第1章 30 夏休みのテーマパーク後編
「双葉、そろそろいい時間だし帰ろうか。」
楓はスマホで時刻を見ると19時を回っており、これ以上いると帰るのが遅くなってしまうため双葉に声をかけた。
「そうですね。お土産買って帰りましょう。」
2人は、各々お土産を買うと駅に向かった。
「結構遊びましたね。とても楽しかったです。」
「そうだな。俺も楽しかったよ。」
駅に着くと、帰る人が多く双葉とはぐれてしまわないように今度は楓の方から手を握った。
「荷物こっちで持つからはぐれないようにしよう。」
「うん。じゃあお言葉に甘えてそうする。ありがとうございます。」
荷物を受け取ると2人は手を繋ぎ電車に乗ると丁度2席空いたので座ったのだが手を離すタイミングを完全に逃し、楓達は座ってても手を繋いでいた。
(これ。いつ離すべきなんだ。)
悶々とした思考の中そのまま最寄りの駅に着くまで手は握ったままだった。
最寄り駅につくタイミングで手を離そうとすると何故か離れなかった。
双葉の方を向くと申し訳なさそうな顔をしていた。
「実は長時間ブーツ履いてたから靴擦れしちゃって…もう少し手繋いでもいい?」
「そうだったのか。気遣えなくてごめん。
このまま荷物持っておくから歩くのやめて駅からタクシーで帰ろう。」
楓がそう促すと、双葉は少し歩きづらそうにしながら頷いた。
タクシー乗り場へゆっくり向かうと人がそこまで多くなく少し待つだけで乗ることが出来た。
「ごめんなさい。楓くん。迷惑かけちゃって。」
「いや、俺の方こそ悪い。気づけなくて。次からは言ってくれ。」
「うん。そうする。それであの、楽しかった?今日。」
分かりきった質問をしてきたのはもうこの話は終わりということなんだろう。と何となく察した楓も話に乗った。
「そうだな。楽しかったよ。特にこの写真いい写真だと思うぞ。」
見せたのはテーマパークでクレープを美味しそうに頬張る双葉の姿だった
「なっ!いつの間に!消してください!恥ずかしい…」
タクシーの中ということもありあまり派手に抵抗出来ずにいる双葉を見てクスクスと笑った楓であった。
タクシーから下りると手を繋ぎ歩いても痛みが少ないようにゆっくりと楓の家に2人で帰ってきた。
「やっと帰ってきたな。家に着くと急に足の疲れが…」
「そうですね。歩き疲れましたね。」
ブーツをゆっくり脱ごうとする双葉を見て楓は、絆創膏や消毒液などを用意し、手当てを行った。
「足貸して。消毒するから。」
楓は、片膝をつくと双葉の少し赤くなっているアキレス腱に消毒し絆創膏を貼った。
「ありがとうございます。」
顔を赤くしている双葉を見て不思議そうにしながらお土産などの荷物を片付け始めた。
「双葉のお土産も足の痛みが引くまでこっちに入れとくから、とりあえずソファに座っててくれ。」
「分かりました。」
それだけ言うとソファに座ってお土産で買ってきたクマのぬいぐるみを早速開けて膝の上に乗せていた。
「カエデクン。今日は足が痛いからこのまま泊まってもいい?」
クマのぬいぐるみに顔を隠しながら話しかけてきた。
「ん?うん。構わないよ。風呂沸かしといたからその間ゆっくりするか。」
荷物を片付け終わり楓はリビングのテーブルの椅子に座った。
「なんでそっちなんですか?隣空いてますよ?」
双葉が隣をポンと叩きながら来てと促した。
「ん?いや汗臭いかなって。歩き回ったし。」
「いえ、汗臭くないので来てください。」
楓がソファに移動すると双葉は、膝に寝転がった。
「もうなんか定位置になってないか。」
「そうですね。何となく癖になってしまって。やだ?」
下から覗くようにこちらを見てくる目はこちらを真っ直ぐ見つめてきた。
「まぁ、いいけどそろそろお風呂湧くから先に入っておいで。」
そんな話をしたタイミングでちょうどお風呂が湧いた。
しかし双葉は、動こうとしなかった。
「どうした?足痛い?」
足の心配をすると双葉は頭を横に振った。
「いえ、その今日楽しかったので本当に。何となくもう少しだけこうしてたかっただけです。」
その顔はどこか遠くを見つめている感じがした。
「大丈夫だよ。また行こう。まだ乗れてないアトラクションもあるし、物思いにふけるところじゃないぞ。今を楽しめるようにこれからもしていこうよ。」
「そうですね。本当に楓くんと知り合えて良かったです。」
すると突然部屋の明かりが消えた。
そのタイミングで楓の首に手が回され双葉の声が耳元で囁かれた。
「すみません。手が照明のリモコンを踏んでしまって消しちゃいました。」
何故かその声はびっくりしておらず、
まるで最初から仕組んでいたかのように
冷静に言われた。
「いいタイミングですね。それじゃあお言葉に甘えて今を楽しめるように頑張りますね。」
そう言うと何か人の肌よりも薄く柔らかい物が頬をつついた。双葉の腕が首から離れると電気もついた。
「では、お風呂に入ってくるので。あ、お着替え持ってきますね。家から取ってきます。」
「ああ。」と何が起きたか分からない楓は生返事をした。
双葉は1度家に帰り着替えを持っていき
そそくさとお風呂へ行った。
明るくなった部屋でしばらく何が起こったか分からず考えていたが分からないものは分からないので聴き逃していた家に1度帰ると言った双葉の言葉を思い出し、(いや、帰れるなら帰った方がいいんじゃないか?)と思った楓だが言ったら何となく双葉が不機嫌になりそうな気がしたので気づかないことにした。
しばらくスマホで動画を見ながら待っているとお風呂上がりの双葉が出てきた。
「次いいですよ。先に入らせてくれてありがとうございます。足も防水の絆創膏なので剥がれなかったです。」
「良かったよ。じゃあ入ってくるから。」
そういい楓は、汗を流すとササッと風呂を出た。
「早かったですね?お風呂何かありましたか?」
「んー?いや、さすがに眠かったから早めに出ようかなって思ったただけだよ。」
「双葉は、どっちでリビングと俺の部屋どっちで寝る?一応選択権はあるよ?」
「そうですね。もう少しお話したいのでリビングで。楓くんとお話してから寝ます。」
「了解。じゃあ足のこともあるし布団持ってくるから少しソファでゆっくりしててくれ。」
「すみません。今度またお礼させて下さい。」
「じゃあ、オムライスでも作ってもらおうかな。」
双葉は、笑顔で「いいですよ」と二つ返事を返した。
「デミグラスソースかケチャップかビーフシチューオムライスにするか迷っちゃいますね。」
そんな話をしながら寝る準備を進め
リビングの部屋を少し暗くした。
「さて、もう23時回ってるし横になってな。安静にしてくれ。」
「まだお話オムライスしかしてませんよ?」
まだ話し足りないのか布団にはまだ入らない双葉。
「まぁ、体も疲れてるし明日また話そう。」
「分かりました。今日は私の行きたい所に連れてってくれてありがとうございます。とても楽しかったです。」
「うん。俺も楽しかったよ。今日はゆっくり休んで。また明日話そう。おやすみ。」
そう言い楓は自室に戻ってあの暗闇で何があったのか聞きそびれたが特に気にすることも無く、眠りについた。




