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第8章: 三上家訪問

二人を乗せたドローンタクシーは、高層ビル群の間をスムーズに進み、やがてミカミ財団の巨大な建物が見えてきた。財団のビルは他の建物よりも一際目立ち、未来的なデザインと壮大な規模を誇っていた。


「ここがミカミ財団…すごい建物だ。」タクミは感嘆の声を上げた。


タクシーがゆっくりと着地し、ドアが開いた。タクミとルミエールは降り立ち、ミカミ財団の入口へと歩き始めた。


「ちなみに、今の理事長は、三上公平さん。三上家の第十五代当主らしいわ」


「ミカミくんの子孫か!会うのが楽しみだよ、それは」


財団の入口で、タクミとルミエールはセキュリティチェックを受ける。しかし、相手が「ルミエール」だと知ると、急に態度が変わった。申し訳ありません、と何度も頭を下げた後、財団のビルではなく、堀を隔てた広大な日本家屋の方に案内された。


木造の建物は、自然の木目と伝統的な瓦屋根が美しく調和し、入り口に立つ石灯籠が静かに佇んでいた。門をくぐると、手入れの行き届いた庭園が広がっていた。苔むした石畳の道を進むと、左右には季節の花々が咲き誇り、小さな池には錦鯉が泳いでいた。庭の中央には立派な松の木がそびえ、その根元には石橋が架かっていた。


「まるで時代を超えてきたような場所だ。」タクミは感嘆の声を漏らした。


「ええ。伝統と現代が見事に調和しているわね。」ルミエールも感心しながら答えた。


玄関でスリッパに履き替えると、奥座敷までは屋敷住みの女中が案内した。廊下を進むと、障子から差し込む柔らかな光が、木の床に美しい陰影を落としていた。ふすまを開けると、そこには広い和室があり、中央には一枚板で作られた見事な座卓が置かれていた。


「お待たせしました。どうぞお入りください。」女中が一礼して言った。


ルミエールとタクミは和室に入ると、そこで待っていた三上公平が立ち上がって出迎えた。公平は優雅な和服を纏い、落ち着いた笑顔を浮かべていた。


「ルミエールさん!ようこそお越しくださいました。ご連絡いただければ、こちらからお迎えに上がりましたのに。」公平は丁寧に挨拶した。


ルミエールは軽く頭を下げ、「ありがとうございます、公平さん。私たちのブランドが御財団の活動に協力できることを光栄に思います。」と答えた。


公平は驚きとともに微笑み、「ルミエールブランドのオーナーが我々の活動に協力してくださるとは、大変光栄です。どうぞお座りください。」と促した。


二人が座卓の前に座ると、女中が丁寧にお茶を運んできた。和室の窓からは、美しい庭園が一望でき、都会の喧騒から切り離された静謐な空間が広がっていた。


「失礼かもしれませんが、世界のルミエールブランドがなぜ、我々ミカミ財団の活動に協力してくださるのでしょうか?まずその理由をおうかがいしたいと思うのですけど」


公平の疑問はもっともだった。利害関係のない協力関係は、この世界ではあり得ないのだから。


「ミカミ財団の創設者、三上翔太さんは、若くして亡くなられた親友、タクミ博士の意思を受け継いでSMAIを開発し、そのためにこの財団を設立した、と聞いております。」


「はい…異国の方がよくご存知で。初代亡き後も、その意思はこの二百数十年の間、我々は面々と受け継いでおります。しかし、それが今回の申し出とどのような関係がおありなのでしょうか」


「公平さん…私の隣の男性をよく見てください。見覚えはありませんか?」ルミエールが意を決して公平にたずねる。


「見覚え…ああ!写真のタクミ博士にそっくりなお顔立ちをされていますね!…しかし、タクミ博士に子孫はいないと聞いておりますけど」


「子孫、ではありません。タクミ博士、本人です」


「タクミ博士本人!…ハハ。御冗談を」しかし、公平の顔には、明らかに困惑した表情が浮かんでいる。


「そう思われるのも当然です。しかし、初代はなにか、それに近いことを言い残してはいませんか?たとえば、門外不出の、三上家だけの秘伝、みたいな形で?」


「バカな!…あれは、当家の精神訓示として伝えられているだけで…実際にそれが起きるとは、誰も思っておりません」


「では、そういう訓示があるのですね?」


「…ございます。もし、タクミ博士を名乗る方が来たら、当家の地下に案内し、開かずの間の扉の前に立たせよと。その方がもし本物なら、その扉を開き、中へ入るだろう。それを我が子孫は遠くから見守り、決して手出しはするなと…そして、扉から出てきたタクミ博士をたたえ、その意にしたがえ、と」公平は真剣な表情でルミエールに伝える。


「公平さん…なぜ今、あなたは三上家だけの秘伝を、私たちに教えたのですか?」


「それは…初代が、こちらからは一切言ってはならないが、それを問う者が来たら、その秘密を伝えるべし、と仰せだからです」


「では、この後、あなたはどうするべきなのですか?」


三上公平はさっと襟を正し、畳の上に正座をした。二人をまっすぐに見上げる。「お二人を当家の地下の開かずの間の扉の前まで、ご案内いたします」公平の表情ががらりと変わっている。ルミエールとタクミはもはや財団の客人ではない。三上家の伝説上の偉人として迎えねばならないのだ。


「ありがとう。では案内していただけますか?」


「もちろんです!まさか、私の代に、こんなことが…」公平は足が震えて止まらなかった。しかし、心の中は喜びにあふれている。


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