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021 噂の黒幕

 「あんな所に行くなんて、いったい何の調査なんですか!」


 騒ぐなと言われた事を忠実に守っていたミラリオは店から出ると早速騒ぎ出す。真面目と言えば相変わらず真面目である。


 「不倫の噂調査だよ。ほら、お嬢ちゃんも知ってるだろ。姫さんと五番隊隊長の」


 「えっと聞いたことありますけど…。まさか姫様の一大事って…」


 そんなわけないと言いたげなミラリオだが、ランバートは無情にも頷く。

 

 「あっ、あははははは…」


 かわいた笑いを上げるミラリオ。尊敬するマーガレットがそんなくだらない事を命令するとは思いたくないのだろう。ただ、事実はそんなくだらない事を真剣に命令していたわけだが。


 「まあ、姫さんくらいの身分になると醜聞は今後の婚姻政策にも関わってくるからな。ある意味一大事だよ」


 そんなわけないけどな、と思いながらランバートはフォローしている。放心状態になっているミラリオがあまりに可哀そうに見えたからだ。


 「そっ、そうですよね!姫様ほどになると些細な事でも命取りになりますからからね!」


 ミラリオはランバートに確認しているが、まるで自分自身に言い聞かせているようだ。


 「まあ、そんなわけで噂の出所を調査しているんだが、ダンケルの奴が実際に不倫しているようだったからその相手を調べに来たのさ」


 「ダンケルさんは本当に不倫しているんですか?!」


 「ああ。あの手の顔の奴は間違いなく不倫をするタイプだ」


 断言するランバートだが、さすがにミラリオはその理由では納得できない。


 「さすがに顔で判断するのは乱暴なのでは」


 「それだけじゃねえさ。だからこうして色街に裏付け調査に来てるんだよ」


 「まさか一発目で当たるとは思わなかったけどな」


 「相手が分かったんですか?」


 驚いて言うミラリオに、ランバートはこともなげに答える。


 「ああ。俺があの子達に色々質問していた時に、ダンケルについて嘘をついていた女の子が一人いただろ。一般人が嘘をつくとすぐわかるからな」


 「そんなのわからないですよ」

 

 ランバートが説明するには、多少でも武術の心得があれば嘘をついている者の息遣いがどれだけ乱れているかすぐに気づくことができるので、そこそこ実力のあるミラリオも当然わかるはずだと言う。 


 まるで自分ができる事を部下ができないのはおかしい、というパワハラ上司の様な事を言うランバートだが、今まで異世界やら、隠れ里やら、一人で修行するやらで、この世界の一般常識から離れていた人間が急に上司という立場になるとこうなるらしい。


 よくある「え?こんな事もできないんですかあ?」というやつである。


 この点ではミラリオの方はこの世界の実社会に生きているので、ある意味パワハラ上司に慣れている。


 「精進します」

 

 と逆らわない。もっとも、これは口先だけでなく真面目な性格なので本当に精進しようと思っているのだ。


 そんな話をしながら歩いていた二人の前をふさぐように男たちが現れる。


 「おい、兄ちゃんよお。あんまり余計な事を調べない方がいいぜえ?怪我したくなかったらなあ!」


 お決まりのセリフを吐きながら現れたチンピラたちを見て先ほどの汚名返上とばかりに、

 

 「ランバートさん、ここは私が」


 ミラリオはそういいながらズイッと前に出る。


 「おいおい、おっさん。若いねーちゃんに守られるなんて恥ずかしくないのかよ」


 チンピラの一人が野次を入れてくる。それを無視してランバートはミラリオに答える。


 「任せてもいいが傷つけるなよ」


 「わかっています」


 ランバートに念押しされるまでもなくミラリオもそのつもりだ。


 「くそっ、なめやがって!」


 お決まりのセリフを言うチンピラたちは、この後お決まりの展開になった。


 

                             *



 「俺は傷つけるなって言ったよな?」


 「ちゃんと生きてるじゃないですか」


 しれっとした顔でミラリオは答えているがチンピラたちは腕が取れかかっている者がいるなどかなりの重症だ。


 「この程度の相手なら自分も相手も無傷で圧倒的に勝てないもんかね」


 また軽いパワハラ発言をしながら、ランバートは傷の痛みに呻き声を上げているチンピラの傷を治癒魔法で治している。


 「すっ、すまねえ」


 「礼は要らねえよ。未熟な部下の不始末だからな」


 自分ならこの程度の相手なら傷つけずに相手をできたとランバートは言う。


 「あなたの様な化物と一緒にしないでください。だいたいランバートさんだってこの前は散々斬っていたじゃないですか」


 以前の地上げ屋の時に容赦なく斬り殺していたランバートだったので、ミラリオもそれに倣って真剣を使ったのだと言いたいらしい。


 「あの時とは状況が違うだろ。今回は無傷である事が大事だからああ言ったんだ。だからこうして無傷にするために治療しているだろ」


 無傷でいる事が重要、の意味がわからないチンピラはランバートに質問する。


 「でも、なんで治してくれるんだ?」


 「今からお前らの黒幕を白状させるために拷問するからな。傷があったら意味がないだろう?どっちの痛みか分かりにくいからな」


 淡々とランバートは答えるのでチンピラは冗談だと思うがランバートの目はマジだ。


 「言っておくが、俺の拷問はこの傷よりも遥かに痛いぜ?」


 もう一回傷つけるために千切れかかっている腕を治しているというランバートにチンピラは恐怖する。


 冗談かと思い自分たちを斬りつけた女警邏隊員の方を見るが、そのミラリオも若干引いている。常識がないランバートなら平気な顔でやりかねないとわかっているのだ。


 「わっ、わかった。言うから!拷問なんざされなくても知っている事は全部白状する!俺たちに命令したやつも全部言うから!」


 その後チンピラが出した名前に「マジかよ…」とランバートはつぶやくのだった。




                      *


 ランバートはミラリオと共にチンピラをけしかけてきた者の屋敷に来ていた。かなり広く、その調度品も豪華な作りをしているので一見して帝国貴族の中でも身分が高い者だとわかる家だ。


 「まさかあなたがチンピラを使って脅してくるとは思いませんでしたよ。()()()()()()


 今、ランバートの目の前にいるのはダンケルの妻である、ブーティカ・ゴールドウィンだ。


 「なんのことかしら。まったく身に覚えがないことですわ」


 ブーティカはランバートを胡散臭そうに見ると、その後ろに控えていたミラリオに言う。

 

 「失礼ながらミラリオさん、あなたも少しは交誼を持つ人物を考えた方がよろしいのではなくて?誇り高い帝国の貴族がどこの馬の骨とも知れない者に付き従うなんて…」


 付き従うもなにもランバートは執政警邏隊での上司になるのでミラリオが従うのは当たり前なのだが、この帝国貴族夫人にはそんな事は関係ないらしい。この夫人が生きている世界は『貴族とそれ以外』なのだ。


 (なるほど、こういうタイプか)


 ランバートは面倒くさそうな相手だなと思うのだった。

次回は 022 ダンケル夫人 です。

水曜日更新予定です。 いいね!ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。

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