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010 決闘 (なかなか強い)

 「よし、姫からお許しが出たからには貴様の実力を見せてもらう事にしよう」


 「我らの中には強い者がいないと言ったな?さて我らを試して頂こう!」


 「こやつと戦いたいものは名乗り出ろ!皆で相手をしてもらおうではないか!」


 我も我もと名乗り上げる執政警邏隊員を見て、


 (俺を全員で袋叩きにでもするつもりか?さすがにだるいな…)


 いくらランバートが強いとはいえこの数は多すぎる。ここにいる全員を相手にするのはさすがに現実的ではない。

 

 (まあ、いざとなったら隙をついてとんずらすればいいか)


 ちょっと都合が悪くなるとすぐにこんな事を考えているので、つくづく定職に向かない性格なのだろう。


 ランバートの気持ちが逃げ出す方向に傾きかけたところで、総隊長サミュエルが一喝する。


 「皆、静まれぃ!一人を相手に見苦しいと思わないのか!それでも誇りある執政警邏隊か!こやつの相手は私が一人でする。異存はないな?」


 さすがに執政警邏隊の総隊長をしている男だけあって街のチンピラたちとは違うようだ。


 毅然とした態度で宣言するサミュエルに皆、沈黙する。確かに一人を相手に大勢で挑むのは卑怯だと反省したのだ。


 そして『執政警邏隊最強の男』のサミュエルなら安心して任せられると思ったのもある。万が一にも無様に負ける事はないだろう。


 部下たちが静かになったのをサミュエルは満足そうに見ると、ランバートに向き直る。


 「言っておくが真剣でやる気はないぞ。あくまで腕試し。殺し合いをしたいわけではないからな」


 「それで構いません。では、場所はこちらで指定させて頂いてもよいですか?」


 サミュエルの提案を受け入れながらランバートも要求を出していく。


 「いいだろう。どこであろうとすぐに使えるようにしてやろう」


 屋外の練兵場でも屋内の鍛錬室でもサミュエルの権限ならすぐにおさえることができる。


 「いえ、移動するのが面倒なのでそこでやりたいのです」


 そう言ってランバートが指さしたのは城の中庭だ。その人を食ったような物言いに周りの者が再び騒ぎ出すが、


 「かまわん。他に何か要望はあるか」


 サミュエルはその鋭い目でまっすぐランバートを見すえたままきいてくる。


 「そうですね。魔法はなしでお願いします」


 「純粋な剣技のみで戦うと言うことだな?望むところだ。むしろこちらはその方が都合がいいくらいだ」


 ランバートは魔法もそれなりに使えるが、あえて魔法なしで戦う事を提案し、サミュエルもそれを受けている。


 このやり取りは魔法を警戒しているいうよりは、剣技に突出した実力がある者たちのやり取りだ。


 近距離で一対一で戦う場合、下手に魔法を使わない方が強い事を知っているのだ。


 お互いがその実力を認め合っている証拠に、


 (俺より少し年下だろうが、こいつはなかなか強いな。総隊長ってのはダテじゃねえな)


 ランバートがそう思えば、


 (この男相当できる。しかし、私も執政警邏隊総隊長として恥ない戦いをしてみせよう)


 サミュエルもまたきちんとランバートを評価している。


 自他共に認める『執政警邏隊最強の男』サミュエルはウォーベックたち『国三指(くにさんし)』には一歩及ばないものの、それに次ぐ実力を持つグループに属している。


 実際のところ、このレベルの実力者たちなら戦ってみなければその勝敗はわからない。以前、サミュエルはウォーベックと手合わせしたときにも見ごたえのある勝負をして決着はつかなかった。


 サミュエルならば仮に勝てなかったとしても、執政警邏隊にも強い者がいると認めさせるだけの戦いはできるはずだ。


 ごく少数の実力者たちはそう見ていたし、それ以外の者に至ってはいかにも理屈っぽい文官のようなランバートにサミュエルが負けるとは夢にも思っていない。


 しかし、それらの予想はすぐに(くつがえ)される事になったのだった。



                     *



 「どうしました?その程度ですか?」


 「くっ、まだまだ!」


 ランバートとサミュエルの戦いは大方の予想に反して、一方的な展開になっていた。


 完全に息が上がっているのはサミュエルだ。

 

 それに比べてランバートは、汗一つかいておらず余裕のある様子だ。


(お、おかしい。これほどの差があるとは…。私はこの男の実力を見誤ったのか?これではウォーベックたち我が国最強の者たちを遥かに超える化け物だ)


 サミュエルは驚愕する。この国有数の使い手である自分が手も足もでない。

 

 確かにランバートの剣技は鋭い。速さだけでも一流なのだが、正確さも力強さも兼ね備えているので並大抵の強さではないのはわかる。


 しかし、それ以上にサミュエルは自分の動きが鈍いと感じている。

 

(身体が鉛のように重い。これほどまでにやりにくい相手は初めてだ)


 いつもの動きの半分もできていない事に苛立ちながらも、それをランバートの強さを警戒するあまりだと解釈している。


 それ以外にも言葉では説明できない戦いにくさを感じているのだが、それをランバートと自分の間にある実力差だと錯覚している。


 実はこの戦いにくさには種も仕掛けもあるのだが、そうとは知らないサミュエルはすでに気持ちで負けてしまっていた。


 こうなると勝負は決まったようなものだ。


 最後の気力を振り絞って斬りかかったサミュエルの木剣はあっけなくランバートの木剣に弾かれて宙を舞う。


 呆然とするサミュエルにランバートは構えを解いて決着がついた(あかし)の礼をする。


 慌てて礼をするサミュエルが頭を上げるのを待って、


 「どうやら私の言っていることが証明できたようですね。この中には一人で警護できる者などいません。早急に体制を改めて頂きます」


 観戦していた執政警邏隊員を見渡しながらそう断言するランバートに反論できる者はいなかった。





ブックマーク、いいね、して下さった方ありがとうございます。作者は喜んでいます。


次回は 011 講評 (戦いの後に) です。

次は水曜日更新になります。その次は土曜日になるかなと思います。

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