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059 シズク

 「あの…、先ほどはあれで良かったんですか?」


 結局自分の意見は取り入れられずに死神会が『兄ィの仕事』を受けることに怒って飛び出したシズクを追いかけたシャロが遠慮がちに声をかけている。


 「良くはないけど、どうしようもないでしょ」


 半ばあきらめたようにため息をつくシズクだが、


 「あなたも大変な時に入って来たわね。嫌なら抜けてもいいのよ」


 と入ったばかりのシャロを気遣う言葉をかけている。


 「そんな簡単にやめれるんですか!脱会リンチ!とか脱会金払え!とかなくてもいいんですか?!」


 「…受けたいの?脱会リンチ」


 『脱会リンチ』という危険なシチュエーション(シャロの大好物)に歓声をあげて目を輝かせているシャロをシズクは解せないといった表情で見る。

 

 「いえ、そういうわけではないんですけど…」


 (危ない、危ない。つい顔に出てました)と慌てて首を振っている。


 「まあ、とにかく今ならあたしが安全にやめさせてあげるわよ」


 こんな事を簡単に言えるシズクは死神会でもかなりの地位にいるのだろう。


 「う~ん、そうですねえ…どうしましょうか」


 (残って犯罪に巻き込まれるのも困りますが、ここでやめたら潜入捜査になりませんよね。それにまだ危険な目に合ってないのにやめるわけにはいかないです)


 やめない理由が潜入捜査よりも危険な任務から離れたくないというところがシャロらしい。  


 煮え切らないような返事をするシャロに追い打ちをかけるように、


 「でも、このまま残るとなると、あなたはともかくあなたの魔獣は今回の仕事でかなり当てにされてるわよ。ああ、あなたも弱いわけじゃないんだけどね」


 上から目線で言うシズクはかなり腕に自信があるようだ。しかし、その実力は(私と大差ないかな)とシャロは思いながら、


 「そう言われれるシズクさんは相当強そうですね。他のみなさんも一目置かれていたみたいですし」


 シズクをたてるように言う。シャロとしてはシズクに接近して調べるように言われているので、その気分を害さないようにしている。


 そうとは知らないシズクは強さを褒められて上機嫌になる。

 

 「血かしらね。父さんはかなり強い剣士だったって。あたしの母さんも悪い奴らに絡まれているところを父さんに助けられたらしいんだけど、それは強かったみたいよ。母さんはその時に父さんに惚れたみたいだしね」


 「へえ、有名な方なんですか?」


 「残念ながら名前は知らないのよ。顔も知らないしね」


 「お父さん、会ったことないんですか?」


 シャロの言い方にちょっとした同情の響きを感じたのか、シズクはわざと明るい声で答える。

  

 「ああ、別にあたしは父さんの事を悪く思ってないわよ?あたしが生まれたことも知らなかったみたいだから別に責任とってくれとも思ってないしね。ただ、会えるなら会ってみたいかな」


 「そうですか」


 (『父親不明、会えるなら会ってみたい』…シズクさんの情報を集めるように言われていますがこれはあまり必要ないかもしれませんね)


 とシャロは思っているが、これこそある意味ランバートたちが知りたい情報だったりする。


 そうとは知らないシャロは話を変える。


 「でも、あの仕事って本当に大丈夫なんですか?」


 「そうなのよねえ。正直、ものすごく嫌な予感がしてるのよ。あたしはそういうのはしないけど、うちの会がする悪い事ってせいぜいセコイ詐欺の片棒やかっぱらいくらいなのよね。今回の『誘拐』は完全にヤバいわよ」


 今回、死神会のケツ持ちである『兄ィ』が持ってきた仕事はある貴族の『誘拐』だ。


 『兄ィ』いわく、悪徳貴族を懲らしめるためだから、『誘拐』して身代金をとっても悪くないという理屈らしいが、どう考えても『誘拐』する側が悪いに決まっている。それに本当に『誘拐』だけで済むのか怪しいところだ。『誘拐』にかこつけた『暗殺』かもしれないのだ。


 しかし、短絡的な事しか考えなくて物事を自分たちの都合のいいようにしか解釈しない不良少年たちはそれを悪い事だと判断できていない。


 「『誘拐』だけじゃなくて小さな詐欺にしろ、窃盗にしろ、人様に迷惑をかけるのは良くないですよ」


 シャロは潜入捜査であることを忘れたかのように、まともな事を言ってしまっている。


 「だからあたしはしてないって」


 「シズクさんがしなくてもです。良くないことですよ。そんな事を続けていたらいつかみんな捕まりますよ」


 「真面目なのね。本当にうちの会に入るのはやめた方がいいんじゃない?」


 シズクはシャロの言葉を田舎の真面目な純粋な子だから、としか受け取っていない。さすがにこんなにまぬけな事を言う潜入捜査官が存在するとは誰も想像しないだろう。


 しかし、シャロの予想外の行動はさらにぶっ飛んでいく。何を思ったのか、


 「決めました!シズクさん、私とこの死神会を乗っ取りましょう!」


 「…は?」


 あまりのことにシズクは目が点になっている。


 「だって、シズクさんだって悪い事は良くないと思っているから自分はしていないんでしょう?だったら私とこの死神会を乗っ取って真面目な組織に変えましょう!」


 「あなた…何言ってるの?」


 今日初めて会ったばかりなのにとんでもない提案を真顔でしてくる女の子にシズクはちょっと恐怖を覚えている。


 「私と私の魔獣、そしてシズクさんが居ればできますよ!」


 「いや、でもそれはさすがに…」


 「大丈夫です!!やりますよね!?」


 「あっ、うん…」


 眼を目をらんらんと輝かせたシャロに両手を握られて思わずシズクはうなずいてしまう。


 その迫力におされた形になったが、シズクは(それも悪くない)と判断する。


 確かにこの少女の言うように『誘拐』までしてしまったら完全に反社組織として認定されて、それこそ帝都の治安組織に目を付けられかねない。この辺りで手を引くのが、仲間のためになると思ったのだ。それにこの少女と魔獣がいれば死神会を抑える事はできるだろう。


 「そうと決まれば話は早いです。さっそく、乗っ取り計画をたてましょう!」


 (我ながらスゴい名案を考えついてしまいました!この組織を全容を調べるように言われていましたが、私のものにしてしまえば全部わかりますからね!その上、セコイ悪事から足を洗わせる事ができたら一石二鳥です!いえ、私はヒリヒリしたシチュエーションに出会えるから一石三鳥ですね!)




                      *


 

 シャロが潜入捜査を開始して三日後、ミラリオの元にシャロからの密書が届く。


 『組織を乗っ取りました』


 そう書かれた紙を握りしめながらミラリオは頭を抱えるのだった。

次回は 060 反社組織 です。


何か主人公が最近出てませんね。次回は多分出ます。多分。

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