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04 遭遇(チンピラ)

 店を出たランバートは裏通りにすっと入っていく。


 なんのことはない。


 金貨の袋の中身を確認するためだ。


 重さは十分だが本当に50枚入っているか一枚一枚数えるつもりなのだ。カッコつけてウォーベックから受け取った時は涼しい顔で受け取ったものだが、一歩外に出ればこのありさまだ。


 いくら困窮していたとはいえ、こういうところがランバートがいまいち大物になれない所以なのかもしれない。


 「ここら辺でいいか」


 ほくほく顔のランバートが金貨の袋を取り出したところに、十人ほどのガラの悪い連中が駆けこんでくる。

 

 あまりのタイミングの悪さにランバートが顔をしかめるのも構わずに、


 「よお、おっさん。ちょっと俺たちにお小遣いくれねえかなあ?その袋、ずいぶん重そうだし俺たちがもらっておいてやるよ」


 全国ゴロツキに連盟手帳に記載されているような型通りのセリフを言ってくるのは先頭にいるリーダーらしき男だ。


 「…言っておくがお前らから手を出してきたんだからな。どうなっても後悔するなよ」


 せっかくの楽しみを邪魔をされたランバートは面倒くさいと思いながらもすごんで見せるが、全く効果がないのかチンピラたちは完全に舐めくさった態度で接してくる。


 「ひえー、怖い、怖い。こいつは強そうだぜぇ!」


 「いやー、手加減してー。許して下さーい、ってか。ひひひひひっ」


 わざとらしい悲鳴をあげて仲間内で顔を見合わせて笑い合っている。一人一人はそれほどでもないくせに群れると強くなるという典型的なチンピラタイプの連中なのだろう。


 「ていうかおっさん、俺たちが何人いるか見えてないのかよ?この人数とやり合うつもりか?」


 これまたやられ役お決まりのセリフを言ってくるチンピラに、


 「10人…、いや12人か」


 ランバートが律義に答えるとチンピラたちは嘲笑してくる。


 「ぷっ、俺たちは10人だっつーの!ビビりすぎて俺たちの人数が多く見えてんのかな~?」


 「しょうがないっすよ~。こんな冴えないおっさんですよ~。あんまりイジメたらかわいそうっすよ~」


 チンピラたちは三下感満載であおってくるが、それを無視して今度はランバートが質問する。


 「そもそもお前たちは俺一人に対して、全員で一度にかかってくるつもりなのか?」


 一瞬ランバートが何を言っているのかわからなかったのか、しばしの沈黙が流れた後、男たちは爆笑する。

  

 「はーはっはっはっは!こいつはとんだお笑い種だぜ。俺たちが一対一で戦ってくれると思ってたのか?まさか騎士道精神ってやつか?おっさん見掛けによらずなかなか純情だなあ!」


 「こいつはおかしいや。こんなヤツがよく今まで生きてこれたもんだぜ」


 「見たところよそ者みたいだし、よっぽど平和ボケしたところから来たんだろうよ!」


 いい年した冒険者であるランバートが駆け出しの少年の様な事を言っているのがおかしいらしい。


 「リーダーあんまり笑ったら悪いっすよ。よーし、それじゃあ、いっちょ俺が騎士として一対一でやったりますわ!」


 下っ端の一人が笑ったら悪いと言いながら、自分も大爆笑しながらランバートに向けて剣を抜こうとしたその瞬間、


 「ぎゃあああああああ!」


 男の右腕は地面に落ちていた。


 「なっ、なんだ!?」「なにが…」


 男たちには速すぎて見えなかったが、ランバートが一瞬で切り落としたのだ。


 「こっ、こいつ!」


 よせばいいのに勇敢にもリーダーの男がランバートに仕掛けようと一歩踏み出すが、すぐにバランスを崩して倒れている。


 「ぐぎゃあああああ!あっ、足がー!」


 今度は左足の膝から下が切り離されて転がっている。


 こちらもいつ斬られたのか本人も周りの者もわからない早業だ。


 「まだやるのか?次の奴は覚悟してかかってこいよ。次の奴は首が落ちるぜ」


 顔色一つ変えないで冷たい声で言い放つランバートに、


 「ひっ、ひぃ…」


 情けない悲鳴を上げてチンピラたちは一目散に逃げていく。


 「忘れもんだ!」


 そう言ってランバートは男たちに向かって落ちていた右腕と左足を投げつけている。


 そして右上の街灯を睨むのだった。

 


                     *




 この様子は先ほどの部屋の監視水晶で覆面の男とウォーベックに見られていた。これがウォーベックの言っていた『用意』なのだろう。


 「…案外辛辣(しんらつ)な男だな」


 「いえ、あれは心得(こころえ)のある者がする事です」


 ランバートの冷酷な行動に覆面の男は眉をひそめるが、ウォーベックは案外あの男は決闘の作法を知っているという。


 腕のいい魔法医なら破損した部位があればそれをくっつけることができる。そのため決闘で負けた者に切り落とされてた身体の一部を持ち帰らせるのは決闘の作法の一つでもあるのだ。


 もっとも、最近の決闘ではそんな作法を気にするような者などあまり見られないが、ランバートは正式な決闘でもないのにそんな事をしている。落ちぶれていても作法を知る戦士としてその行動が身体に染みついているのだ。


 「しかし、あれほどの男が野に埋もれていたとは驚いたな。あの実力があればいくらでも立身(りっしん)できただろうに」


 「なに、宮仕えが向かない者はいるものです。ですが使いようによってはそこらの英雄もどきよりは(はる)かに役立つでしょう」


 如才(じょさい)ないウォーベックはこうして覆面の男に取り入っているが、確かにランバートはそういうタイプではない。同程度の実力を持っていてもその境遇は全く違っている。


 「そういうものか。まあ、せいぜい役に立ってもらうとしよう…おい、こちらを見て何か言っているようだぞ」


 「ほお、街灯に設置していた監視水晶に気付きましたか。なになに、『俺を試すんじゃねえ』と言っていますな」


 この距離での監視水晶に見られている事に気付いたことにウォーベックは感嘆する。


 どうやらランバートが12人と言ったのはウォーベックと覆面の男の事も数えていたからのようだった。



次は 05 マーガレット(氷の執政官) です。

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