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047 幹部会議


 執政警邏隊本部の一室では恒例の『執政警邏隊幹部会議』が開かれていた。この会議は文字通り執政警邏隊の幹部たちが一堂に会するもので、月に一回開かれている。(臨時に開かれる場合もある)


 参加するのは執政官マーガレットをはじめとして総隊長サミュエル、参謀官ランバート、その他各部隊の隊長たちといった執政警邏隊を代表する面々だ。


 議題はその時々によって違うが、主には執政警邏隊の担当区域における事件の対応を話し合う事が多い。それが現場にとって何かの役に立っているかと言えばかなり怪しいが、執政警邏隊の主な活動内容が市中の治安維持なのでこういった事を話し合うのがお偉いさんの仕事なのだろう。


 ちなみに今回議題に上がっているのは、ここ最近帝都で頻発している辻斬り事件についてだ。


 辻斬りくらいでは通常は幹部会議の議題にまで上がることはないのだが、今回は短期間での犠牲者の数が桁違いなので緊急案件として扱われているのだ。


 少し前にランバートが関わった辻斬り事件では辻斬りに見せかけた組織的暗殺だったのだが、今回は犠牲者の傾向がその時と違うので暗殺の線は消えている。なにしろ貴族から平民、老人から幼い子供まで狙われているのだ。


 さすがに平民の子供相手の暗殺依頼が出る事はまずないだろうから(誘拐ならまだありえるだろうが)正真正銘、無差別な辻斬りだろうと判断されている。


 ただ、今回の事件は犠牲者以外の事はほとんど情報がない。目撃者もいないため辻斬り犯については全く手がかりがつかめていないのが現状なのだ。


 これでは対応を話し合うと言っても、捜査の人員を増やす程度の案しかでてこないのだがその程度の話し合いでも仕事になっているらしい。


 (はあ、めんどくさいな)


 こういう場に慣れていないランバートがそんな事を思っているとも知らずに議長役のサミュエルが話を振ってくる。


 「ランバート参謀官は何か意見はないのですか?」


 数々の事件を(結果的には)解決してきたランバート参謀官ならなんとかできるだろうとすっかりあてにされるような空気がある。


 「そうですね…。さすがに情報が少なすぎるので捜査が進むのを待つしかないかと」


 それらしい顔で、それらしいことを言っているが、要は(まだよくわからんし、何もしない)という事だろう。幹部会議に出席し始めた頃は発言に困っていたランバートも最近はこんな具合に言い繕うのが上手くなっている。


 「うむ、そうですな。今は捜査が進むのを待つしかないですな」

 

 「仰る通り、捜査をしっかり進めていくしかないですな」


 ただの(よくわからん)という意見なのに、ここ最近目覚ましい活躍をしている参謀官にすり寄ろうとする幹部たちも少なくないのか隊長たちはしきりに意味のない相づちを打っている。


 五番隊隊長のブーティカあたりがいたら鉄扇でテーブルを『バアンッ!』叩いているところだろうが、あいにく五番隊は市中の見回りにでているので不在だ。


 (皆、あからさまな追従をあの男(ランバート)に言っている。少し頭角を現した者がいるとあの態度とは情けない連中だ。もっとも、あの男(ランバート)はそんなものに惑わされる事はないだろうがな)


 見苦しいほどランバートに媚びている者たちがはびこる会議の様子を苦々しく見ているのはマーガレットだ。


 マーガレットは基本的には会議では部下たちに発言を任せている。そして、最後に二言三言だけ言い添えるタイプの上司だが、それだけに部下たちの態度をよく観察しているのだ。 


 執政警邏隊はマーガレットに忠誠を誓った優秀な者を集めているが、中には家柄をはなにかけてロクに働かない者もいる。そしてそのだらけた者たちを活を入れるためにランバートという劇薬を参謀官に抜擢したのだ。


 今のところその目に狂いはなかったようでランバートはマーガレットの望むような活躍を見せていて、他の者たちも刺激されて任務に励むようになっていた。


 しかし、最近のランバートはマーガレットの目論見(もくろみ)と少々違ってきていた。


 (まあ、そうだよなあ。俺の意見にみんなも納得しているし、やっぱ俺ってすごいわ~。ようやく世間が俺に追いつて来たって感じですか?これは!)


