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06 論理 (論理とは)

 今度こそ立ち去ろうとするランバートに 、


 「貴様、私に雇われる気はないか?」


 マーガレットは自分の口から出た言葉に(私は何を言っているんだ!?)と自分で混乱する。だが、口から出たものは仕方ない。バツの悪い顔でランバートの反応を見るとかなり呆れた顔をしている。


 「金だけもらって仕事をしないって言ったばかりの俺を雇おうとするなんて何を考えてるんだ?」


 ランバートに冷静に指摘されてマーガレットは自分がいかにまぬけな行動をしているか気づいて恥ずかしくなったが、


 「私の事を嫌いではないと言ったではないか!それなら雇われてもおかしくはないだろう」


 後に引けないと思ったのか、かなり飛躍した論理を展開するマーガレットだ。


 ただ、自分でも無理があるとわかっているのか『氷の』らしくない紅潮をしている。


 (俺をハメるつもりか?)


 さすがにランバートはマーガレットの言葉を素直には受け取らずに疑ってかかる。まさか暗殺(未遂とはいえ)のターゲットにスカウトされるなんて普通はあり得ない。


 しかし、マーガレットの言葉には嘘はない。


 実はマーガレットは人材を求めている。


 生まれながらの王女なので当然、部下は大勢いるが、皆、レイ王家に仕える貴族の家系の者たちばかりでよく言えば真面目で忠誠心があついが、悪く言えば応用がきかない。


 執政官としてのマーガレットは少々素行が悪くても()()()()()()()に使える人材が欲しいのだ。


 しかし、外部に人材を求めるのは意外と難しい事をマーガレットは知っている。


 自ら売り込んでくる者はだいたい自分の功績を過大なものにして話してくるので、裏取りをしなければ全く能力のないとんでもないペテン師であることがある。


 『数々の偉業を成し遂げた英雄』というふれこみで面接に来た男がいた。確かに一見堂々としていて風采がよく押し出しも立派な者だったが、実際の所は本人の能力は標準以下で口先三寸で『英雄』の座にのし上がっていただけの者だったのだ。


 この点ランバートはそれなりに厳重だったはずの警備をかいくぐって、あっさりとここまで侵入してみせたのだ。機転が利いて、腕が立つ人物であることを(はか)らずも実証した形になっている。


 少々変な性格であることに目をつぶればお買い得な人材だと思ったらしい。


 しかし、このランバートを『少々変な性格』で済ませるあたりこの『氷の執政官』もかなり変な人物なのだろう。ある意味似た者同士なのかもしれない。

 

 「雇うっていうが仕事内容は?言っておくが暗殺ならお断りだぞ」


 もともと暗殺に来たくせに変な事を言うランバートだが、マーガレットもランバートを暗殺に使う気はない。


 「わかっている。貴様は暗殺者にはむかん。それに私は暗殺という手段は使わん。暗殺で成し遂げてもそれは一時的な処置にすぎんからな」

 

 「ご立派だな」


 いちいち(かん)に障る反応をするランバートだが、悪気はないらしい。


 だからこそこれほどの腕を持ちながらこんな身分に落ちているのだろうとマーガレットは推察して話を続ける。


 「執政警邏隊(しっせいけいらたい)という組織がある。いわゆる治安維持組織だがそこに所属して私の命令で動いてもらいたい」


 「軍隊とは違うのか?」


 「詳しく話せば長くなるが既存の軍隊とは違うな。執政警邏隊は私の直属の組織で、国軍からは独立している。今言ったように治安維持を目的に犯罪者の取り締まりや、市中の秩序の維持に当たっている」


 「なんかあんまり俺に向いているとは思えないがな」


 ランバートは乗り気ではない。基礎的な能力は高いのだが、こういう積極性のないところが評価されないところなのだろう。嘘でもいいからやる気をしめすのが就職には役立つのだ。


 だが、今回は雇用側がランバートを欲しているのでマーガレットは諦めない。


 「もちろん貴様に通常の警邏隊員を望んではいない。便宜上(べんぎじょう)警邏隊に所属させるだけだ」


 「それで結局俺に何をさせようって言うんだ?」


 執政警邏隊に所属するのはわかったが、実際の仕事内容はいまいちハッキリしない。


 ランバートの問いにマーガレットは宙をにらむと、


 「…まだ考えていない」


 と他人事のようにいうのでランバートは思わずズッコケている。


 実際、今すぐにして欲しい事があるわけではないのだ。ただそれでもランバートを雇いたいという熱意はあるのでしつこく勧誘するマーガレットに、

 

 「貰った金を持ち逃げするかもしれないぜ?」


 ランバートが言うと冗談にならない事を言っているが、マーガレットは平然と答える。


 「構わん。まあ月給制にするがな」


 さすがに一度に大金を盗られるリスクは踏まないらしい。


 「ちなみにいくらくれるんだ?」


 「ひと月につき金貨10枚出そう。その他の必要経費は別で出してやる」


 この金額はこの国の高級将校並みの扱いだと言っていいだろう。さらに必要経費が出るというのはランバートの興味を引いた。


 「わるくないな」


 ランバートが前向きな反応をしてきたのを見てマーガレットはもう一押しする。


 「今なら支度金として金貨5枚だしてやろう」


 「!?」


 金貨5枚に反応したランバートに更に追い打ちをかけるように、


 「ちなみに今から30秒以内限定だ。いーち、にー、…」


 怪しい通販サイトみたいなことを言い出したマーガレットに、


 「わっ、わかった。いいだろう。執政警邏隊とやらになってやるよ!」


 つい承諾の返事をしてしまったランバートはあとあとになって(なんか思ってたのと違う…)と後悔することなるとはこの時はまだ知らないのだった。

次回は 07 月給 (毎月25日払い) です。

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