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053 したたかな相手

 ジャービスは自分自身の行動に驚いていた。


 ウォーベックを裏切っている事の後ろめたさはあるが、それは命を懸けるほどの事ではない。今のジャービスにとってもっとも大事なのは師匠のウォーベックではなく執政銃士隊の三番隊長であるジュディだ。


 そのために危険な辻斬りでウォーベックの刺客でもあったブラッドをランバートに殺させたのだ。


 そこまでは予定通りだったのだが、


(ランバート参謀官が本気で戦っているのを見ましたが、私でも対応できないほどでもない気がします)


 と思わぬ感想を抱いたことがランバートに戦いを挑む言葉を投げかける結果につながっていた。


 とは言っても今の自分も実力ではランバートに及ばないのもちゃんとわかっている。


 しかし、まるで勝算がないわけではない。ランバートは治したとはいえついさっきまで左腕が斬り落されていた。それこそまともには動かせないだろう。さらにジャービスはランバートの奥の手を知ってる状態だ。


 これほど有利な条件でランバートと戦う機会が自分にそろう事はない今後ないだろうと思うと、剣士としての血が騒いだのだ。


 ジャービスもウォーベックの数少ない弟子に選ばれただけあってその剣の才能は凄まじいものがあり、冷めているように見えても自分の限界をまだ知らない若さがある。


 要は自分の剣士としての力がどこまで通用するか試してみたくなったのだ。


 ランバートが自由に動かせるのが右腕だけだとしたら自分に分がある。そう考えての挑戦だった。


 しかし、勝負はあっさりとついた。


 それこそブラッド戦以上にランバートはジャービスの動きをコントロールして完全に主導権を握ったままジャービスに自力ではまともに動けないような傷を負わせている。


 (イメージは悪いけど、あの辻斬りの技が役に立ったな~)


 ウォーベック流の技を独自に変化させたブラッドの技はウォーベック流の正当な技を使うジャービスに対して極めて有効だった。


 「なぜ本気の技を俺に見せた。お前ほどの者ならそれがどういった結果につながるかわからないわけでもないだろう」


 辻斬り対策としてジャービスはは本気の技をランバートに見せていたことによって、ランバートを殺せる可能性がなくなっていたのだ。


 手の内が完全にわかっている相手にランバートが負ける事はありえない。ランバートの真の強さは相手を知った上での対策のうまさにあるからだ。逆に言えばよく知らない相手に対しては過大評価をするという欠点もあるが。

 

 「…言ったでしょう。あの辻斬りを野放しにする事は出来ないって。あなたには確実にあいつに勝ってもらいたかったんですよ。自分が戦うときに不利になるとしてもね」


 「お前も適当に見えてなかなか面倒な性格をしているな」


 やたら口数の多いランバートだが、それには理由がある。


 (やるんならもっと早く致命傷を与えるべきだったなあ。この状態でとどめを刺すのはちょっとやりにくいぜ)


 わりとあっさり敵を殺すこともあるランバートだが、それは勢いに任せて殺している時だ。決着がついた後で気持ちが落ち着くと、とどめを刺すのがなんとなく面倒になるのだ。これは優しいというよりは本当に面倒くさいだけらしい。


 (でも、ここでやっておかないとこいつはもっと面倒な相手になりそうだからな)


 生かしておいたら面倒くささがより大きくなることを危惧したランバートが殺すことを決意したその時、


 「ジャービス!」


 そこに飛び込んできたのはジュディだ。


 「ジュディ隊長、どうしてここに…」


 「あなたの様子がおかしかったからに決まっているでしょう。この庭園は私の家の物なんだからわかるにきまっている」


 ジュディはいつものような神秘的に見せるような話し方ではなく、その感情をしっかりみせている。


 すなわち(こんなに心配させるなんて!)と怒っているのだ。


 「…隊長、意外と考えているんですね。いつも口先だけで話していると思ってましたよ」


 かなり失礼な減らず口を叩いているジャービスだが息は荒い。


 そんなジャービスに文句を言う事もなくジュディはランバートに向き合うと、


 「何があったのかは聞かない。だけどジャービスを殺さないで欲しい」


 「嫌だと言ったら?」


 「私の命に代えても止める」


 両手にナイフを持ってランバートを見据えるジュディに、


 「ジュディ隊長、バカなことはしないでください」


 ジャービスが力なく言うがジュディは無視だ。


 「そのナイフで俺と戦うつもりか?」


 呆れたように言うランバートはジュディがナイフ投げを得意としているのを知っているが、その腕前は一流ではあるがランバート相手では脅威にはならない。


 「私ではあなたには到底かなわないのはわかってる。でも、あなたは私を殺せない」


 「どうしてそう思うんだ?」


 「私は執政銃士隊の幹部だから」


 ジュディは自分自身を人質にしている。ジュディは執政銃士隊の幹部にして帝国の大貴族の娘なのでランバートも迂闊に手を出せないと思っているのだ。

 

 (思ったよりもしたたかだな。まあ、こんな庭園があるような大貴族なら確かに殺すと後々面倒になりそうだな。例えこっちに正当な理由があったとしても)


 「今回は見逃してやるよ。これは貸しだからな」


 ランバートは見逃すと言いながらしっかり『貸し』にしておくというがめつさを見せている。転んでもタダでは起きないで絶対に何か握っておこうということだろう。

 

 「貸し…。少しだけ返す」


 そう言ってジュディは金貨の入った革袋をランバートに投げる。


 「俺はそういうつもりじゃあ…。まあ、貰っておいてやるけど」


 思わぬ臨時収入(革袋の重さ)に頬のゆるみを隠せないランバートを見て、


 (ミラリオの言った通りね。参謀官にこんな一面があったなんて知らなかった)


 ジュディはほっとした表情を見せるとジャービスに治療魔法をかけていく。


 「大丈夫、ジャービス?」


 「まったく無茶しないで下さい。あなたを危険な目に会わせたくないから私がした苦労を無にするつもりですか」


 「無にはならない。勝算はあった。私を殺すわけにはいかないから」


 「隊長はバカですねえ。そこに転がっている辻斬りのせいにすれば私たちなんて殺しても問題ないんですよ。ランバート参謀官はそれがわかっていながらジュディ隊長の浅知恵にのってくれたんですよ」


 全く、この人にはかないませんね。とランバートをずいぶんいいように見ているジャービスの言葉に、


 (そうだったー!確かにこの辻斬りせいにすればどうにでもなってた!)


 「まっ、そんなところだな」


 たった今気付いたくせにカッコつけるランバートなのだった。


次回は 登場人物7章ほか です。

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