らないランバートは(何で断らないんだよ…)と思ったものだ。


 「助っ人一号の白仮面だ。こっちは二号。彼は赤仮面と呼んでくれ」


 見たまんまで自分たちを呼べという、だいぶおかしい事を大真面目に話しているランバートに、


 「ホントにこいつら強いのかよ?」


 疑う目つきでいる死神会のメンバーにシャロが何か言う前に、ワルキューレちゃんが脅すように「ガウっ!」と咆哮する。


 「ひっ、ワル姐さん!?」

 

 使役魔獣ということで№3に甘んじているが死神会を乗っ取る時に一番活躍したワルキューレちゃんの怒りの声に怯えたように肩をすくめる。


 「気を付けてよ。ワルキューレちゃんの本当の主人はこの方なんですから。それがどういう事かわかるでしょう?」


 シャロがそう言うが早いかワルキューレちゃんは早速ランバートに甘えるために寄りかかっていく。ここ数日ランバートに会えなかったのでその反動が出ているようで子犬のようにはしゃいでいる。…デカい馬くらいの巨体を揺らして。


 その様子に「すげえ、ワル姐さんがまるで子犬の様だ」「あのワル姐さんが…すごい!」とざわめいている。


 (…お前、なにやったの?)


 ランバートはじゃれついてくるワルキューレちゃんをなでながら複雑な顔で目を細めている。


 「まあこうなったら簡単です。さっさと終わらせましょう。まずは『兄ィ』の組織のある場所を教えてください。サクッとつぶしてしまいましょう」


 シャロはチート武器を手に入れた(欲しくはなかったが)ので戦闘でのヒリヒリ感をあきらめてストーリーだけをタイパよく楽しむことにしたらしい。


 「本当にそんなに簡単なの?」


 一応№2であるシズクが疑問を呈するが、すぐにその必要がない事を身をもって思い知るのだった。


                       *


 

 『兄ィ』の組織に乗り込む前にシュートがこっそりランバートに話しかけてくる。


 「俺は娘を守る。お前は後の連中を頼む」


 真剣な顔で言うシュートに、ランバートはあきれ顔で


 「いや、お前の娘はこのなかじゃあ強い方だろ。もっと守るべきやつらを守ってやれよ」


 と暗にその必要なはないだろと言うが、シュートは首を振る。


 「娘に傷一つでもついたらどうする」


 「お前…ついこの間まで存在を知らなかった娘だろ。どうやったらそこまで思えるんだよ」


 「ランバートも娘ができたらわかるさ」


 何目線で言っているのかわからないシュートに(やっぱ連れてくるんじゃなかったなあ…)と思うが後の祭りだ。


 (まあ、ここの連中くらいなら俺だけでも楽勝か。一応ワルキューレちゃんもいるしな)


 そう思うランバートだったが、戦闘中にシズクの半径3メートル以内に誰ひとり(味方も含めて)近づけなかったシュートの過保護ぶりに(やりすぎだろ…)と呆れるのだった。

次回は 062 父と娘 です。

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