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040 代官代行

 「ランバートさんが苦労したのはわかりました。その話は後でたっぷり聞きます。それよりもどうしますか?あの代官代行のこと」


 ランバートが身の上話を始めたせいで脱線しかけていた本題に話をもどすミラリオだが、


 「どうしますかって言われてもなあ。俺はもともと俺を帝都で尾行していたヤツらをどうにかするためにここに派遣されただけで、視察自体は本来は何の問題のない定期的な視察だけだったはずだろ。なんでだたの視察がこうなるんだよ」


 ランバートはいつも命令された事以上の難事に巻き込まれていく己の体質を嘆いているが、


 「それはランバートさんが関わっているから…」


 「俺のせいか?」


 「だって、ランバートさんが関わるとほんの小さな火種だったものが森一つ焼くくらい燃え盛るんですよ。不思議な事に」


 あくまでもランバートに原因があるように言うミラリオにランバートが大げさにため息をつく。


 「俺としてはここの連中の力も借りて追跡者をハメるつもりだったんだがなあ。今の状態ならここの連中は当てに出来ないから俺たちだけで追跡者をなんとかするしかないな」


 「当てに出来ないなって、代官代行の事を調査しないんですか?」


 調査して問題なければ追跡者対策に協力してもらえばいいようなものだがランバートの考えは違うようだ。


 「調査しない。調べて面倒なことになっていたらそっちも解決しないといけなくなるからあえて俺は調べない!」


 「…こういう場合で調べないって選択があるんですかね」


 「ある、ここにある!」


 そう断言するランバートはその理由を説明する。

 

 「めちゃくちゃ嫌な予感がするんだよ。絶対今以上にめんどくさい事に巻き込まれる。だから俺は絶対に調べない!」


 ここ最近の出来事でランバートはかなり疑心暗鬼になっている。


 (かなりこじらせていますね)


 ミラリオは深いため息をつく。この参謀官様は高い能力を持っているのは間違いないのだが、どうもその能力を生かすのがお嫌いらしい。


 「じゃあ、私だけでも調査しますよ」


 「もし何かあっても俺のせいじゃないからな。俺は調べないんだから」


 しつこく念押しをしてくるランバートに、「()()()()()()」とミラリオも一文字ずつ強調して答えている。


 (よし、これで言質とったな)


 ランバートは安心したらもよおしてきたらしい。


 「どこへ行くんですか?」


 「便所だよ」


 そう言いながらランバートは部屋から一歩でたところで直ぐに引き返す。


 「便所くらい一人で行かせてくれってんだ。小便がひっこんじまうよ」


 そうつぶやいて透明マントを取り出すと再び出ていく。どうやら扉の前に待ち構えていた男がついてこようとしたらしい。


 二度もドアが開いたことに男は不審がったようだが、誰も出てこないのでまた持ち場に戻っている様子を見てランバートそのまま姿を消したまま便所に向かった。


 用を足した後は透明マントを外して戻ることにする。もう見つかっても部屋に戻るだけだし、さすがに出る時と違って外側からドアを開けるなら姿を現わしてないと難しいだろうと思ったのだ。


 しかし、この判断をランバートはすぐに後悔することになる。


 廊下ですれ違った十四、五くらいの騎士の格好をした少女がこちらをじっと見ていることに気づく。


 「あの、すみません。ランバート参謀官ですよね?ミラリオ様と一緒に来られた?」


 「そうですが…何か?」


 ふいに話しかけてきた黒髪の少女のひたむきな視線にランバートは嫌な予感がする。


 「ああ、良かった。お会いしたかったのですがなかなか接触するチャンスがなくて困っていたのです。実はランバート様とミラリオ様にお話がありまして…」


 詰め寄ってくる少女にランバートは皆まで言わせずに、


 「ミラリオ隊長に話があるのですね。わかりました。ミラリオ隊長のところに案内しましょう」


 「ありがとうございます!ランバート様」


 「いや、私には礼は必要ないですよ。あなたはミラリオ隊長のお知り合いなのでしょう?だからミラリオ隊長だけに用があると、そういうことですよね?」


 「はい、お二人をお待ちしていました」

 

 わざわざミラリオだけに用事があるのだと強調しているのに目を輝かせて『お二人』と言い換える少女。

 

 (こいつ~!俺がこれだけ言ってんのになんで俺も巻き込もうとするんだよ?!おかしくねえか)


 「とにかくミラリオ隊長に会わせてあげますから、まずはしっかりミラリオ隊長に会いに来た事を伝えて、それからミラリオ隊長に用件をお話して下さい、いいですね?」


 三回もミラリオの名前を出してさらに強調するランバートだ。これだけ刷り込んでおけば大丈夫だろう、そう思うランバートだが、


 「はい!ありがとうございます!」


 この真っすぐな感じは出会ったばかりのミラリオを思い出させて、やっぱり嫌な感じがするのだった。


                     *



 ランバートが貴賓室の前まで来ると、扉の前にいた見張りの男が驚いて声をかけてくる。


 「いつの間に出ていたのですか!?」


 「少しここの内装を見たかったの散策していました。気付かなかったのですか?」


 「困りますよ。私はあなたに付いているように言われているのですから」


 「まるで軟禁ですね」


 ランバートが少し嫌味っぽく言うと、慌てたように手を振る。


 「軟禁なんて、そんな。ただ、私はランバート様に不自由な思いをさせないためについているのですから。とにかくこれからは私がご案内しますから勝手に出歩かないで頂きたいのです」


 「わかりましたよ」

  

 ランバートはそれ以上は逆らわないで貴賓室に入っていく。ここであまり時間を使うのもよくないだろうと思ったのだ。

 

 そして、部屋に入って男の気配がドアから少し離れたのを確認して、

 

 「ミラリオ隊長、あなたに話があるという方をお連れしました。私ではなくミラリオ隊長に話があるそうです、あなたの知り合いですから」


 回りくどい言い方をしてランバートは少女にかぶせていた透明マントを外すが、

 

 「ありがとうございます!ランバート様!あのタイミングであなたに出会えなければ私はこの機会を得る事はできませんでした」

 

 少女はランバートにお礼を言ってスッと頭を下げてくる。


 (やっぱりランバートさんは厄介ごとを引き寄せて来ますよね)という顔でランバートを見るミラリオだったが、現れた少女を見てハッとする。


 「シャロ、シャロじゃないか!」


 「お久しぶりです、ミラリオ様」


 このセンビースに来て初めて見知った顔に会ったミラリオは嬉しそうだが、それ以上にシャロと呼ばれた少女も再会に感激して涙すら浮かべている。


 そんな中、自分が厄介ごとを引き寄せた事にされたランバートだけが苦々しい表情になっている。


 (これ、絶対面倒くさい事を持ち込んできた顔だよなあ。正直、関わりたくない…)


 「話があるなら私は出ておきます。見張りの兵士も気になりますから気を引いておきましょう」


 これ以上聞いたら引き返せないところまで話されそうなので、うまい事を言って部屋から出ようとするランバートだったが、


 「ミラリオ様、あの代官代行は実は帝国に対する反乱分子の首領なのです。このセンビースを拠点として反乱を起こすつもりなのです」

 

 (俺は出るって言ったのになんでいきなり芯をくったこと言ってんだ!?こいつ、今までの中で一番苦手かも…)


 ランバートは受付嬢ラナ以上に苦手な相手など存在しないと思っていたが、今ここにいる事を知るのだった。

次は 041 反乱分子 です。

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