029 白竜会会頭 ロウラン①
白龍会への家宅捜索は驚くべき早さで進められた。
家宅捜索をするあたってもっとも重要なのは相手にあらかじめそれを知られない事だ。捜索が入る事を知られてしまえば証拠や証人を隠匿されてしまう可能性があるからだ。
迅速な対応をするために総隊長のサミュエルがとった作戦は、すぐに動ける少数精鋭で白龍会の本部に先んじて乗り込んで、その後、十分な数を揃えた部隊を向かわせるというものだ。
白龍会は五選会の一つだけあって、全組織員がそろえば地方小領主クラスの戦力がある。
実際には依頼のために動いている組織員もいるのでせいぜい本部にいるのはその半数程度ではあるだろうが、それでも確実に戦うつもりなら執政警邏隊全軍であたるべき相手だろう。
だが、サミュエルは安全よりも速度を優先した。昨日の夜に暗殺が失敗している以上、なんらかの対策を白龍会がとろうとすでに動いていてもおかしくないからだ。
(まあ、戦闘になるとも限らないしな)
とも思っているらしい。
白龍会が犯罪行為を隠すために執政警邏隊に逆らうかと言われると、何とも言えないのだ。帝都で執政官直属機関に民間組織が逆らうことの無謀さを知らないわけではないだろう。
(だが、帝国貴族に対する暗殺を請け負う事は第一級の犯罪だ。幹部は死罪を免れないだろう)
そう考えると必死の抵抗をしてくる可能性もなくはない。そのための少数精鋭だ。その方が犠牲は少なくてもすむだろうと考えている。
ちなみにメンバーとしては踏み込むのはサミュエル、ランバート、ミラリオ、ブーティカ、ダンケル、ジュディ、ジャービス、その他5名の執政警邏隊の剣術自慢(うち2名は隊長)で合計12名だ。
「皆、わかっていると思うが一部の者は武力抵抗してくる事も予想される。『白龍会』は五選会だけあってかなりの手練れがそろっているが特に会頭のロウランは別格だ。やつの魔法戦士としての実力は確かだ。ロウランが出てきた場合は十分注意してもらいたい」
「確かに、暗殺は第一級犯罪ですからね。どうせ捕まって死刑になるなら、と抵抗してくる事は考えられますね」
サミュエルの訓示にミラリオが同意しているが、まさかこの中にその第一級の犯罪者が参謀官として紛れ込んでいるとは誰も思っていない。
その第一級犯罪者は自分がその立場にあることを隠して、ぬけぬけと質問する。
「そのロウラン殿は他の五選会、例えば黒鬼会のウォーベック殿と同格と考えてよいのですか?」
ランバートとしては自分が相手をできる限界がウォーベックレベルだと見極めているので、そこのところが重要なのだろう。
「いや、さすがにウォーベック殿ほどではない。かの御仁は『国三指』だからな。ロウランはそれよりは少し落ちる。私と互角くらいだろう」
そう言ってランバートを見たサミュエルは、
「いざという時はランバート殿に対処を頼みたい」
と続ける。この精鋭たちの中でもランバートの実力を認めて頼りにしているのだ。
「善処します」
とランバートはしかつめらしく答えているが(サミュエルクラスを相手にするのは嫌だな~。あのレベルは万が一があるからな)
とか考えている。
サミュエルとやり合った時はあらかじめ自分に有利になるように地形を調べたり、目立たない罠を仕掛けていたりしたから圧倒できたが、まともやり合うとランバートにとっても危険な相手なのだ。
(何より今度は相手のホームだからな。こっちの方が不利なんだよなあ…)
と情けない事を考えている。一度最強をあきらめたこの男は『相手が強いと、オラわくわくすっぞ!』的な発想はないらしい。
そんなランバートだがふと隣にいるブーティカに気をとられる。
「…その格好で行くのですか?」
「何かおかしなことがあって?」
「さすがに目立つのではないかと…」
ランバートはブーティカの方を見て目を見張っている。五番隊隊長として執政警邏隊の赤い隊服を着ているのはまあいいのだが、問題は携えている武器だ。執政警邏隊は基本的に剣を装備している者が多いが、槍や弓といった自分が得意とする武器を装備している隊員もいる。
ただ、ブーティカが装備しているのは巨大な黒い金棒(トゲトゲ付き)だ。どう考えても普通の事態で持ち歩く武器には見えない。
これでは無用に相手を警戒させてしまうのではないかと思ったのだが、
「わたくし、市内巡察の時はいつもこれですのよ?」
(マジかよ)
平然と答えるブーティカに、ランバートは(いざとなったらこいつにロウランとやらを任せよう)とロクでもない事を考えているのだった。
すみません。なんか終わりませんでした。
次回は 030 白竜会会頭 ロウラン② です。
…ゲームってやり始めると終わらないですね。ホントすみません。