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018 やりたい仕事 (ランバートという男)

 片手で剣を構えるランバートは、参謀官モードで見せていた柔和な笑顔(マーガレットいわく胡散臭い笑顔)ではなく、野生的な笑い顔になっている。その表情は本当に嬉しそうだ。

 

 「わっ、私も戦います!」


 普段とは違うランバートの雰囲気にのまれていたミラリオもハッとして剣を構えるが、


 「お嬢ちゃんはそこで姫さんを守ってな。悪いが足手まといだ」


 「でも…」


 「足手まといだ」

 

 最強を目指していたランバートはなんだかんだ言っても強そうな奴と戦うのが好きなのだ。


 ミラリオを一言で下がらせたランバートは男たちに向き直ると、剣で地面に一本の線を引く。


 「こっから先に行ったら容赦なく斬るぜ」


 ただの線に過ぎないのだが、ランバートの眼光から文字通り死線を感じさせられて男たちは二の足を踏む。


 あの線を超える事は命にかかわると本能的に感じ取っているのだ。


 その様子にランバートはニッコリ笑う。


 「俺を恐れるとはなかなか筋がいいぞ。褒めてやる」


 その意外な表情に男たちの緊張が緩んだ瞬間、 


 「あ…?」


 ちいさく悲鳴を上げて白目をむく男の額には棒手裏剣が突き刺さっていた。


 「なにっ…!?」


 いつの間にかランバートの左手の中には数本の棒手裏剣が握られている。それを眼にもとまらぬ速さで投擲していたのだ。

 

 絶命した男を見たその仲間たちは、ランバートの書いた線を越えていないのにという顔をするので、


 「斬ってねえだろ。ぶっ刺しただけだからな」


 無茶苦茶な屁理屈を言うランバートはいい笑顔をしている。


(相変わらず性格が悪いな。だが、こういう時は頼りになる男だ)


 マーガレットがそう思っている間にまた一人男が倒れる。今度は心臓のあたりに棒手裏剣が刺さっている。


 「くそっ!全員でかかれ!間合いを詰めて、接近して仕留めるのだ!」


 (こいつはむしろ離れた距離で戦う方が得意だったのだ!だからわざとらしく線を引いて我々を近づけさせないようにしていたのだ!)


 頬に傷のある男の指示に従って残った者たちが一斉にランバートに向かっていく。


 (あれだけの指示で意図を理解するなんてよく訓練されてるな)


 ランバートが感心している様にこうすれば棒手裏剣を投げたところで仕留める事ができるのは数人で、あとの者たちは線を越えることができるだろう。


 実際に男たちが接近するまでにランバートは二人の男を仕留めたが、残りの七人はランバートの書いた線を超えてくる。


 だが、その線を越えた時点で先頭にいた二人の男の首が切り落とされる。その光景に驚いた三人目の男は口を開けたままの表情で地面に首が落ちている。 


 さすがに四人目、五人目は立ち止まって後退しようとしたところをそれぞれ心臓を一突きされる。


 六人目は勇敢にも剣を構えるが、それを動かす事はかなわない。構えた時にはすでに斬られている。


 七人目は逃げようとしたところを背中から斬られて絶命する。


 人を殺す事をまるで流れ作業にように淡々とこなすランバートだ。本気を出せばこれくらいの事はできるのだ。


(し、信じらんバケモノだ。俺の手塩にかけた部下たちがまるでただの素人扱いだ)


 頬に傷のある男は驚愕する。三番隊に逮捕された使い捨ての部下と違い、彼らは一流の腕前を持つ者ばかりだったのだ。


 しかも、ご丁寧な事に全員斬られた場所は全て線の内側になっている。


 「後はお前だけだぜ。逃げるか?」


 「無理だろう。貴様は次元が違う。部下たちがいれば可能性もあったが俺一人では無理だ」


 部下がいれば勝てるという意味ではなく、捨てゴマにして逃げる事ができたという意味だろう。


 「そうだな。お前なら部下がいたら逃げることはできただろうな」

 

 ランバートが線を引いた本当の理由は、男たちを自分の近くに引き寄せてまとめて始末するためだったのだ。


 (数が多いだけにバラバラに逃げられたら面倒だからな。追いかけるのは疲れるし)


 「見逃してはくれないんだろうな?」


 「あいにくだが金のために人殺しをしようって奴を見逃す気はないな。生かしておいたらまた金のために人を殺すんだろ?これ以上、お前は生きなくていいぜ」


 金のために人を殺していないが、その金を持ち逃げしているやつがどの口で言っているのだとマーガレットは思うが今はそれどころではない。この男は殺させるわけにはいかないのだ。


 「そいつは殺すな!生かして捕らえよ!」


 マーガレットの下知にランバートは苦虫を噛み潰したような顔をする。


 逆に頬に傷のある男は頬を緩める。


 (絶対絶命のところを救われたのだから当然か)


 ミラリオがそう思うが、次の瞬間息を呑む。


 男は自分の喉を刺して自死したのだ。


 最後に見せた笑顔は命が助かる事の喜びではなく、ランバートに一泡吹かせる方法を思いついた事によるものだったのだ。


 「くそっ!しくじったか!」


 悪態をつくランバートに、マーガレットがわざとらしいため息をつく。 


 「はあ〜。全滅させてどうする。暗殺の依頼人を知る事ができなくなるではないか」


 「何言ってやがる。姫さんが不用意な発言をするからだろ。俺はちゃんとあいつを生かして捕えるつもりだったんだよ」


 「私のせいだと言うのか!」


 「あ〜あ、姫さんが余計な事言わなければなあ…」


 「何を言うか。貴様が自死をする前に素早く動いて捕らればよかったのだ!」


 「無茶言うなよ。そんな簡単な相手じゃなかったんだよ!だからあえて追い詰めるような発言をしてだな…」


 「そうやって変に凝ったことをするから肝心なところで貴様は失敗するのだ」


 「いやいやいや、それは違うだろう?」


 子供のように言い争う二人にマーガレットのこんな姿を見たことないとミラリオは唖然としている。


 何よりランバートの口のききかたも無礼すぎると思うが、それ以上に『氷の執政官』の変わりぶりに戸惑うのだった。

次は 登場人物まとめ です。 水曜日更新予定です。

本作は短篇(五話程度)が続くような形式になります。

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氷の執政官さん?
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