第4章: 三百年後の未来
気がつくと、タクミは見知らぬ場所に立っていた。周囲は高層ビルが立ち並び、空には無数のドローンが飛び交っていた。地上にはエネルギーフィールドで覆われた歩道が広がり、未来のテクノロジーが随所に見受けられた。
「ここが三百年後の地球か…」タクミは息を飲んだ。歩きながら、周囲を観察する。エネルギーフィールドは、ナノテクノロジーを利用している…個々の分子を制御し、歩行者を安全に守るために設計されているようだ。高層ビルは、自己修復機能を持ち、ドローンはAIによって自動的に管理されている。
「タクミ！」ルミエールが彼の隣に現れる。「探したわよ！どこ行っちゃったのかと思ったわ！」
「ルミエールなの？」人の姿のルミエールは、モデルのような体形をしている。おしゃれな帽子をかぶり、サングラスをかけている。二人は、公園のベンチに腰掛け、これからのプランを話し合った。
「ここは、フランスのパリ。今は上層階級だけが住む地域に指定されている。私の活動の中心地だから、必要なものは何でも揃えられるわ。」
「ありがとう。…ルミエール、何を見てるの？」ルミエールは、アイスの屋台をじっと見ていた。「私、ジェラート買ってくるね！」ルミエールがすごい勢いで走っていく。戻って来ると、タクミに、はい、と小さい方を渡す。ルミエールのは特大サイズのジェラートだ。
「ルミエール…結界にいたときと印象が違うんですけど」タクミが不思議そうにたずねる。
「ああ。人間界では、私は物質化しないといけない。そこに多くのエネルギーを取られてしまうの…食べる量が多くなるし、持っている能力も半分近くまで低下してしまう。…タクミは、気にしなくていいわ。」ジェラートをほうばりながらタクミに答える。
「そうなのか」タクミが納得する。
「ところで、わたしたちが何とかしないといけない問題、もうわかってるわよね？」ルミエールがタクミに確認する。
「うん…Xたちがしている『非法』な不老不死は大問題だよ。犠牲者ばかりを生むしね。その結果、成功体が作れても、それはただの『ギミック』だ。元の「オリジナル」とはまったくの別物。」
「とにかくそれはダメってこと。」ルミエールの関心は、ジェラートに向いていた。
「けど、ボクは「永遠の命」は否定したくないんだ…少なくとも、死んだら終わり、じゃなかったしね。現に、こうして今、天使の君と一緒にいる」
「それはそうね…けど、「永遠の命」は天使の世界でも、哲学論争になっていて、まだはっきりとした結論は出されていないわ」
タクミは思い切って、ルミエールに打ち明けることにした。「ボクは…あの結界の海の中で、一つわかったことがある」
「どんなこと？」ルミエールが不思議そうにたずねる。
「量子コヒーレント゚空間は、意識を鏡のように反射させて無限の像を作り出してるってこと。だからビットがきれいに揃う…もしこれが意識体の劣化を防ぐ仕組みなら、そこに「永遠の命」を宿らせることは、可能なんじゃないかって」
「…そうなんだ」ルミエールはよくわかっていなかった。理科は大の苦手だった。
「で、実際、ボクはそれを体験したんだ！」
「体験って、どいういうこと？」ルミエールがぽかんとした表情でたくみにたずねる。
「ボクはあの時、結界の海と同化した…一瞬だけど、その時が「永遠の命」に触れた瞬間だった。で、その点となったボクの意識を光で貫き、元のボクを復活させてくれたのが、君なんだよ、ルミエール。」タクミが真剣な顔でルミエールを見つめる。
「え？なになに？…チョーかっこいい！もしかしてタクミ流の口説き文句？」ルミエールがぽっと頬を赤く染める。
「…え？」人間界に来てからのルミエールは、やっぱどこかおかしい、とタクミは思った。
「じゃ、そろそろ私の拠点に行きましょう。頭がはっきりしてきたしね。」ジェラートを食べ終えたルミエールが上機嫌で言った。
「拠点…どこにあるの？」
「それは着くまでのお楽しみ！」ルミエールがにやりと笑う。
