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02 依頼(うさんくさい)

「はあ~、どぶさらいでもするかなあ。背に腹は代えられねえしな」


 そう言ってギルドに引き返そうか悩んでいるのは先ほどギルドから「二度と来るか!」と捨て台詞を吐いて出てきたおっさん、ランバート・ロードス、29歳だ。


 ギリギリ20代なのだがしばらく宿にも泊まれていない見た目のせいで少々老けて見えるが、実際はそれほど悪い容姿ではない。


 ギルドの前で行ったり来たりしている怪しいおっさん(ランバート)を避けるように若いハツラツとした冒険者たちが入っていくが、そんなランバートに声をかけてきた者がいた。


 おっさんだ。ランバートより一回りは上のおっさんだ。


 「もし、そこの御仁(ごじん)。少しいいかな?」


 なかなか身なりがよく、恰幅(かっぷく)もいい。と言えば太っていると思われるかもしれないが、見る者が見ればその身体がしっかり鍛えられた結果なのはすぐにわかるだろう。


 しかし、その顔つきはやり手の商人のように柔和なものだ。普通ならこの男を警戒などしないだろうが、ランバートは不審な顔をしている。


 その警戒を解くように男は柔らかい声で語り掛ける。


 「もし、差しつけなければ私の話をきいてみないか?とりあえず食事でもしながら…」


 食事、ときいてランバートは喉を鳴らす。もう三日もまともな食事にありついていないのだ。


 「まあ、話だけならな。もちろんそっちが持つんだろうな?」


 我ながら卑しい事をきいているとランバートは思うが、はっきりさせておかないと食い逃げ犯になりかねない。それほどまでに金がないのだ。


 「もちろんだ。私の指定する店で良いかな?」


 おごってくれるならランバートに異存はない。ちゃんと話を聞くだけだと釘もさしているし、腹が満たされたらそれでいいと思っている。


 男の案内した店はちょっとした高級店だった。食い詰めた冒険者を連れて行くには分不相応(ぶんふそうおう)な感じだが、顔パスで入っていく男に続いてランバートも堂々と入っていく。


 ランバートは身なりこそみすぼらしいが、場違いな場所に対しても毅然とした余裕のある態度なので見咎(みとが)められることもない。


 もっとも、この店の常連であろう男が連れているので店の者も止めることはないのだろう。


 男はランバートの立ち振る舞いを見て満足している。


 (やはり、ただの食い詰め冒険者ではないようだな)


 こんな庶民には敷居の高い店に来ても卑屈な態度にならないランバートに自分の見立てが正しかった事を改めて認識している。


 店員に案内された個室のテーブルについたところで男は、『ウォーベック』と自分の名前を名乗るがランバートの反応は鈍い。


 それに対して少し拍子抜けしたようなウォーベックに、


 「この国には来たばかりであまり詳しくないんだよ」


 ランバートは言い訳するようにため息をつく。


 そもそもランバートが困窮(こんきゅう)してしまったのも、この国のギルドが今までに立ち寄ったどの国よりもフリーのソロ冒険者に厳しいという現状を調べずに来てしまったせいでもある。


 十年ほど前まで鎖国をしていた国なので情報があまりなかったのだ。


 そして今までの言動からも分かるようにこのランバートという男はコミュ障とまではいかないが、必要以上の人間関係を面倒だと思っているソロ大好き人間だ。


 それなりの年になっているので表面上は他人との会話自体はそつなくこなすことができるのだが、積極的に人と関わることが嫌いなタイプでそれについては本人も改善する気は全くない。


 その方が生きやすいからだ。世間的な出世はしないが。


 「いや、気にしないでくれ。むしろその方がよいかもしれん」


 「なんか気になる言い方だな?」


 気にしないでくれと言われれば気になるのが人のさがというものだ。


 「まあ、まずは食事を楽しもうではないか。ここの食事はなかなかのものだぞ?」


 料理が運ばれてきたのを見てウォーベックは慇懃(いんぎん)にすすめる。


 こう言われると今のランバートに断る理由はない。腹を満たすために来たのだから。


 ランバートが食べだすのを待ってウォーベックも食べ始める。


 「作法通りにしているな?こういうところにはよく来るのか?」


 腹が減っていたとはいえ、がっつくことなく作法にかなった食べ方をするランバートを意外そうに言うウォーベックに、


 「人に連れてきてもらった事が何度かあるだけだ」


 暗に、生まれついてのものでないとランバートは説明する。

  

 「いや、それだけできれば貴族の子弟と言っても通るだろう」


 ウォーベックのおせじともつかない言葉に「そりゃどーも」とランバートは気のない返事をしている。


 一通り食べて腹が落ち着いたところで今度はランバートから話しかける。


 「それで話ってのはなんだ?まさか俺の行儀作法を見たかったわけじゃないんだろ」


 「そうだな、確かに一見の価値はあったがそれが理由ではない。実はな…人を一人殺して欲しい」


 ウォーベックの言葉にランバートは少し眉をピクっとさせるが、そのままフォークを口に運んでいく。


 その様子をウォーベックは満足そうに見る。


 (年の割に世間ずれしていないようなので心配していたが一応殺しの経験はあるようだな。)


 ランバートの腕前についてはウォーベックは微塵も疑っていないが、考えに無用な甘さがないか心配していたのだ。


 

 



 

次回は 03 暗殺(破格の報酬) です。

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