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035 シンプル

 老婆はランバートが一流の魔物使いだと思い込んだまま話を続ける。


 「こいつが加入すればわしらの計画もかなり前に進むことになるじゃろう。それで、他の者たちの経過はどうなっておる?」


 「スカウトした冒険者の中で魔物使いとしての適性がある者たちは順調に素質を開花させています。魔物使いにはなれない者たちも戦闘要員として十分役立つ事でしょう」


 バリトンの報告に満足そうにうなずきながら老婆は質問を続ける。

  

 「使役用の魔物の方はどうなっておる?」


 「もちろんぬかりはありません。むしろそちらの方が私の専門ですからね。私の捕獲チームがすでに100頭以上捕まえています。さらに通常の魔物をベースにした強化もすすんでいます。まあ、ワルキューレちゃんほどの特殊体は出来ていませんが相当の仕上がりになっています」


 「全て上手くいっていると言う事じゃな。こうなってくるとこの男がますます欲しくなってくるのう」


 ひょーっ、ひょーっ、ひょーっ、ひょっと、老婆特有の笑い方でテンションが上がっている老婆に対して、バリトンはあくまで慎重だ。


 「しかし、順調に行き過ぎて怖いくらいですね。計画が帝都の治安組織に気付かれていないと良いのですが」


 「最近活躍しておる執政警邏隊は今はそれどころじゃないじゃろう。今回潰された白龍会にはマーガレット執政官がかなり関わっていたらしいからのう。後始末に追われておることじゃろうて。その他の治安組織は通常の治安は守れてもこういう特殊なことに対処する才覚にかけておるわ」


 その執政警邏隊の一員(しかもその最近の活躍にほとんど絡んでいる男)を計画に入れようとしているとも知らずに老婆は不気味に笑いだす。


 「これは革命なのじゃ!我ら魔物使いの有用性を世に示すためのな!この『大量の魔物を操って帝都で暴れさせたあとに、正義の魔物使い軍団がさっそうと現れて事態を収拾させる計画!』を成功させて我ら魔物使いの地位を向上させるのじゃ!」


 文字化してみるとなかなかまぬけな感じのするマッチポンプ計画を老婆は真剣な顔で叫んでいるが、


(まあ、俺は金にさえなれば別に革命とやらはどうでもいいがな)


 バリトンは後ろから冷めた顔で見下ろすのだった。


 

 

                    *


 

 ここで銅貨の袋を握って格好つけていた卑しい男に話を戻すと、バリトンはランバートがあと少しで仮宿にたどり着くというところでスカウトに来ていた。


 スカウトはいつもは冒険者が『ペットの散歩』の依頼の報酬をギルドで受け取った直後にしているのだが、今回は少し準備をしていたため多少遅くなったのだ。


 「我々の同志になって頂きたい。あなたのすばらしい才能をもってぜひ協力して欲しいのです」


 「嫌だと言ったら?」  


 ランバートの返事を意外そうにきくバリトンだが、すぐに続ける。


 「その気になるように説得させていただきます。どんな手を使っても、ね」


 バリトンがそう言うと同時にバラバラと冒険者たちが前に出てくる。


 拒否するなら力ずくで、という事らしい。


 「そういうシンプルなのは嫌いじゃねえぜ」


 ランバートも相手をしてやるとばかりに剣を抜き放つ。


 (まあ、言いなりになって潜入捜査をしてもいいんだがこっち方が早そうだ)


 すでにこの『任務』に飽きてきているランバートは力押しで解決することにしたようだが、バリトンはランバートが逆らうとなってもまだ余裕だ。 


 「強がりはおよしなさい。あなたに使われないように我々は魔物を連れてきていません」


 「ほう?」


 (なんのことだ?魔物?なにそれ?)


 普通になんのことかわからないランバートだが、その反応をバリトンは「ほう?考えたな!」という風に受け取る。そして諭すように続ける。


 「彼らはあなたのように魔物使いとしての才能はないですが、戦士としてはかなりのものですよ。一流の者たちがそろっています。無駄な抵抗はしない方がよいですよ」


 「そうかい。そりゃどーも」


 (まあ確かにやりそうだな。前衛の剣士2、後衛の魔法使い2、中軸の魔法剣士1ってとこか。…後ろに控えている執事野郎はよくわからんな?)


 ランバートは即座に6人の敵の構成を分析するが、バリトンの事は掴めないらしい。ただ、嫌な感じがすることだけは本能的に感じ取っている。


 (なーんかちょっと前にやり合ったやつと同じような雰囲気を感じるんだよな、あいつ)


 そんな事を考えながらランバートは前衛の剣士二人と剣を交え始めるが、攻めあぐねる。


 (冒険者をスカウトして作った即席のチームなんだろうが、なかなかやっかいだな。剣士の腕は悪くないし、思ったより連携がとれている)


 剣士二人の実力は一流と呼んで差し支えないものだが、ランバートよりかなり落ちる。しかし、その実力差をカバーするように魔法使いが補助魔法と攻撃魔法を飛ばしてくるし、中軸の魔法剣士が全体を見ながら行動しているのが厄介だ。


 それに狭い路地なので前衛二人を無視して、早めに始末したい援護役の中軸や後衛を先に狙う事も出来ないのだ。


 (くそっ、動きが悪いぜ!我ながら不格好だな。こりゃあ修業しなおさないとな)


 ランバートはなんとか剣士二人を振り切って後衛を狙おうとする自分の身のこなしがバタバタしているようで納得できずに愚痴をこぼすが、その相手をしている冒険者たちからは、


 (ば、化け物か!?こいつ!どうやったらあんな動きができるんだ!?)


 その素早い動きはとても人間わざとは思えないように見えている。


 しかし、そんな風に驚きながらも大きな隙を見せずになんとか対処できているのは彼らも一流の戦士である証だろう。


 (…このままじゃあ(らち)があかないな。やるしかないか)


 ランバートは不意に右を向くと、その無防備な行為に剣士たちが一瞬気をとられた隙に文字通り壁面を駆けあがって空中に舞うと一気に後衛の魔法使いの後ろに飛び降りて峰打ちで気絶させる。


 「なっ!?」


 一度動揺してしまえばランバートの敵ではない。魔法剣士と剣士二人も手際よく気絶させる。


 敵対した者はわりかしあっさりと殺しているような印象のあるランバートだが、一応線引きがある。


 今回の相手はその境遇が帝都に来た頃の自分に重なったので、特に殺したくなかったのだ。それに敵側もランバートを殺す気ではなく捕らえるつもりできているのも大きかった。

  

 「はっ、はは。なかなかやるようですね…。しかし、念のため連れて来ておいてよかったですよ!」


 乾いた笑い声でバリトンが右手を上げるとまた冒険者たちがぞろぞろ出てくる。ワンパターンな奴である。


 「あなたがどれだけ強かろうとありとあらゆる魔物を捕獲できるスキルを持った私の世界最高の捕獲チームから逃れる事はできませんよ」


 自信満々に言うバリトンの(世界最高の捕獲チーム?)その言葉にランバートはピクリと反応する。


 「お前の捕獲チームから逃げれたら俺は誰にも捕まらなくなるって事だよな?」


 「そう言う事になりますね。そんな事はあり得ませんが」


 「おもしれえな…」


 (絶好の練習相手ってことだな。あの女から逃げるための!)


 ランバートがバリトンから感じ取った似た雰囲気はどうやら受付嬢ラナの事だったようだった。

次回は 036 魔物使い です。

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