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011 戦いの後に(講評)

 サミュエルとの戦いの後にマーガレットの私室に戻ってきたランバートが、


 「今回の顔合わせは執政官殿のお望み通りになりましたか?」


 と意味ありげに言うとマーガレットは苦笑する。


 「やりすぎなくらいだ。まあ、悪くはなかったがな」


 もともと普通の執政警邏隊員になる事をランバートに望んでいなかったマーガレットは冗談交じりに「貴様らしい自己紹介をしてみせろ」とランバートにブラック企業の上司の様な無茶ぶりをしていたのだがランバートは少々その期待に応えすぎたらしい。


 「しかし、その気持ちの悪い口の利き方をいつまで続けるつもりだ?私の前ではやめてもらおう」


 「ひどいですね」


 ランバートは白々しい顔で苦笑するが、マーガレットは本気で嫌がる。


「貴様の様な本心のわからぬものがそんな口の利き方をするとより不気味なかんじがするのだ。私の前では今まで通りでよい」


 「へいへい、雇い主様には逆らいませんよ」


 ランバートの方もこっち方が楽なのかすぐに元の口調に戻る。


 「しかし、ずいぶんとあっさりと私の部下で最強の者を倒してくれたものだ」


 ため息をつきながら言うマーガレットに、


 「いや、あいつはなかなか強かったよ。まともにやれば俺も苦戦しただろう。ちょっと戦い方が綺麗すぎるのと経験不足だがな。あれはまだまだ強くなるよ」


 ランバートは真剣な顔で答える。この男は基本的に戦闘に関しては真面目な評価をするのだ。


 「意外と褒めるのだな」


 「事実をいっているだけだ。実力は俺とそう大して変わらんよ。ちゃんとした道場で戦えば俺でも三本に一本はとられるだろう」


 「素人目(しろうとめ)にもそうは見えなかったがな。お前のとの間には明らかな差があったぞ。私の部下だからと言って気をつかう事はないのだぞ」


 ランバートの評価をきいてもマーガレットは一概に信じられない。むしろこの無礼者にもこんな気遣いをする面があったのかと思っている。


 しかし、ランバートはそれが忖度(そんたく)である事をはっきり否定する。


 「別におせじを言っているつもりはねえよ。俺が圧倒できたのは地の利を生かしただけだよ。あらかじめあの庭の中はじっくり調べておいたからな。地面のちょっとしたへこみや、庭木の枝の位置、庭石や風の通り道、日の光の漏れ方、そのすべてを利用したのさ。でなけりゃあのレベルを圧倒できるほど俺は強くねえよ」


 これはランバートの本心だろう。


 小細工なしでそれができるのがランバートの目指した最強なのだが、その域には届かなかったからこそ覚えた戦い方(疑似最強)なのだ。


 「それだけであそこまで圧倒できるものなのか?」


 圧倒できた理由を説明されてもにわかには信じられないマーガレットに、


 「まあ、ちょっと仕掛けもしておいたしな。ある地点の地面をほんの少しぬかるむようにしておいたりな。最初にあいつがそこ行くように戦いの場を誘導していたんだよ。初めに戦いにくさを感じたらそれはあとあとまで影響するもんだ。特に初めて戦う相手ならなおさらだ。それを払拭できるほどの経験があいつには無かったって事だな」


 ランバートは更なる種明かしをする。自分のせいでサミュエルが不当に弱かったと評価されるのは本意ではないらしい。


 しかし、こんな種明かしをしなければ自分の実力をより大きく見せて、過大な評価を得る事ができるものなのだが、そんな事はこの男は思いつかないらしい。


 (こいつは普通なら出世できないな。出世する奴は自己評価が高く、他人を弱く見せて、それと比較して自分自身の実力より高く見せるのがうまいものだ)


 マーガレットは自分はランバートに対して白い隊服という最大級の評価を与えていながらそんな事を思っている。


 「それであの庭で戦う事を選んだのだな」


 「まさかあいつも新参者の俺の方があの庭に詳しいとは思わないだろ。ましてやそこにあらかじめ仕掛けまで用意してるとは考えもつかないだろうからな」


 得意げに話すランバートを見て(無邪気な男だ)とマーガレットは苦笑する。


 実戦的な事には頭が回るくせに、世俗的な駆け引きは考える気がないランバートはいまだに最強を目指している少年そのものなのかもしれない。


 「まあ、今後は仲良くやるのだぞ。悪い者たちではない」


 「わかってるよ。あいつらは思ったよりも気の()いた、姫さん思いの連中だったしな。もっと頭の堅い奴らだと思っていたが、まさか姫さんの安眠を妨げない事まで考えているなんてな」


 一人で寝室前を警備をする理由を『マーガレットに余計な気をつかわせないため』だと言っていた執政警邏隊の事は気に入ったらしい。しかし、その後にランバートらしい余計な一言を付け足している。

 

 「もっとも、その当人は外に人がいるくらいで眠れないようなたまじゃねえけどな」


 自分が寝室に侵入した時にそれに気付かないでだらしなく寝続けていたその顔を思い出したのか、忍び笑いをするランバートに、


 「うるさい!」


 と怒鳴りながら(こいつは少しは雇い主の評価を気にする口の利き方を覚えるべきだ!)とマーガレットは思うのだった。

次回は 012 密談(ウォーベックと覆面) です。

評価、ブックマークありがとうございます!次回は土曜日更新です。

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