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013 三番隊隊長 (ミラリオ)

 ランバートは困惑していた。なんとなくなってみた執政警邏隊の参謀官なのだが、その仕事内容がよくわからないのだ。


 実はランバートに()()()()()()をさせる時に高い身分があった方が便利がよいだろうとわざわざ新設したものなので職務はまだ決まっていないのだ。


 そのためマーガレットの最側近である秘書官にきいても「さあ、執政警邏隊では初めての役職ですからねえ。どんなことをするのやら」と要領を得ない。

 

 それならばと当のマーガレットに直に参謀官とやらはどんな職務をするのかと問うてみても「まあ、そのうちに指示するから今は通常の執政警邏隊の任務にあたってくれ」と言うだけなのだ。


 これは雇われたときにも言われたが、ランバートに何をさせるかは「...まだ考えていない」らしい。あの時は半分冗談で言ってるのだろうと思っていたがどうやら本気だったようだ。


 この執政官は『氷の』という二つ名を冠しているわりに、変なところで抜けているところがある。それは若さゆえの未熟さなのかもしれないが、そのおかげでランバートという変なおっさんを雇えたところもある。


 もし、この執政官が噂通りに冷徹なだけの女性だったら、殺されはしなかったかもしれないがランバートば雇われもしなかっただろうから。


 仕方なしに通常の執政警邏隊の職務である市中の巡察をする事になったランバートなのだが土地勘がないだろうという事でマーガレットは案内係を用意してくれていた。


 「彼女に貴様の市中の案内をさせる。執政警邏隊員ではあるが、私の友人でもある。最も信頼している者の一人だ」


 そう紹介するマーガレットの隣に立っているのは赤い隊服の執政警邏隊員だ。


 (赤って事は隊長クラスか)

 

 ランバートがそう思っていると、その考えがわかったように生真面目(きまじめ)に口を開いて敬礼する。


 「執政警邏隊三番隊隊長ミラリオです。本日は私がランバート参謀官の市内案内を務めさせていただきます」


 ミラリオは年のころは二十歳前で、金髪が短くまとめられており、一見すると小柄な美少年に見えるが、マーガレットが『彼女』と言っていたように女性だ。控えめなマーガレットと違って、出るところはしっかり出ているのが服の上からもわかる。


 「よろしくお願いします。3番隊隊長自ら案内していただけるとは光栄の至りです」


 ランバートは微笑みながら挨拶をしているが心の中では、


 (ちっ、俺が一番苦手なタイプをお目付け役にしてやがる。ホントにいい性格してるぜ)


 としっかりマーガレットに悪態をついている。


 年齢が近いものや、同性である男性ならいくらでも懐柔(かいじゅう)する手を思いつくランバートだが、一回り年下の女性で、しかもこんな融通の利かなさそうな生真面目タイプはランバートがどう接していいか一番わからないタイプだ。


 もっとも能吏(のうり)な文官モードになっているランバートはそんな素振りは見せてはいないが、マーガレットはその困惑に気づいていて、


「まあ、仲良くするのだぞ」


 と意地の悪い顔で(という風にランバートには見えた)念押ししてくるのだった。


 

                      *


 ミラリオに連れられて帝都内を歩いていくランバートが感じるのは執政警邏隊の隊服に寄せられる畏敬の視線だ。これだけでも執政警邏隊がいかに一般市民から特別な存在だとみられているのがわかる。


 巡回中に兵士たちに至ってはいちいち立ち止まって敬礼してくる。


 ミラリオの話では執政警邏隊は紺色の一般隊員でも下士官扱いで、赤い隊服は将校、白い隊服は高級将校にあたるので赤い隊服のミラリオと白い隊服のランバートがいれば当然の反応だという。


 このようにミラリオは市中を案内しながらもランバートの問いに答えてはくれるのだが、妙に距離を感じる。


 それでもランバートはなんとかうまくやろうとするがミラリオの反応はいまいち芳しくない。


 最初に会った時からだが、どうも自分に対して警戒しているような雰囲気を感じるのだ。


 (あの総隊長に対してやりすぎたかな)とも思ったが、どうもそれだけではない気がする。


 ランバートは思い切って聞いてみることにした。


 「なにか私に不審な点でもありますか?まあ、外国から来た新参者がいきなり参謀官に抜擢されたら確かに怪しい気もしますがね、『こいつは何かある』ってね」


 冗談ぽくいうランバートだが、ミラリオはハッとした顔になる。ややあって、


「…実はあなたの金の使い方を監視、いえ、よく見ておくように姫様から言われているんです。とにかく金銭関係については厳しい目で見るようにと…公金横領でもしたんですか?」


 疑惑視線を向けてくるミラリオに、


 「まさか、心当たりはないですね」


 ランバートはなんのことかわからないという風に白々しいほど快活に笑いながら答えているが、


 (あのクソ王女~!てめえでハードルあげといて『仲良くするのだぞ』じゃねーよ!)


 と先ほどのマーガレットの意地の悪い顔を思い出して心中では憤っている。


 そんなランバートの胸の内をしらないミラリオは、


 「そうですよね。姫様が雇った方が公金横領なんてありえないですよね。そんなわけがないですよね。すみませんでした」

 

 と自分自身に言い聞かせるように素直に謝っている。


 その姫様を暗殺しにきて、暗殺の依頼金を持ち逃げして、さらに寝返っているというある意味横領よりもはるか()()()()()()()()事をこの男はしているのだが。


そんな話をしながら市中を案内されていたが、やがてたどり着いたのはある意味では懐かしの場所、冒険者ギルドだ。


 「ここが冒険者ギルドですね。主に民間からの依頼を集めて冒険者に紹介しています。たまには公的な仕事も流れてきているようですがそのほとんどは民間軍事組織に委託されています。そのため個人の冒険者にまともな仕事が回ってくる事はあまりないですね」


 ミラリオの説明に(それはよく知ってる)と思うランバート。


 「それでは他国から来た冒険者は困るでしょうね。そのやり方では優秀な冒険者はこの国に来るのを避ける事になるでしょう」


 飢え死にしかけていたランバートは私怨も相まってここぞとばかりに批判している。


 「そうですね。姫様もそのことを心配されていますが、これでも十年前に鎖国が解かれた頃よりはだいぶマシになったんですよ。姫様がテコ入れされましたからね。そんなわけでギルドには執政警邏隊が関わることも多いですから一度挨拶しておきましょう」


 (さすがは姫様が目をかけているだけはある。ギルドの問題点をすぐに見抜いていますね)


 ランバートが意図しないところでミラリオはその見識に感心しながらギルドに入っていくのだった。

 

次回は 014 ギルト (受付嬢)です。

土曜日更新予定です。ちょっと仕事の関係で更新予定曜日が定まりませんが3~4日程度で更新していきます。

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