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020  飲み屋街 (の噂)

 五番隊隊長ダンケルの言動に怪しさを感じたランバートはその身辺調査に乗り出すことにした。


 もっとも、ダンケルが今回の噂を流した張本人と考えているわけではない。本人も言っていたように今回の噂はダンケルにとってもマイナスなものだからだ。


 (だが、どこか引っかかるんだよなあ。あいつは何か隠している気がする。それを探れば噂の出どころにたどり着けるだろう)


 『特別ボーナス』でそそのかされたとはいえ我ながら物好きな事をしている、と思わないでもないランバートだったが実は意外と楽しくなってきている。


 『真実を追及するため暗躍する』そんな少年が憧れるようなシチュエーションが、おっさんながらに最強を目指すような心を持っていたランバートの琴線(きんせん)に触れたようなのだ。


 まあ、実体は単なる不倫の噂調査なのだが、それを指摘するのは野暮というものだろう。


 そんな『秘密任務』についているムーブで行動するランバートに、近づいてくる者がいる。ミラリオだ。

 

 「ランバートさん、姫様の一大事に関わる任務についているそうですね?及ばずながら私もお手伝いいたしましょう。ちょうど抱えていた案件も片付きましたから」


 以前、地上げ問題を解決した時に素を見せたにも関わらず、この若き三番隊隊長はランバートに事あるごとに絡んで来ている。と言ってもそれは恋愛的な好意からではなくて、ランバートについていく事で未熟な自分を成長させようという考えらしい。


 あまりにまとわりつかれ過ぎてランバートはもう、参謀官として体裁を取り繕った話し方をミラリオにはしていない。


 「いや、ありがたいがお嬢ちゃんには今回の件は向いてないよ」


 「私が向いていない任務ならむしろお手伝いします。確かに今はまだ私はランバートさんに比べると世間知らずな所もあるかもしれませんが、今後はどんな任務でもこなせるように成長したいと考えています。ですから、いろんな任務に積極的に挑戦して経験していきたいんです」


 (遠回しに邪魔するなって言ってるんだけど、わかんねえんだなあ…)


 ランバートは心の中でため息をつく。そもそもただの不倫の噂調査なので、任務を通して成長するなどの高尚な事を期待されても困るのだ。


 「どうしても付いてくるのか?」


 「姫様からは許可を頂いています。『ぜひ、ランバートを手伝ってやってくれ!今回の任務は非常に重要なものだから必ず成功させる必要があるのだ!』と言われていました。姫様にしては珍しく熱くなられていることからもその重要性が伺えます」


 その時のマーガレットの様子を思い出したのか、ミラリオは意気込んでいる。


 (姫さんも余計な事を言うなあ…)


 マーガレットに対して忠誠心の厚いミラリオを説得するのをランバートはそうそうに諦める。


 「ついてきてもいいけど騒ぐなよ」


 「ふっ、あまり私を舐めないでください。伊達に三番隊隊長をしていませんよ。帝都の中でも特に治安の悪いと言われる地域にも行った事があります。どんな危険なところでも、まず驚くことはありませんね」


 自分の事をお嬢ちゃんと侮っているランバートに反発して口の端を上げている。


 (そういう意味じゃねえだけどなあ…。まあ、いいか)


 ここで話していてもしょうがないとばかりにランバートはミラリオを目的地に連れて行くことにしたのだった。



                     *



 やがてたどり着いた場所でミラリオは案の定大声を出す。


 「こっ、こんな所を調査するなんて!何考えているんですか?!」


 「騒ぐなって言ったはずだぜ、お嬢ちゃん」


 「だからって、こんないかがわしいところで何の調査をしようって言うんですか」


 騒ぐなと言われて小声で抗議するミラリオ。


 「五番隊隊長ダンケルの素行調査だよ。この店に頻繁に出入りしているのはすでに調べはついている。だいたいこの程度の店で騒ぐなよ。それほどいかがわしい店じゃねえよ」


 などど偉ぶった事を言っているがランバートもこの(たぐい)の店にはほとんど行ったことがない。何しろ筋金入りのソロ大好き人間なので「何が悲しくて金を出してまで知らん女と話をしないといけないんだ」と思っている変人なのだ。


 ちなみにランバートが言っている様にこの店はただの飲み屋でちょっとセクシーな格好をした女性が酌をしてくれるだけの場所だ。この程度では確かにいかがわしいとまでは言えないのだが、お嬢様育ちのミラリオには十分刺激が強いらしい。


 「私は執政警邏隊参謀官のランバートだ。女将はいるか?」

 

 ランバートが役職名を名乗ると女将がすぐに出てくる。ここでも執政警邏隊の雷名はとどろいているらしい。


 「あの…、なにか?私の店は違法な行為はしていませんが…」


 恐る恐る話す女将は執政警邏隊の白服と赤服(しかも女性)が来た事に困惑の表情を隠せない。


 「いや、驚かせてすまない。別に公的な取締りで来たわけではないのだ」


 ランバートは表情を和らげて女将の気持ちを落ち着かせる。


 「では、遊びに来られたのですか?」


 女性連れで、と思わないでもないが少しほっとしている女将。


 「それも違うな。実はここに来ている五番隊隊長の事について少々聞きたいことがあるのだ」


 ランバートがそう言うと女将は再び顔を曇らせる。あまりよい話ではないと思ったのだ。


 「五番隊の隊長さん?ああ、ダンケル様ですか」


 「彼のお気に入りの娘がいたら教えて欲しいと思ってな。今度ダンケルのためにサプライズパーティを開いてやろうと思っているのだがその際の参考にさせてもらいたいのだ」

 

 「サプライズですか…」


 明らかに別の理由のために調べようとしていると女将は思ったが、ランバートの服装を見て考えを巡らせる。

 

 (白服と言うことはダンケル様より立場が上の人ってことよね。それに、ダンケル様はいつもお金の払いもわるいし、女の子にはやたら触ってくるし、あまりよいお客ではない…)


 お客の情報を漏らすのは…。と躊躇するが、相手は白服だ。帝都のエリート集団である執政警邏隊の中でも特別のエリートだ。この界隈で営業するうえで、逆らうのはあまり得策ではない。


 女将は頭の中でそう計算すると、笑顔でランバートに向き直る。


 「わかりました。本来はあまりお話しできないのですが、ダンケル様を喜ばせるサプライズのためと言うことでしたらお教えいたしましょう」


 「ありがとう。悪いようにはしない」


 「いえいえ。ランバート様もごひいきにしてくださいね」


 一度しか名乗っていないのにしっかり名前を憶えているのは職業上さすがというべきだろう。


 「ああ。またいずれプライベートでくることにしよう」


 いかにも手慣れたように答えているが、もちろんこのおっさんにそんな甲斐性はない。剣は得意でも女性の扱いは下手なのだ。


 「お話しするよりも実際に見て頂いた方がよいでしょう。ミナちゃん、ダンケル様のお気に入りのあの3人を連れてきて」


 女将が声をかけるとミナと呼ばれた子が3人の女の子を奥から連れてくる。


 「この子たちがダンケル様のお気に入りです。あの人を接待するなら…わかりますよね?」


 顔のタイプはそれぞれ異なっているが3人ともかなり胸が大きい。


 「ですからダンケル様を接待するなら。例えばそちらの方なら…。あら、これは失言でした」


 ミラリオに睨まれて頭を下げる女将。ただ、本気でミラリオの視線を恐れたわけではないのはその顔つきからもわかるのだった。

次回は 021  噂の黒幕 です。土曜日に更新するとかしないとか。たぶん日曜の夜には確実にします。

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