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028 ガサ入れ

 暗殺者のアジトを突き止めたランバートがその場所をミラリオに告げると、


 「間違いないのですか?」


 と、ひとしきり確認した後、総隊長のサミュエルに報告するように頼んだ。


 ランバートが告げた暗殺者の逃げ込んだ場所が白龍会だったことに、ミラリオはもはや一隊長では判断できない事態になったと思ったのだ。


 (まあ、そうなるわな)


 ミラリオの反応はあらかじめ予想できていたのか、ランバートにはそのまま総隊長のサミュエルに報告に行く。


 早朝にも関わらず、サミュエルは執政警邏隊本部にいたのですぐに取り次いでもらう事にした。


 サミュエルとまともに話すのは初対面の決闘以来だったが、すんなりと会ってくれることになった。厳格な男ではあるが根に持つタイプではないらしい。


 しかし、ランバートが報告をしていくうちに顔を曇らせていき、『白龍会』の名前が出たところで、

 

 「間違いないのだな?」


 サミュエルはミラリオと同じことをランバートに言っている。


 「間違いありませんね。確かに暗殺者は白龍会本部に入っていきました。さすがに無関係な事はありえないでしょう」


 涼しい顔で答えるランバートとは対照的にサミュエルの顔は冴えない。


 「そうか…」


 サミュエルはため息をついて視線を机の上に落とす。しばらく考えるように人差し指で机をたたいてリズムをとっていたが、


 「マーガレット様には報告したのか?」


 「まだ、報告していません。まずは総隊長殿にと思いまして」


 「そうだな…。私から報告した方がよいだろう。しかし、まだ信じられんな」


 サミュエルがそう言うには2つ理由があった。


 1つには、暗殺者を派遣していたのが帝国内の5大民間軍事組織『五選会』に名を連ねている組織だったことだ。


 軍事組織という名前がついているが、なんでもありなわけではない。あくまでも合法的な範囲(帝国にとっての)で活動しているのだ。


 もちろん軍事組織なので合法的と言っても、モンスターの相手だけでなく、他国との戦争や国内の反乱の鎮圧にかりだされて人殺しも当然のようにしている。


 しかし、同じ人殺しでも暗殺となると話は別だ。


 戦争相手の他国の要人の暗殺を依頼される事は例外的にあるが、帝国内の人物に対しての暗殺を請け負う事はまずない。そんな事を民間軍事組織に自由に許してしまえば国内の政情が不安定になるだろう。


 実際、今回ダンケルが宿舎で襲われたのも小規模な反社会的な裏組織の暗殺者ばかりだ。


 特に『五選会』に選ばれているほど大きな組織なればちょっとした貴族くらいの権威があるので、暗殺などという裏仕事を受けないのが普通だ。報酬が魅力的だとしてもそれ以上に組織としての体面を考えるのだ。


 現に『五選会』の一つである『黒鬼会』(悪役みたいな名前である)の代表であるウォーベックは自らの組織の者を使わずに、いつでも切り捨てられるランバートという流れ者を暗殺者として利用している。大きな組織が暗殺に関わるならこのやり方が普通だろう。


 そして2つ目の理由。どちらかと言えばこちらの方がサミュエルたちにとっては問題だった。


 よりにもよって暗殺者を派遣していたのが『五選会』の中でも『白龍会』だったことだ。


 民間軍事組織はあくまで民間の組織ではあるが、その使い勝手の良さから王侯貴族が後ろ盾になっている組織も少なくないのだが、『白龍会』の後ろ盾は実はマーガレットなのだ。


 もっとも、『白龍会』とはマーガレットが執政官になる前の付き合いで、執政官になって直属の執政警邏隊を組織してからは疎遠になっていたのだが、それでも現在もその関係は解消していない。


 『五選会』に入るほどの組織の後ろ盾をしている、という事実はマーガレットにとって利益があるからだ。


 もちろん『白龍会』の方としてもマーガレットから直接依頼を受ける事がなくなっていても、執政官であるマーガレットが後ろ盾である、という事実で箔がついているので損をしているわけではないのだが…。


 「間違いないのか?」


 サミュエルから報告を受けてマーガレットも同じような反応をしている。


 「まだ証拠はありませんが、ランバート参謀官が間違いないと言っています」


 「…ランバートが言うのなら間違いはないだろうな。困ったことだが」


 マーガレットは眉間にしわを寄せる。ランバートはある意味空気が読めないので、ありのままを報告しているとわかっているのだ。


 「いかがいたしましょうか」


 緊張した面持ちできくサミュエルに、マーガレットはすぐに結論を出す。


 「暗殺を請け負っているのなら捨て置くわけにはいかないだろう。強制的に捜索をしていい。確実に証拠をつかんで関係者を全員逮捕しろ」


 「よろしいのですか?」


 あまりに早すぎる結論にサミュエルの方がうろたえるが、マーガレットは毅然という。


 「構わん、徹底的にやれ」


 仮にも自らが後ろ盾になっている組織の不祥事だ。最悪の場合、マーガレット自身も責任を問われる事になるかもしれない。


 (その時はその時だ)


 たとえ自らに不利益があっても不正をする者は即座に断罪する。『氷の執政官』の名に恥じない判断を下すマーガレットなのだった。

 

次回は 白龍会会頭 ロウラン です。いいね、ブックマーク、評価ありがとうございます!次回で4章が終わる予定です。

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