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01 ギルド(門前払い)

 冒険者(定職を持たない者)が仕事を求める場所、といえば冒険ギルドといったイメージがあるがギルドに行けばいつも仕事にありつけるわけではない。あったとしても自分が思っている仕事があるとは限らないのが昨今の風潮だ。


 むしろ国によっては希望通りの仕事を受注できる方が珍しいくらいだったりする。


 ギルドに仕事がないわけではない。魔物たちは相変わらず()いて出てくるが、国軍だってそれにだけに構っているわけにはいかない。敵国だって相手にしないといけないし、場合によっては国内の鎮圧だってある。


 そんなわけでちゃんと外注先として冒険者ギルドは機能しているのだが、基本的にいい仕事は傭兵団などの大規模民間軍事組織に割り当てられる。数人の冒険者パーティや個人活動している冒険者にはそのおこぼれしか回ってこない。


 そんな世界のとある国のギルドの受付でおっさん、と言われるには少々若いと本人は思っているおっさん冒険者が騒いでいた。

 

 どうやらギルドから紹介された仕事が気に入らないらしい。


 「もっと他にないのかよ。これじゃあ子供のお手伝いじゃねえか」


 「そんな事言われても困ります。紹介した仕事を失敗されるとギルドの評判も落ちるんですよ。ある程度の足きりをするのは当然ですよ」


 ギルドの受付嬢は言葉遣いこそ丁寧だが、露骨に顔をしかめている。こういうソロおじさん冒険者は文句ばかりが多くて、そのほとんどが実力が伴っていないという気持ちがありありとその表情には出ている。


 「こう見えても俺は…」


 過去の栄光を仰々(ぎょうぎょう)しく語ろうとする語るおっさんだったが、すぐに(さえぎ)られる。


 「あなたに紹介できるのは、ペットの散歩か、どぶさらいか、草むしりです」


 そういって依頼帳をサッと閉じようとする受付嬢。


 しかし、おっさんは目ざとくある依頼を見つけている。この辺りは熟練の冒険者らしいところだろう。長く冒険者を続けてきたことで身に着けた小賢しさがあるのだ。


 「おっ、炎魔竜(えんまりゅう)討伐があるじゃないか。炎魔竜なら昔倒したことがある。報酬もなかなかだ。よし、これを俺が引き受けてやるよ」


 自信満々に言うおっさんに対して「ハァ~」と受付嬢はわざとらしくため息をつく。

 

 「炎魔竜は10人以上の高レベル冒険者を集めたパーティーでも苦戦するんですよ?嘘つくならもっとマシな嘘をついてください」

 

 あなたみたいなソロおじさんが倒したことがあるわけがないじゃないですか、と言いたげな顔だ。


 「嘘じゃないって!ちゃんと倒したんだよ」


 「それを証明して下さる方は?どなたか一緒に倒した仲間で証明できる人でもいるんですか?」


 「いや…1人で倒したから」


 「ハァァァァァアアア~」受付嬢は先ほどの倍以上のため息をつく。 


 「申し訳ないですが炎竜を単独で倒せるレベルなら世界最強の英雄クラスですよ?あなたは世界最強の一人ですか?」


 「いや…世界最強ではないけど…」


 おっさんは言葉に詰まる。かつて世界最強を目指したことはあったが世の中は広かった。自分ではその域に達しない事を自ら悟ってあきらめた過去があるからだ。


 (世界最強ってそんな軽々しいものじゃねえんだぜ)


 何の気なしに口にしている受付嬢と違って、『世界最強』という言葉にはおっさんには重すぎた。


 本気で目指していたからこその重さがわかるのだが、受付嬢にはそれはない。


 「だいたい、いい年してなんで1人でやっているんですか?普通、あなたくらいの年齢ならパーティーのリーダーか、そうでなくてもある程度の組織に所属してそれなりの地位にいますよ?みたところそれなりの年齢なんですから少しは協調性をもってやった方がいいですよ?」


 年齢で能力を規定するというパワハラじみた言い方をする受付嬢に対して、


 「いやいや、修業するなら1人の方が何かと都合がよかったから!だから俺はあえて1人でやってたんだよ!あえてだから、あ・え・て!」


 社会不適合者のように言われて、あえてソロでやっていたとおっさんは主張するが、それはむなしい主張だった。


 「はいはい、能力のない人はみんなそう言うんですよ。やろうと思えばできる!まだ本気出してないだけ!ですね?」


 「いや、俺は本気でやった結果で世界最強は無理だと…」


 「はーい、次の方どうぞー!」


 まだ何か言いかけているおっさんを追い出すように受付嬢は次の冒険者を呼んでいる。過去の栄光という虚構や自分の現在地を過信しているおっさんに付き合うほど受付嬢も暇ではないのだ。


 ギルドには仕事も冒険者も山ほどいるのだから。


しばらく毎日更新します。


次回は02 依頼うさんくさい です。

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