041 反乱分子
「反乱!?それは本当なのか?いや、シャロが言うのなら間違いないだろう。よく知らせてくれた。すぐに対策を…」
にわかには信じがたい話だがミラリオはシャロの事をよほど信頼しているのか、すぐにそれを事実だと認めて対応しようとするがランバートがすかさず口を挟む。
「待ってください、ミラリオ隊長。あの代官代行が反乱分子と結論を下すのは早計ではないでしょうか。もしも地方にありがちな内部的な権力争いだとしたら私たちが下手に干渉するのはよくありません。よく事態を確かめてから行動するべきでしょう」
一見、ランバートが参謀官として慎重な判断を促している。ように見せかけていると、それを真に受けたシャロは訴えかけるような目になって、
「あの…、本当なんです!本当に代官代行は反乱を起こそうと…」
必死に言い募ろうとするのをミラリオが手で制して、ランバートに向き直る。
「シャロ、別にランバートさんはお前の事を疑っているわけでないのだ。ランバートさん、さすがにもう無理ですよ。わたしのせいでいいですから話をすすめましょう」
(この人はまだ諦めてなかったのか)とミラリオは呆れながらも、シャロに続きを話させる。
シャロはミラリオがなんのことを言っているのかわからなかったが、話を続けていいようだったので続ける事にする。
「あのディアスは一年前に現地登用された事務官だったのですが、かなり有能な男であっという間に代官のシュテファン様の右腕とまで呼ばれるほどに重用されるようになりました。勤務態度も真面目で謹厳な者だったのでシュテファン様も大いに気に入られていたのです。しかし、それは全てこのセンビースを彼らの本拠地として手に入れるための芝居だったのです」
その時の事を思い出したのか悔しそうに語るシャロ。
「それでシュテファンは無事なのか?」
「シュテファン様は今はディアスたちに軟禁されています。彼らの企みに気付いた時にはすでに遅く、何名かの者は抵抗したのですが、あのディアスは恐ろしい腕前の持ち主で全て殺されてしまいました。その時の戦いでシュテファン様も大けがを負いましたが生きてはいます」
「本当に生きているのか?」
「はい、それは間違いありません。今も私たちに定期的に会わせてくれています」
「ちゃんと生かしておくとは反乱分子にしてはずいぶん律義なのだな」
シュテファンの無事に胸をなでおろすミラリオは変な事に感心しているが、
「ひとおもいに殺さないのは彼女たちに対する人質にするためでしょう。人質は生きているからこそ価値がありますからね」
ランバートもようやく諦めたのか話に干渉し始める。
「まあ、彼らが反乱分子だとしたらですが」
…まだ、完全には諦めていないようだ。
そんなランバートを無視してミラリオは話を続ける。
「いくら人質をとられてるからってここの騎士たちもそれなりに数はいるんだろう?反乱分子ごときに好きにさせすぎじゃないのか」
ミラリオは情けない奴らだと言いたげな顔だ。この辺りはこのお嬢様の世間知らずが無意識に出ている。
「それが…敵側にもかなりの数がいるのです。少なく見積もっても500名以上います」
「500?そんなにいるのか!それでは反乱分子どころか反乱軍ではないか!」
シャロがためらいがちに言うとミラリオはその規模に驚いている。反乱分子と言っていたのでせいぜい数十名規模だと思っていたのだ。数百単位でいるとなると話が違ってくる。
「どうしてそんな数が、いや今さらそんな事を言ってもはじまらないか…」
少し考えるように口に指をあてて目を細めるミラリオに代わって今度はランバートが質問する。
「こちらはどれくらいの戦力がいるのですか?」
「今、まともに動けるのはせいぜい50名といったところです」
「戦力差が10倍もあるのですか。それではやはり下手に動けませんね。人質もいますし」
このままでは本当に反乱分子の事を無視してしまいそうなランバートにミラリオがくぎを刺す。
「しかし、ほうっておくわけにもいきませんよ。ランバートさんなら500人くらいなんとかなりませんか?ほら、だいたいいつもなんとかしてますよね?」
「無茶苦茶言わないで下さいよ。でも、まあ…とりあえず一人はやっておきますか」
そう言うとランバートが何もない空間に剣をふるうと、首を切り落とされた死体が現れる。
「えっ!?これは…」
「恐らく私たちの監視役でしょう。たぶん透明マントを使っていたんでしょうね。まあ、なかなか気配を消すのは上手でしたが私に相手には力不足のようでしたね」
「全然気が付きませんでした…一体いつからいたんですか?」
ランバートの非常識な行動に慣れているミラリオは驚きながらも質問できているが、シャロに至っては声も出せない。むしろこの状況で質問で来ているミラリオを(さすがだ)と尊敬の目で見ている。
「初めからいましたよ。私たちがこの部屋に来た時からね。最初は帝都から尾行してきた者かと思ったのですが、私を尾行していた者ならもっとうまく気配を消すでしょうから違いますね。おそらくドアの外の男はあくまで見張りでこの男に私たちの動向を探らせていたのでしょう。あえて生かしておいて私たちが代官代行を調べる気がないと報告させようかとも思っていましたが、ここまで聞かれた以上もはや生かしておくことはできませんからね」
淡々と説明するランバートはようやく腹を決めたようだ。こうなるとこの人は頼もしいとミラリオは思う。
「この死体はどうしますか?」
「外の男に引き渡しますよ。この部屋に曲者がいたので始末したとミラリオ隊長が報告してください」
「私がですか?」
「今は私が殺したことにしておかない方がよいでしょう。あなたは一応私の護衛という立場になりますし、あなたがした事にした方が自然ですよ」
「…ランバートさんを『護衛』できる人なんていませんよ?」
ランバートの実力を知っていればそれを『護衛する』などという事がどれほど不自然な事かと思うミラリオだが、今は言う通りにするしかないとも思うのだった。
*
「ずいぶんと警護が厳重だな。しかし、地方の視察というだけなのにこれほどの警護が出ているとは…。もしや私の存在に気付いていたのか?」
ランバートたちを帝都から尾行してた男は領主の館の警護の厳重さに驚いていた。
実際はランバートたちを守るためというよりは軟禁するために兵の数を増やしているのだが、そんなことになっているとは知らない者からしたら単純に警戒を厳にしているとしか見えないだろう。
「急な出立だったせいで思いがけず私が尾行することにしたが、面倒な事になったな。しかし、ある意味では私自身が来ておいて良かったのかもしれんな」
実はランバート達を尾行していたのは黒鬼会会頭、ウォーベックその人だった。
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