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034 新興勢力

ランバートがワルキューレちゃんの散歩を無事終えて邸宅に戻ると、戻ってくるのがわかっていたかのように執事のバリトンが出迎えてくる。


 「ありがとうございました。こちらの証明書をギルドにお持ち下さい。ご存じでしょうが報酬はギルドで支払われます」


 バリトンはこの帝都の冒険者なら知らない者はいないだろうとわかっていながら、執事らしい真面目さで通り一遍の説明をしているが、


 (へえ、ここのギルドは証明書形式なんだな)と帝都のギルドで一度も依頼を受ける事がなかったランバートは感心している。


 ギルドで受けた依頼の報酬は依頼主から直接受け取ることはほとんどなく、各ギルドでの達成報告の後の支払いが基本だが、そのやり方は国によって多少異なっているのだ。


 「ところでワルキューレちゃんは良い子でしたか?」


 「ああ。見かけによらずおとなしかったな」


 ナチュラルに失礼な発言をするランバートだが、バリトンは気にした様子もなく頭を下げる。


 「それは良かったです。また、お願いいたします」


 (または、ねえんだろ)


 ランバートはこのペットの散歩の依頼は二度受けた者がいないと受付嬢のラナから聞いていたのでそう思うが口にはださない。


 その後、ランバートはギルドに戻って証明書を渡して報酬を受け取っている。その際に受付にいたのはラナではなかったが事情をきいているのか「ラナ先輩には私から伝達しておきますね」とささやいてきたものだ。


 こうして『ペットの散歩』の依頼を無事に依頼を終えたランバートだが、


 (本番はここからだよな)


 気を引き締める。


 この依頼は達成した後が問題なのだ。


 ランバートはギルドから出ると周囲を警戒する。あからさまに警戒するのではなく、顔色も挙動も変えないであたりの気配だけをしっかり探っているのはさすがだろう。


 そして、人気のない物陰に入っていくと、


 (臨時収入♪臨時収入♪)


 と嬉しそうに報酬の銅貨を数え始める。


 (一枚でも少なかったらすぐに抗議しないとな!こういう事は早い方が絶対にいいのだ!時間が経つとクレーマーだと思われるからな)


 参謀官という破格の高給取りになってもランバートのしみったれた、もとい倹約家の性格は全く変わっていない。むしろ金があることによって病態が悪化している気もする。


 5回ほど数えなおしたところで、ようやくランバートは我に返る。


 (そういえばこの依頼を達成した冒険者が2度とギルドに現れないって言ってたよな。てことはこの後に何かあるってことだな)


 「ふっ、来るなら来い」


 報酬の入った革袋を握り締めながら誰に言うでもなく宣言するのだった。



                   *




 数時間前…。


 ランバートが森の中でワルキューレちゃんを散歩させているところまで時間を戻すと、邸宅の奥の部屋では執事バリトンと一人の老婆がテーブルの上に設置された森のミニチュアを見ていた。


 それはワルキューレちゃんの散歩コースを模して造られた物のようだ。その中の道を犬型と人型のコマがちょこちょこと進んでいく。


 一度だけ人型の方が道をそれようとしていたが、その後は元のコース通りに進んでいる。


 ここまでは二人とも大人しく見ていたのだが、その後の展開に老婆がしわがれた声を上げる。


 「これはスゴイぞ!大当たりじゃ!これならAランク、いや特A待遇で迎え入れるべきじゃ!」


 「それほどなのですか?確かに並みの者ではないようでしたが」


 興奮するばあさんにバリトンが冷静に口を挟む。


 「お主も見たじゃろう?数々の罠をワルキューレちゃんが率先して潰してまわっていたではないか。これが驚かずにいられるか」


 この森には冒険者の実力を測るために罠や魔物がでるスポットを用意しているのだが、それがミニチュア上で出現するたびに犬型のコマが身体を張って防いでいる。

 

 普通なら老婆に使役されているワルキューレちゃんは冒険者の足を引っ張るはず役割のはずなのだが、むしろサポートしているのだ。


 「つまりワルキューレちゃんを操れるほどの魔物使いということですね?ギルドには剣士として登録していたようですが…」


 「うむ、間違いない。超強力な魔物使いに違いないぞ!信じられんことじゃが魔物使いとしてはわしよりも上かも知れんぞ?」


 自らの技術に絶対に自信を持っている老婆は自分が使役しているワルキューレちゃんを使役しなおす事ができるレベルの魔物使いなどほとんどいないと思っている。


 真実は魔物使いとしての技術など全く関係ない、単純な実力差で威圧して従えているだけなのだが。


 そんな事とも知らずに老婆はホクホク顔で喜んでいる。

 

 「ここのギルドはソロ冒険者がなかなかまともな仕事にありつけない状態じゃから粒がそろっておるわ。まあ、こいつの場合はそれを差し引いても特別じゃなあ」


 「しかし、魔物使いにしては魔物を一匹もつれていませんでしたな」


 バリトンの当然の疑問に、


 「まあ、何かの事情で魔物を失って剣士として活動していたのじゃろう」


 老婆はランバートが魔物使いだと完全に思い込むのだった。



次回は 035 シンプル です。

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