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025 調書

 「しかし、お嬢ちゃんも隊長なんだな。なかなか様になっているじゃないか」


 先ほどのパーキン達とのやり取りを見ていたのか、ランバートが揶揄するように言う。ミラリオは上官であるランバートにはいつも敬った態度で話しているが、部下にはそれなりの態度をとっているのが物珍しかったのだ。


 「そんな事を感心されても困ります。隊長としては当たり前の事ですよ」


 (この人は何を言っているのだろう)とミラリオは思うが、すぐに本題に入る。


 「最初に言いましたが、実はランバートさんにお願いしたいことがあり探していたのです。協力していただけますね」

 

 特になんの見返りもなくランバートに『お願い』するミラリオだが、それに対して何の疑問も持っていない。ランバートも執政警邏隊の参謀官なのだから協力するのはごく当たり前のことだと思っているのだ。


 ランバートはランバートでこう真面目に信じてこられると、このケチな男でも見返りを求めるのが恥ずかしくなるらしい。仕方ねえな、とため息をついているが話を先にすすめる。


 「それで俺は何をしたらいいんだ?」


 「実は最近頻発している辻斬りについて調べているのですが…」


 ミラリオに皆まで言わせないで、ランバートが答える。


 「辻斬りねえ…。まさか俺がこれを使って実行していると疑っているわけじゃあないんだろうな?」


 「いえ、あなたは一文にもならない殺しはしないでしょう。その点においては信頼しています」


 透明マントはまさに辻斬りにうってつけのアイテムに思えるが、ミラリオはさすがにランバートはがしているとは全く思っていない。理由は本人が言った通りで金にならない殺しはしないという変な信頼感がある。


 「簡単に言えば捜査を手伝って欲しいのです」


 「簡単に言うなよ。どうも俺向きじゃあないような気がするね」


 いつものセリフを言って気の乗らない様子のランバートに、


 「ランバートさんなら大丈夫です。強いじゃないですか」


 ミラリオは全く根拠にならない事を堂々と言ってくる。


 (『強い』のと『辻斬り捜査』がどう関係してくるんだよ…)とランバートが思うが、キラキラした目で見てくるミラリオに(そう言えばこういうやつだったな)と諦めて、


 「まあ、とりあえずどんな事件なのか教えてくれよ」


 とミラリオの三番隊の隊室に行く事を承諾するのだった。



                       *


 



 三番隊の隊室でランバートはこれまで殺された三人の調書を黙って読んでいた。そして読み終わるとミラリオに質問する。


 「そもそもこれは辻斬りなのか?」


 「どういう意味ですか?まさか暗殺とでもいうのですか?調書にもありますが殺された場所はいずれも夜間で、それも人通りの少ないところとはいえ屋外です。わざわざそんな所でする必要がありますか?」


 暗殺なら屋外よりもターゲットが確実にいるであろう場所、例えばターゲットの自室などの方が現場になるだろう。 


 実際ランバートもマーガレットの暗殺の時にはその自室に行っているのでミラリオの言っていることがわからないでもない。だからミラリオの言葉はあえて否定せずに質問の筋道を変える。


「これが辻斬りだとしてその目的は何だと思う?」


 「やはり、人を斬る事自体に喜びを感じているのでは?もしくは憂さ晴らし、あるいは手に入れた武器の切れ味をためしているとか…」


 ミラリオは一般的に辻斬りの理由として考えられることを挙げていく。


 「それならもっと殺しやすい者を狙うだろう。わざわざ剣の心得がある者を狙わないだろう。単なる辻斬りなら一番簡単なのは浮浪者だ。あとは違法な娼婦とかな。それなのに三件とも所属は違うが貴族階級になってるじゃないか」


 一般的な快楽目的の辻斬りなら下手に剣の使える者を狙ったら返り討ちにあう可能性があるのだ。特に三人目の被害者の『銃士隊』は治安維持組織なのだからそれなりに強いのはわかるはずだ。 


 「では腕試しをしているとか…?」


 ミラリオは辻斬りにこだわっているが、ランバートは首を振る。


 「殺された者たちの調書を読んだが、記載された傷口の場所を見ると背後から不意を突かれた可能性が高いな。腕試しのつもりならこんな傷はつかないだろう。正面から戦うだろうからな」


 「そうでしょうか」


 ミラリオは不満そうだ。曲がりなりにも捜査をして辻斬りだと判断していたことを否定されたのだから無理はない。しかし、そんなミラリオの不満を無視してランバートは話をかえる。


 「それにしてもこの調書を書いたやつはなかなか筋がいいな。簡潔に書いてあるわりには知りたい情報に抜けがない」


 「私の隊のパーキンですね。今も外で待機していますがなかなか見込みのある者です。実際に現場の捜査もして調書を書いていますから呼んで話をききますか?」


 「そうだな…」


 ランバートが顎に手を当てて、返事をしようとするがその前に部屋の外が騒がしくなる。


 「あっ、ちょっと…。入ってもらっては困ります!」


 そんなパーキンの叫びとともにドアが開かれて銀髪の美少女が入ってくる。その特徴的な金色の眼は少し眠そうな半目になっているが、なぜか厳かな雰囲気を醸し出している。


 「ミラリオ、今回の件からは手を引きなさい。この件は私が解決します」


 まるでミラリオの上司のような言い方をするが、そうではないのか、


 「ジュディ、勝手な事を言わないでよ」


 ミラリオは同格に対する話し方で答えている。しかし、「勝手な事を言うな」と文句を言っている声にいつもの勢いがないのはこのジュディという少女に対する苦手意識があるからだろう。 


 「今回の犠牲者は私の隊の隊員。理由はそれで十分」


 ジュディと呼ばれた少女はまるでミラリオの返事には意味がないかのように端的に言っている。

次回は 026 おとり捜査 です。いいね!ブックマークありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

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