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058 潜入捜査

 (こんなにすんなりいってもいいものでしょうか?)


 潜入捜査におもむいた三番隊隊員のシャロは拍子抜けしていた。


 指定された街の不良たちの集まる建物の近くにたむろしていたそれらしい少年に声をかけて話をしたところ、あっさり中に入れてくれたのだ。


 「お前か?俺たちの仲間に入りたいって奴は」


 ボスらしい二十歳くらいの男がにらみを利かせながらシャロに上から下まで視線を這わせる。一応この中では強い方だろうがシャロから見たらただの三下にしか見えない。


 「はい、この帝都で一旗揚げようと田舎からやってきたのですが『死神会』の噂を聞いてぜひともお仲間に加えて頂きたいと思いましてこうして参上した次第です」


 生真面目に答えるシャロは田舎から出てきた駆け出し冒険者としては少し堂々とし過ぎているし、口調もおかしいが誰もそれを気にしていない。それどころか「俺たちも有名になったもんだな」と調子に乗っている。


 これが少しでもまともな組織なら多少疑ってかかるところだが、街の単なる不良少年の集まりならこんなものだろう。


 なにより『死神会』の彼ら自身が自分たちが大した事のない集まりだと自覚しているのでまさか警察組織の、それも執政警邏隊の手入れがはいるとは考えていないのだ。


 (『死神会』…。う~ん、これは本気で考えた名前なのでしょうか?相当ありがちな感じがします。実際、私の故郷でも同じような不良少年組織が『死神会』を名乗っていたような…。まさかここが本部で故郷のものが支部とかじゃないでしょうし…)


 この組織が大した事がないと判断してシャロが緊張感のない事を考えていると、


 「まあ、いいだろう。俺たちの仲間にしてやる。ただし、絶対に仲間を裏切るんじゃねえぞ!俺たちは魂の仲間なんだからな!」


 「はい、絶対に裏切りません!」


 ドスを利かせた声で言うボスにシャロはいい返事をしているが、もちろん裏切る気満々だ。


 「それじゃあ、よろしくな」


 下卑た笑いを浮かべながらシャロに触れようとするボスにレッドウルフ(ワルキューレちゃん)が「グルルルルっ」と低い唸り声を上げる。


 「ひっ!」


 ボスは慌てて手を引っ込める。


 「おやめなさい」


 ワルキューレちゃんを静かに諭しているシャロだが、その心中はさっそくわくわくしている。


 (おっ、キレちゃう?キレちゃう?ワルキューレちゃん、キレちゃう?短気な所、見せちゃう?!)


 そんなシャロの期待に反してレッドウルフは大人しく引き下がる。


 (あれー!?ここでキレないの?話が違うなあ…なんで?)


 かなり間違った疑問を持つシャロをしり目にワルキューレちゃんはスンとした表情に戻っている。

 

 (コイツラ、ゼンブ、コロセル。デモ、デキルダケコロサナイ)

 

 実はワルキューレちゃんはランバートからシャロを守るように言われているが、できるだけ相手を殺すなとも言われているのだ。


 「それにしてもずいぶんデカいレッドウルフだな」


 自分たちを簡単に殺せる存在とも知らずに感心したように言う別の少年に、シャロは平然と答える。


 「私の田舎ではだいたいこれくらいの大きさですよ」


 「マジかよ…。田舎ってすげえな…」

 

 そんなわけがないのだが帝都の都会っ子たちは純粋に信じている。


 「いくら一人旅って言っても今どき魔獣を連れているなんて珍しいな」


 「確かにな~。ちょっと前に魔獣を探してる組織があったから俺たちも探したけど、人に慣れた魔獣は見つからなかったよな。いればかっぱらおうとおもったのによ」


 (え?なんか話が違いますね。ランバート参謀官は旅を始めたばかりの単独の冒険者は魔獣を連れているのが普通みたいに言っていましたが…)


 シャロ自身は地方出身とはいえ騎士の出なので一般の冒険者の事情に詳しいわけではないのでランバートの『単独行動の旅の冒険者が護衛の魔獣を連れているの珍しくない』という言葉を鵜吞みにしていたのだ。


 そんなシャロの疑問に頭をモヒカンにした、いかにも頭が悪そうなタイプの不良がアンサーをくれる。


 「昔は流行っていたみたいだぞ。10年くらい前は単独で旅立つ冒険者が魔獣を連れて行く事がよくあったらしいって俺の親父から聞いたことがある」


 (10年前って…)


 思わぬジェネレーションギャップを感じて思わずこけそうになるシャロだったが、


 「いっ、田舎ですからまだ流行っているんです。わたしの故郷では」


 と強弁して乗り切る。


 これ以上、注目を集めたくないなと思っているところへ目つきの悪い、だけどまだ子供の顔をした少年が駆けこんで来る。


 「大ニュースだ!俺たちが正式に組織の一員として取り立ててもらえるらしいぞ!」


 「マジか!?」


 「ああ!兄ィが教えてくれたんだよ。今度俺たちに頼みたい仕事があるらしいんだけど、これが成功したら俺たちを正式に兄ィたちの組織に入れてくれるって言うんだよ!」


 兄ィというのは多分この少年たちのケツ持ちの男で、彼らの様な子供の遊びの延長と違って本物の反社組織の一員だろう。


 「これで俺たちもビッグになれるぜ!」


 「ああ!やったな!」


 「『邪神会』の奴らの悔しがる顔が目に浮かぶぜ」


 (『邪神会』。ライバル組織でしょうか?こちらも月並みな名前ですね…)


 どんな事をさせられるかも知らずに興奮している少年たちに水を差すように一人の少女が冷静な声で口を挟む。


 「…あたしは反対だね。どうも話がうますぎる気がするよ」


 「なんだよ、シズク。ずいぶん臆病な意見だな。お前らしくもねえ」


 「適当にバカやってる分にはあたしも文句はないけどね。本格的な組織に所属するなんて分不相応だよ」


 「そんな事言うなよ~。シズクは俺たちの中でも重要な戦力なんだからよ」


 ボスに猫なで声を出されているシズクと呼ばれている少女をシャロは横目で見る。


 (これがターゲットね。確かに他のその他大勢よりはできそうですね)


 この集団の中で特に気を配るようにミラリオから名前が上がっていたのがこのシズクだ。


 シャロは知らされていないがこの少女こそ数日前にランバートたちに尾行されていた少女なのだった。

次回は 059 シズク です。

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