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033 値踏み

 ランバートが邸宅のドアをノックすると使用人らしき男がぬっと出てくる。 


 見定めるようにランバートを見る使用人にギルドから派遣された事を伝えると、「バリトンさん、冒険者さんがいらっしゃいましたよ!」と大声で怒鳴っている。


 そんなに遠くにいるのかと思うが、すぐに片眼鏡をかけた絵にかいたような執事がやってくる。


 「ごくろうさまです。メッチャー、この方は私が案内するからお前は仕事に戻りなさい」


 「わっかりました!」


 メッチャーと呼ばれた男はまたしても相手が遠くにいるような大声で返事をして去っていく。どうやら地声が大きいタイプらしい。


 その様子を見ながらバリトンは肩をすくめている。


(こういうステレオタイプの執事って実際にいるんだな…)


 最近は上流階級とも付き合いのあるランバートだがこれほど執事っぽい執事は見たことがない。


 「執事さんがわざわざ案内してくれるんだな」


 ランバートはいつものお堅い参謀官ではなく、礼儀知らずの冒険者のようにフランクに話しかけている。まあ、これが本来のランバートなのだが。


 「他の者たちは『ワルキューレちゃん』を恐れていますからね。私が主に世話を担当しています」


 『ワルキューレちゃん』とはペットのレッドウルフの名前だろうか。なかなか個性的な名前である。


 「元冒険者ってとこか?なかなかデキそうだ」


 ランバートは『ワルキューレちゃん』の世話ができるバリトンの実力を一目で見抜いて、さっそく探りを入れるが、


 「確かに昔は冒険者をしていましたが、あまり大した事はありませんでしたよ。結局大成せずにこんな仕事をしていますからね。あなたの方がずっと強いでしょう」


 と謙遜するように手を振っている。


 やがて庭先にある馬小屋の前に着くと、バリトンが「こちらです」と中に招き入れる。


 「ワルキューレちゃん、散歩にいくきますよ~」

 

 「ガウッ!」


 バリトンの言葉にレッドウルフが吠えている。馬くらいの大きさの。


 「でっ、デカくないか?」


 通常レッドウルフは大きいものでも大型犬より少し大きいくらいだ。さすがに馬並みの大きさは規格外すぎるだろう。


 「ワルキューレちゃんはエサがよかったのかかなり発育がよかったんですよ」


 「発育とかそう言う問題じゃないだろ…これ」


 普通のレッドウルフの倍どころか下手したら5倍くらいはありそうだ。確かにこれなら普通の使用人が恐れて散歩を嫌がるはずだ。ある程度魔獣を知っているランバートでもそのデカさにちょっとビックリしている。


 「やめておきますか?」


 「いや、やるよ」

 

 どう考えてもヤバい感じだがここで引き下がるわけにはいかない。魔獣相手なので最悪力づくでやればなんとかなると思っているのだ。


 「ありがとうございます。では、こちらの散歩コースをお願いします。だいたい1時間程度で回れますから」


 そう言って簡単な地図を渡される。見ると町から離れた森の中を一周するらしい。レッドウルフは人に飼われる事はあるが、そうはいっても魔物なので街中を散歩させるのは難しいのかもしれない。まあ、この『ワルキューレちゃん』はそのサイズがデカすぎるせいもあるかもしれないが。


 「コースが決まっているのか?」


 「はい。『ワルキューレちゃん』は几帳面な性格ですから決められたコース以外を歩くと機嫌が悪くなります。必ずコース通りに散歩してください」


 「わかった」


 (わざわざ指定するということはこのコース自体に何か仕掛けがあるのだろうか?)そんな事を考えていると、


 「コースアウトは最悪命関わりますからね。気を付けてください」


 物騒な事を笑顔でいうバリトンに、


 「はいはい」


 と答えながら(『ワルキューレちゃん』のな)と自分がこの魔獣にやられるとは一ミリも思っていないランバートなのだった。



                      *


  .

 森の中を散歩させ始めて10分経ったころ、あまりにも何もないのでランバートは少々拍子抜けしていた。

 

 (ワルキューレちゃん、大人しいな。全然誰でも散歩できそうだぞ。まあ、決められたコースを歩いているからかもしれないけど)


 コースから外れると機嫌が悪くなると言っていたので、コース通りに散歩させていたら問題ないのかもしれない。


 こうなると少し遊び心が出てくるランバートだ。


 分岐の所であえてコースとは違う方へワルキューレちゃんを誘導しようとすると、「ガルルルル…」と牙をむいて案の定、威嚇してくるが、


 「黙れ」


 ランバートに殺気を込めてひとにらみされると、「きゅ~ん…」と情けない声を上げて尻尾をまいて服従のポーズをとっている。


 魔獣としての生存本能がランバートに逆らってはいけないと告げているのだろう。


 しかし、逆らいはしないが元の道に戻りたそうにチラチラとそちらを見ている。


 (あんまりイジメるのもかわいそうか)


 馬の様な大きさの魔獣なのだがランバートにとっては子犬と大差ないのだ。人間と違って実力のある者に無理に逆らわないところがいい。


 「まあ、お前にもいろいろ立場があるんだろうな。俺は動物に優しいからちゃんとした道を通ってやるよ」


 とランバートは元のコースに戻る。


 人間の言葉がわかるわけではないのだろうが、心なしかホッとしたような顔のワルキューレちゃんだが、


 「そのかわりお前も余計な事をして俺を煩わすなよ?俺は早く帰りたいんだから」


 再びランバートにすごまれてコクコクと頷くワルキューレちゃんに、ニッと笑顔を見せたランバートだがふと真顔になる。


 (なんだ?この感じ…。見られてるな)


 ランバートは視線を感じて足を止める。近くに人がいないのは間違いないが、自分を見ている者がいる事に気づく。


 (監視水晶…じゃねえなあ。こう、あらゆる方向から捕捉されている感じだな。嫌な感じだぜ)


 この森に何か仕掛けがある事に勘づいたランバートなのだった。

次回は 034 新興勢力 です。

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