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014 受付嬢 (ギルド)

 ミラリオとランバートがギルドに入ると、執政警邏隊の赤服と白服はかなり目立つのか、ここでも自然と視線が集まってくる。


 しかし、こちらを気にしているくせに目が合うと皆サッとそらしている。


 やましい事がなくても公権力の権化のような執政警邏隊の存在は一般の冒険者にとっては好ましいものではないようだ。


 なによりミラリオが道中で説明してくれたのだが「執政警邏隊はワイロを受け取らないと有名ですからね」ということらしい。


 他の帝都の兵士たちと違って、犯罪を金でお目こぼしするという事がないので煙たがられているのだ。


 逆に言えば帝都の兵士たちは金で犯罪をもみ消す事が日常茶飯事になっていたからこそ、マーガレットは執政警邏隊という新たな警察組織を作ったのだろう。


 (俺は知らなかったから気にも留めなかったが、もし知っていたらこういう反応をしたかな?)


 ランバートは自問するが、


 (まあ、ワイロをする金もなかった俺にはどっちでも関係ない話だな)


 と身も蓋もない結論に達している。   


 ちなみに守銭奴である我らが主人公はワイロの誘惑に勝てるのか不安だったので「執政警邏隊がワイロを受け取らないのは本当ですか?」とその話を聞いた時にミラリオに確認したものだ。


 以下がそのやり取りだ。


 「執政警邏隊員は高潔(こうけつ)な人格者から選ばれていますし、金銭的にも恵まれていますからワイロに転ぶような事はまずありません。それに執政警邏隊員がワイロを受けたら他の者より罪が重く、厳罰を受ける事になりますからね」


 (高潔な人格者…。俺はそれに当てはまってねえんだけど)そう思いながらもランバートは気になったことを質問する。


 「厳罰って…まさか死刑ですか?」


 息をのむランバートに、ミラリオは笑って答える。


 「まさか、そこまでは重くありません。…ただし」


 「ただし?」


 「男性の場合は去勢(きょせい)されます」


 聞き捨てならない事を付け加えているがミラリオは真顔だ。そんなミラリオにランバートは恐る恐る尋ねる。


 「去勢って…あれをなにするやつですよね?」


 「はい、斬りおとします。まあ、今のところそうなった人はいないようですけど」


 平然と答えるミラリオに、ランバートは自分の股間を見ながら(お前はまだ俺と別れたくないよな?)とワイロの誘惑に絶対負けない事を誓ったものだ。


 以上回想終わり。


 話は再びギルドに戻るのだが、遠巻きにランバート達を冒険者たちが見ている中でミラリオに愛想よく話しかけてくる者がいる。以前ランバートをギルドから追い出した例の受付嬢だ。


 「あら、ミラリオ。お久しぶり」


 「ラナ、元気にしていましたか?」


 ラナと呼ばれた受付嬢は眼鏡を光らせながら答えている。


 「ええ。仕事の方は相変わらずロクな事がないけど健康の方は問題ないわ」

 

 この二人は顔見知りなのか気の置けない会話をしている。


 しかし、受付嬢はミラリオと話しながらもランバートの方をチラチラ見てくる。


 そんな受付嬢からの視線を感じてランバートはこめかみに一筋の汗を流す。


 (こいつ…まさか俺だと気づいたのか?)


 あの時とは髪型も変えているし、眼鏡もかけている。何より秘書官の指導によって超ランバートになっているので本人ですら自分とわからないくらい外見が変わっているので気付かれるはずはないのだが…。


 受付嬢の様子が変な事に気付いたミラリオがランバートを紹介する。


 「こちらはランバートさん。この度、執政警邏隊の参謀官になられた方です」


 「ああ、こちらが!お噂はかねがね…」


 うっとりとした目で上目遣いに見てくる受付嬢の頬はほんのり赤くなっている。


 (ん?この反応はなんだ?)と思いながらランバートは名乗る。


 「ランバートです。よろしくお願いします」


 「お若いのに参謀官なんてすごいですね!外国からこられたばかりなのに抜擢されたのですよね!しかも相当お強いとか!」


 さすがに情報をよくつかんでいて立て続けに褒めてくる受付嬢は、以前追い払った使えないおっさん(ランバート)だと気づいていないので全く態度が違う。今のランバートは執政警邏隊の白服というエリートなので気になっていただけなのだ。


 「あのう、私たちだけで解決できない難しい事件があればランバート様にご相談させて頂いてもいいですかぁ?」


 (難しい仕事ねえ…『ペットの散歩』か?)

 

 ぶりぶりに横揺れしながら接近してくる受付嬢を避けるようにランバートは(あと)ずさりする。


 「市民の安全を守るのが我々の仕事です。いつでも声をかけて下さい。それとも今何か困っていることがありますか?」


 と微笑みながら参謀官らしく答えている。


 「炎魔竜討伐があったのですけどぉ、もしかしてランバート様ならお一人でも倒せたりするんじゃないですかぁ」


 「どうですかね、以前倒したことはありますが…」


 (お前、一人じゃ無理って言ってなかったか?)


 「ああん、やっぱりそうだったのですね!残念ですぅ。炎魔竜討伐はすでに他の方々に依頼してしまって…。こうなることがわかっていたら、絶対にランバート様にお願いしましたのに…」


 ちゃくちゃくとフラグを回収していく受付嬢だが、その後も距離を詰めながらの質問攻めは続いていく。


 「ちなみにご家族の方も一緒に帝都に来られているんですか?」


 「一人で来ていますが…」


 (ちっ、近いな…)


 「え?ではもしかして独身なんですかぁ」


 「まあ、そうですね」


 (うおっ、さらに近づいている!?)


 「恋人はいらっしゃいますか?」


 「いえ…うわっ!」


 (うそだろ!?俺が本気で避けてたのに腕をつかんでくるなんて!どんな歩法だよ!?)


 だんだんと近づいてきて、しまいにはもたれかかるようにして腕をつかんで胸を押し当ててきたラナに、ランバートは戦慄する。


 本気のランバートを捉えるなどほとんど神業に近いのだが、この受付嬢はそれをやってのけているからだ。


 見かねたミラリオがランバートからラナを引き離す。


 「ラナ、何してるんですか」


 少し離れた場所で小声で話しかけるミラリオに、


 「だって、エリートよ!エリート!執政警邏隊の白服で、しかもサミュエル総隊長より強くて、顔もなかなかハンサムじゃない。頭の方も切れそうだし、こんな優良物件そうそうないわよ」


 数日前に追い返したおっさんだとも知らずに媚びまくってくるラナに、


 (やっぱこいつ苦手だわ…)


 と恐怖するランバートなのだった。

次回は 015 裏路地 (揉め事)です。 

水曜日更新予定です。

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