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038 旅路

 レッドウルフ。血のように紅い体毛が特徴的な狼型の魔物である。大きさは個体差があるが成獣で大型犬より少し大きいくらいのサイズだ。


 単体での戦闘力は並みの冒険者なら一人で相手をできるCランク程度だが、群れを作って活動している場合その規模によってはベテランクラスがチームを組んで対処する必要があるレベルのAランクまで跳ね上がる。


 性格は好戦的でプライドが高いがその反面、リーダーと認めた者に対しての忠誠心は非常に高いので魔物使いが使役したい魔物として人気がある。


 「ランバートさん、本当にそれで行くんですか?」


 白馬に乗ったミラリオはワルキューレちゃん(レッドウルフ)にまたがったランバートに無遠慮な視線を向けてくる。


 「仕方ないだろ。俺が帝都を離れると言ったら厩舎番がこいつを置いて行ったら困るって言うんだから」


 ランバートが最近飼い始めたペット?であるワルキューレちゃんは執政警邏隊の厩舎に預けられていたのだが、厩舎番いわくランバートが定期的に姿を現さないとワルキューレちゃんが不穏になるとのことなのだ。


 もちろん不穏になると言ってもあからさまに暴れだすわけではないが「眼が怖い」感じになるらしい。そのため三日に一回はランバートが様子を見に行っていたのだが、視察の旅に出るとそれができなくなるので「預かれない」と泣きつかれたのだ。


 「まあ、大きな騒ぎにならないといいですけど」


 「これでも気は使ったんだよ」

 

 ランバートはワルキューレちゃんに立派な鞍を付けて、顔にも仮面型の飾りをつけて人が使役しているのを分かるようにしている。こうでもしないとこれほど規格外の大きさのレッドウルフが街中をうろうろしていたらそれだけで大騒ぎになるだろう。


 現に執政警邏隊の本部を出発してから帝都の街中でもかなり目立っていたが、執政警邏隊の白服と赤服の二人なので正面から問いただしてくる者はいない。


 しかし、好機の眼にさらされている居心地の悪さを感じてミラリオはため息をつく。

 

 「…何でもありですよね。ランバートさんは。いっそ空でも飛んで行ったらどうですか?」


 会うたびに思いもよらない事をしているランバートに割と本気な顔で言うミラリオに、


 「やめろ!本当にそうなったどうするんだよ…」


 怒るランバートは最後には愚痴っぽい言い方になる。


 ここ数か月の自分の身に起こった出来事を考えると、常識ではあり得ない事が自らの身に起こる事が日常になりつつある。


 (俺がなにしたって言うんだよ…)


 そんな風に思っているランバートだが、そのトラブルの原因はランバート自身にもある事に全く自覚はないらしい。


 今も『これから参謀官が帝都を出ますよー!帝都から旅立ちますよー!』とめいっぱい主張しながら出発しているようなものなのでランバートを尾行していた者からしたら『罠か?』と思うところなのだが実際は何も考えてないだけだ。


 その行動は「だってしょうがないじゃないか」的な発想なのだ。普通なら知恵と工夫で乗り切るところなのだがランバートには力押しでどうにかなるところがあるのでよりよいやり方をあまり考えないらしい。


 帝都の北門を出て人目がなくなったところでランバートがミラリオに確認する。

 

 「それで今回行く姫さんの領地までどのくらいあるんだ?」


 「普通の馬なら4日程度ですね」


 普通の馬と言う時にワルキューレちゃんの事を見ているような気がしたがランバートは華麗にスルーする。


 「結構あるんだな。まさか途中で野宿はないよな?」


 今までの人生で散々野宿をしてきたランバートが贅沢な事を言っているが、


 「宿は各町に官舎がありますから。私がちゃんと手配しておきました。私だって野宿は嫌ですからね」


 ミラリオは自ら手配したように言っているが、このお嬢様隊長がそんな事を自分でするわけもなく部下に一声「やっておいて」と命じただけで部下たちが調整したのだ。


 「道案内は任せても大丈夫か?」


 ミラリオが詳しいようなのでランバートが確認すると、力強くうなずく。


 「私は姫様のお供で何度か行った事ありますから大丈夫ですよ。3年前にも一度訪れています。田舎ですがよいところですよ」


  その情景を思い浮かべたのかミラリオは自然に笑顔になるのだった。

 


 

                         *



 何事もなく二日ほどたち、目的地までの行程も半分を超えたところでランバートがミラリオに話しかける。

 

 「気付いたか?」


 「え?」


 「尾行されてるぞ。まあ、わかっていたことだがな」


 「そうなんですか?」


 驚きながらもミラリオはさすがにあからさまに振り返ったりはしない。


 「私はぜんぜんわかりませんでした。さすがはランバートさんですね」 


 小声で話しかけるミラリオにランバートは普通の声色で答える。


 「いや、俺にもわからないレベルだよ。帝都で俺をつけていた連中よりも尾行の腕は上だな。ただワルキューレちゃんが臭いをかぎ取ったんだよ。どれだけうまく姿を隠してもレッドウルフの嗅覚はごまかせないってことだな」


 確かに気配を消しても臭いを消すのは難しいだろう。

 

 「馬で尾行するなんて器用な相手ですね」


 「いや、歩きの様だ。馬で尾行してたら俺でも気づくよ」


 「徒歩で馬に乗った者を尾行しているんですか?」


 「このくらいのスピードならできるだろ」


 「…少なくとも私は無理ですけど。それにしてもその魔物の考えている事がそんなにはっきりとわかるんですか?」


 追跡されていることを知らせるだけでなく相手の様子までわかるほどワルキューレちゃんと意思疎通が出来ているランバートにミラリオは驚いている。


 「どうもそうらしい。俺も気付かなかったがそういう才能があったんだろうなあ」


 他人事のようにランバートはつぶやいている。


 「…本当になんでもありですね。ってもしかしてそのためにその魔物を連れて来たんですか?」


 そのランバートに呆れたように言いかけたミラリオはハッと気づく。確かにそれならわざわざ目立ってまでレッドウルフで帝都を出発した理由が説明できる。


 「そうだよ」


 一見普通に答えているようなランバートだが、その顔を見て、


 (あっ、これは偶然そうなった時のやつですね)


 ミラリオもだいぶランバートという人物の事がわかるようになってきているのだった。

次回は 039 領地 です。

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