第1章 03 ブレザーとピアス 後編
家に帰り着替えをしている途中、茅野から貰った袋を思い出した。バッグにしまっておいた袋の中には、封筒にお金が入っており、それとは別に可愛いラッピングのされているクマのクッキーが入っていた。
「おお、手作りクッキーとはさすがに予想外だな。」
リビングに行き、ソファに座ると貰ったクッキーをひとつ食べてみた。
「美味いな。」
楓は、料理を目分量で行うタイプであり、どうにも分量を正確に測らなければいけないお菓子作りというのは苦手としていた。
久しぶりの甘いものだったので直ぐに食べ終わってしまった。
「美味かったな。昨日手助けして良かったな。」
別に見返りが欲しかった訳では無いが素直にそう思った。
「公園か…あ、そういえばピアス渡し損ねたな。」
拾ったピアスの事を思い出し、昨日来ていた上着のポッケに入っているのを確認すると、花柄のピアスが入っていた。
「これ、多分茅野のだよな。明日返すか」
マンションの部屋は知っているが、渡しに行くなら明日の学校とかでいいかと考え、楓は夜ご飯の買い出しに行こうと外に出る支度をした。
スーパーに着くと、ちょうど半額シールの貼ってあるお弁当を見つけた。
「お、今日はこれでいいな。」
楓は、少し得をした気分でお弁当を買った。
スーパーから帰ると、マンションのロビーに茅野がいた。
「こんばんは、柊さんもここのマンションだったんですね。」
茅野は、今帰ってきたのか制服姿だった。
「ああ、俺も昨日知ってびっくりしたが別に関わることもないからな。俺も住んでるなんて言う必要が無いと思った。」
素直に思ったことを言った。これといって特に話すことも無いのでそのままエレベーターに行こうとしたら茅野が話しかけてきた。
「それ、今日の夜ご飯ですか?男子高校生が食べるには些か栄養不足だと思うのですが。」
純粋に心配したのか、困った顔で気にかけてきた。
「そうだけど?それにさっき茅野から貰ったクッキー食べたしな。クッキー美味しかったよ。久しぶりに甘いものを食べたしな。
それにしても、クッキー作る時、長時間立っていたのか?足の負担大丈夫か?」
「いえ、焼く時間は座ってましたし足は大丈夫でしたよ。それにお菓子作りは楽しいですし、お弁当つくる方が大変です。」
楓は、クッキーの話をしていたら、ちょうどピアスの事を思い出した。
「そういえば昨日、茅野のいたベンチの下に花柄のピアスが落ちてたんだよ。そのピアス茅野のだろう?」
今は持っていなかったので、特徴的な部分と落ちていた場所を言った。
「あ、柊さんが持っていたのですね。昨日無くしちゃったと思って、今日探してたんです。」
「そうなのか、じゃあ荷物置いたら茅野の部屋に返しに行っていいか?」
楓が待つのも変な話なので自ら行くと言ってみたのだが
「いいえ、それには及びません。私がこのまま柊さんの部屋について行きますよ。」
ピアスがあった事に安堵したのか表情が少し柔らかくなった。幸い、部屋は綺麗なので特に来てもらうことに何も問題は無い。
そんな会話をしながら、エレベーターへ向かった。
「そうか。俺は6階だから」
「私の下の階だったんですか。それなら教えてくれても良かったじゃないですか」
不満そうな顔でこちらを見てくるので楓は咄嗟に話題を変えた。
「まぁ、うん。そう言えば、さっきも言ったがクッキー美味しかったよ。くまさんの形に上手に焼けていてお店でも出せるレベルだと思ったくらいだ。」
話題を変えられたことを気にしていないのか、会話を戻してくれた。
「そんなことは無いですよ。でもそう言って貰えて嬉しいです。」
「部屋にあがって待つか?その間にピアス取ってくる。」
「いえいえ、お気遣いなく。返してもらうだけなので。」
それもそうかと、玄関で待ってもらうことにした。
「はい、ピアス。彼氏とかからか?拾っておいて良かったよ。」
そう言ってピアスを茅野に渡した。
「いえ、大事ではありません、彼氏も居た事も無いです。」
茅野の顔は、暗く悲しそうであり、まるで捨てられた猫のようであった。
(訳ありか。これは、余計なことを言ったな。)
「すまない。余計なことを言った。悪気はない。」
俺は、余計なことを言ったと謝った。俺たちは別に仲がいい訳でもないのだ。昨日会ったばかりのただの他人である。
「いえ…ごめんなさい。
ピアスありがとうございます。
それでは。」
そう言って自分の部屋に戻って行った。
「はぁ…何やってるんだ俺は。」
反省というよりか後悔が頭の中をぐるぐる回る。
そんなこんなでピアスも返し終えたので
完全に茅野との関わりが消えた楓は晩御飯の半額のお弁当を食べ、眠りについた。
朝起きるのって本当にきついですよね。
私は毎回、朝はシャワー浴びて目を覚まします。