 今まで自分の実力を認められていなかったせいなのかこのちょろい男は熟練の隊長たちの見せすいたおせじに簡単に気持ちよくなってしまっていたのだ。


 「でも、ランバートさんならこの状況でも何か打つ手があるじゃないですか?」


 そんないい気分になっていたランバートに水を差すのは三番隊隊長ミラリオだ。最近のミラリオはランバートに対して身も蓋もなくなっている。


 (ちっ、相変わらずお嬢ちゃんは真面目だぜ…)


 ランバートはミラリオに向き直るとにこやかに答える。


 「ミラリオ隊長。私は今は闇雲に動くべきではないと言っているんです。必要でないときに動かない、それも大事なことですよ」


 色々理屈をこねているが(俺は何もせん!)という事を偉そうに言っているランバートに、


 「そうですな。まさに参謀官の言う通り」


 「動かない事も時に重要と言うことですぞ。参謀官が正しい!」


 と他の隊長たちもそれを非難するどころか追随している。


 その様子を見てドヤ顔でうなづいているランバートに対して、


 (こいつ…ダメなヤツになってないか?)


 とマーガレットは不安になってくるのだった。





                      *



 ランバートは執政官室に呼び出されていた。ランバートが執政官室に呼び出されるのはよくあるのだがその日は少々空気が違っていた。


 「貴様は少々天狗になっているようだが、油断するなよ。白龍会は間違いなく貴様の命を狙っているぞ」


 マーガレットはランバートが地方視察に行っている間に調べると宣言していた白龍会の動向をしっかり調べていたのだ。


 なぜか白龍会会頭のウォーベックは不在だったようだが、白龍会全体の動きは調べがついていた。ただ、白龍会に指示を与えている黒幕については巧妙に隠されていてまだたどり着けていない。


 しかし、その中で重要な情報として入ったのが白龍会はランバートの命を狙っているという話だ。


 「そうですか。それは大変ですね」


 隊長たちにおだてられて調子に乗っているランバートはまだ参謀官モードで話をしているが、その心中は、


 (マジか~。俺も命を狙われるほど大物になったわけだ!いやあ、俺も偉くなったもんだよ!)


 とわかりやすく増長していた。報われなかった者が急に立場が良くなると人間がダメになるというあれである。


 (こいつは本気でお灸をすえないとダメか?)とマーガレットは心の中でため息をつく。

 

 「…さすがにウォーベックが自ら出てくる事はないだろうが気を引き締めろよ。白龍会には手練れがいるぞ。それこそ我ら執政警邏隊よりも強いくらいだ」


 情けない姿見せていた部下たちに対する反感もあってかマーガレットは執政警邏隊を下げるような言い方をするが、ランバートは意外にも反論する。


 「そうでもないだろう。ここにだって強い奴らはいるぞ。俺を倒せる可能性があるやつが10人はいるからな」


 「そうなのか?まあ、戦闘に関してはお前の方が眼は確かだろうが…」


 いつの間にかいつもの口調に戻っているランバートの言葉をマーガレットは話半分で聞いているが実はランバート自身、本気でそう思っている。


 ランバートが執政警邏隊の参謀官になってから半年が経とうとしているので、執政警邏隊の隊員たちの実力はほぼ把握しているのだが、(10人はいる)というのがランバートの感想だ。


 単純な実力だけで言えば執政警邏隊のなかで自分より強い者はいないだろうが、手違いがあれば自分に勝つ事がありそうなの者が10人ほどいると思っている。


 300人程度の組織で10人も自分に勝てるかもしれない者がいると考えると、いかに自分が最強から程遠いと痛感してしまう。


 (俺を倒せる奴10人いる…。あれ?俺ヤバくね?そんな状況で調子こいてるのヤバくね!?)


 よく考えたら自分を倒せる者が10人もいるのに調子こいているのはなかなか恥ずかしい事に思えてきたのだ。


 「…暗殺の件だが、まあ、気を付けるよ」


 ちょっとしおらしくなった態度で言うランバートに、マーガレットも一安心する。もっとも、安心したといってもランバートの身を案じたというよりは、おだてられて腑抜けになっているのを心配していたようで、


 (こいつが増長するようでは参謀官にした意味がないからな)


 と思っているのだ。


 「用はそれだけだ。帰っていいぞ」


 マーガレットの言葉にランバートがドアを開けようとしたその時、激しくノックされる。


 「サミュエルです!火急の報告に参りました!」


 「入れ」


 マーガレットの一言にサミュエルがドアを開けて入ってくる。ランバートの姿に一瞬怯んだようだったが直ぐに報告をする。

 

 「申し上げます!6番隊隊長レオポルドが何者かに殺されました!」

 

 「なに!?レオポルドが!?バカな、信じられん!」


 マーガレットが珍しく声を荒げている。


 そしてランバートも騒ぎこそしないが動揺していた。


 何しろ『自分を倒せる10人』のうちの一人がやられたのだから…。

次回は 048 現場検証 です。

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