015 裏路地 (揉め事)
「彼女はどのような方なんですか?」
ギルドを出るとランバートはさっそくミラリオにラナの素性を確認している。
「気になるんですか?」
ミラリオはラナの恋が成就するのかと前のめりになるが、
「いえ、ギルドの受付嬢にしてはずいぶん腕が経つようですので…」
続くランバートの言葉に(そんな事か)と少しがっかりしながら答える。
「士官学校の一年先輩でしたの実力は知っていますが、剣術等の戦闘実技は普通でしたよ…。あっ、でも捕縛術だけは抜群に成績が良かったですね。あれは名人芸でした。最盛期には両足首を縛って更に両手に十キロの重りを付けた状態で教官を捕まえていましたからね」
「…どんな授業なんですか、それ」
「ラナだけですよ。どんなに頑張って逃げても捕まえるからどんどんハンディが増えていった結果です」
その時の様子を思い出したのかしみじみとした顔で言うミラリオなのだった。
*
ギルドを出てからしばらくしてランバートがミラリオに話しかける。
「この辺りはちょっと雰囲気が違いますね」
帝都は都会らしく整備された建物が多いのだが、今歩いているところはそれまでと違ってかなり雑然とした感じがする。
「この辺りは再開発を進めている地域です。一昔前は帝都全体がこのような感じだったのですが…。あっ!」
ランバートの問いに答えていたミラリオだったが、何かを見つけたのか駆けだしていく。
「ああ、やめておくれよぉ」
「ババア!さっさとここから出て行けっていってるだろ!」
「おらおら!みんなやっちまえよ!」
路地裏で老婆が店を開いているのだが、その売り物の果物が入った篭をゴロツキのような格好をした男たちが蹴とばしている。
老婆はそうそうに男たちに逆らうのを諦めて、転がった果物を必死に拾い上げようとしているが男たちはその果物を踏みつぶしたりして更に店を荒らしていく。
(おいおい、まさかこんなベタな事に顔を突っ込むのかよ…)
ランバートがそう思っている間に、ミラリオは現場にたどり着いている。
「貴様たち、何をしている!止めないか!」
ミラリオの執政警邏隊の制服を見て、男たちは一瞬怯んだようだったが、飛び込んできたのが年若い女一人だと分かると強気にでてくる。
「関係ないお嬢ちゃんは引っ込んでな!」
「なっ、なんだと?!」
普段は三番隊の部下たちを引き連れて巡視していたミラリオは今までこんな対応をされた事がなかったのか、綺麗な顔を真っ赤にして怒るが、男たちには効果がない。
「まっ、これから俺たちと関係を持ってくれるなら大歓迎だけどな!」
ミラリオの豊かな胸を見ながら下卑た笑いを浮かべる男たちに生真面目なミラリオはあっという間に沸点に達する。
「許せん!」
もはや何に対しての怒りなのかわからないが、ミラリオは刀を抜き放つと先頭にいた男に斬りつける。
「ぐあっ!」
うめき声を上げて倒れ込む男だが血は出ていない。さすがにいきなり斬り殺すわけにもいかないので峰打ちをしたらしい。
これには男たちも笑顔を消して、標的を完全にミラリオに変える。
「こっ、こいつ!やりやがったな!こうなったら執政警邏隊だからって構うことはねえ!やっちまえ!」
男たちもそれぞれ武器を取り出してミラリオにかかっていく。
剣を持っているのが二人で、後の三人は小剣だが持ち方からして正式に武器の使い方を習っていない素人なのがわかる。
(これなら俺が出るまでもないな)
ランバートは歩いて近くまで来ていたが、ミラリオに任せる気になっている。
ミラリオに関しては、それなりに才能のある者が真面目に修練を積んだくらいの実力はある、とランバートは見ている。
赤服を飾りで着ているわけではないらしい。
五人の男たちはそれがわからないのか果敢に挑んでいくが、ミラリオは傷一つ負うことなく一方的に峰打ちされまくっている。
やがて男たちは助けを求めるように後ろ控えていた頬に傷のある男の方を見る。
その頬に傷がある男は遠巻きにみているだけだが、その眼光は鋭い。
(あいつはなかなかできるな…)
ランバートはあの男が参戦するようなら自分も加わるしかないか、とため息をつきながら近づいていく。
たが、その動きに目ざとく気づいたのか、
「野郎ども、引き上げるぞ!」
それまで傍観していた男は一声怒鳴ると、そのまま立ち去っていく。
そのたった一言にミラリオに群がっていた男たちはサッと反応して、捨てゼリフすら言うことなく怪我人を背負って撤退していく。
「待て!逃げるのか!それでも男か、卑怯者!恥をしれ!恥を!」
逃げる男たちに追い打ちをかけるように甲高い声で喚いているミラリオだが、
(見りゃわかるだろ)
とランバートは冷めた目で見ている。
(それにしてもただのゴロツキにしてはえらく統率がとれてるな。よっぽどあの男が怖いのか、それとも…)
ランバートがそんな事を考えている間にミラリオは老婆を助け起こしている。
「ケガはないか」
と心配そうに声をかけるミラリオに対して老婆の反応は予想外のものだった。
「ふんっ!いつ、誰が、どこで、助けてくれなんて言ったんだい?!まったく余計なおせわなんだよ!」
「…えっ!?」
先ほどまでか細い悲鳴を上げていた老婆と同一人物と思えないほどふてぶてしい態度で吐き捨てられて、ミラリオは硬直するのだった。
次回は 016 老婆 (地上げ) です。
仕事でいろいろあって更新が怪しいですが土曜日更新予定です。土曜日のかなり遅くなるかもです。