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019 執政官の不倫 (という噂)

 その日、ランバートは秘書官を通じてマーガレットに呼び出されていた。


 (まさかあの事がバレたのか?)


 地上げ問題を解決して以来、マーガレットは忙しいのか会う機会もなく、お目付け役のミラリオも別の任務についていたので、仕方なくランバートは一人で適当に市中の見回りをしていた。


 雇われた人間には二通りの者がいる。


 見られていなくてもきちんと仕事をする者と、監視されていないと手を抜く者だ。


 ランバートはどちらかと言えば後者なので、見回りの途中にときどき帝都のカジノに出入りしてしまっていた。しかも『調査費』の名目でカジノですった金を経費として請求している。


 (まあ、カジノが適切に運営されているかを調査するのは街の治安維持には大事なことだしな。よし、そう強弁しよう!)


 しっかり言い訳を用意しながらランバートが執政官室に入ると、かなり厳しい顔をしたマーガレットがいる。


 (これは下手に言い訳しないですぐに謝った方がいいか?)


 マーガレットの表情に弱気になるランバートだが、マーガレットはその様子に気づかないで話しかけてくる。


 「貴様を呼んだのは他でもない。実は頼みたいことがあるのだ」


 (なんだ。ただの指令か)


 胸をなでおろしながらも、後ろめたい気持ちがあったので「なんなりとお申し付けください」と片膝をつきながら普段しない態度で答えてしまうランバート。


 「どうした?拾い食いでもしたのか?」


 気持ち悪いものを見るように言いながらも、マーガレットは続ける。


 「その、なんだ。私に関する話を何かきいていないか?」


 いつもハッキリものを言うマーガレットには珍しく歯切れがわるく、視線もそらしている。


 (…姫さんに関する話?)


 ランバートは一瞬考えるが、最近ある噂が流れていることを思い出す。


 「ああ、あのうわさか。姫さんと五番隊の隊長が不倫してるっていう…」


 「ええい、皆まで言うな!不愉快だ!」


 自分で聞いたくせに途中で止めるという理不尽を発動するマーガレットだが、その顔は怒りのあまり血の気が引いたように白くなっている。

 

 「知っているなら話が早い。その噂を流している人物を探し出せ!絶対に、絶対に殺すな!今回は絶対に生かして私の前に連れてくるのだぞ!」


 『氷の』に似つかわしくない執念深さを思わせるマーガレットの態度に、


 「ということは事実じゃないのか?」


 「もちろんそんなわけがなかろう!貴様は私を何だと思っているんだ!」


 「既婚のおっさんにうまい事言われて、ついついその気になって残念な結果になった意外とモテない姫さん?」

 

 マーガレットが独身なので不倫になるなら相手は既婚だろうと、五番隊隊長の事をよく知らないままランバートはろくでもない事を言っている。

 

 「ふざけるな‼モテるわ!私と婚姻したい者は山ほどいる!今までの縁談だけでも両手で余るくらいだ!ただ、立場上相手を吟味しなくてはいけないからまだ結婚してないだけだ!」


 荒い息をつきながら主張するマーガレットにはもはや『氷の』面影すらない。これなら『火の』と改名した方がいいくらいだ。

 

 「…いや、悪かったよ。だけどこの調査は俺じゃなくてもいいんじゃないか?」


 相変わらずやりたくない仕事を避けようとするランバートだが、


 「他に適当な者がいないのだ。私の部下は真面目過ぎて融通が利く者が少ないからな。こういう調査には向かん。しかし、貴様ならこういうこともうまくやるだろう」


 なんだかんだ言ってもマーガレットはランバートの揉め事解決能力を買っている。


 「…はーい」


 了承の返事をしながらも(なんで俺が浮気の噂調査なんか…)という態度を見せているランバートに、マーガレットは右手の人差し指を立てながら言う。


 「うまく解決したら特別ボーナスを出してやる」


 「かしこまりました。マーガレット様」


 『特別ボーナス』の一言に本日二度目の片膝をつくランバートなのだった。




                         *



 


 「これは、これは、ランバート参謀官。どうされたのですか?」


 わざとらしく手を広げる五番隊隊長のダンケルのよく整えられた髭を見ながら、ランバートも慇懃に挨拶を返すが、すぐに本題を切り出す。


 「例の噂の件です。執政官殿との…」


 「ああ、あの悪質なデマですか。困ったものですねえ」


 髭の先をいじりながら眉間にしわを寄せているダンケルは三十代半ばなので若手が多い執政警邏隊の中では年長の部類に入る。顔はまあ、モテる部類入るだろうがどことなく軽薄な感じがする。


 「一応確認しますが、事実ではないのですね?」


 マーガレットは事実ではないと怒っていたが、この件は両方から直接確認するべきだと思ったのか聞いている。


 「当然ですよ。そのような不敬な事をこの私がするはずがありません。ああ、もちろんマーガレット執政官は魅力的な方ですがね」


 フォローするように付け加えるダンケルはいかにも女の扱いになれていそうだ。


 (こいつはタヌキだな)


 そう感じたランバートは揺さぶりをかけてみる。


 「不敬な事、と言うことは相手が執政官でなければするのですか?」


 「言葉尻を捕えるような事を言われると困りますな。私は妻を愛しています。もちろん夫婦仲も良好です。不倫などあり得ない事です。まったく根も葉もない噂ですよ。私も被害者なのですよ」


 (ひる)みながらも少し怒ったように言うダンケルに、


 (口数が多いな。これはもう少し調べる必要があるようだな)

 

 改めて(面倒な事になったな)と思うのだった。

三章始まりました。 次は 020 飲み屋街 (の噂) です。

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