第1章 10 眠り姫
二人は、手を繋ぎながら水族館を出てバス停へと歩いた。
「思いのほか人が多くて予定より時間が遅くなっちゃいましたね。夜ご飯は、どうしましょうか。今日は行きたい所に、付き合ってもらったので私も柊さんのために食べたいもの作りますよ。」
「そうだな。外食する気も起きないし、いつも通り家で食べるか。」
楓としてはさすがに作ってもらうのも気が引けたが断るのも逆に茅野のやる気に申し訳ないと悩んだ。
「分かりました。ではスーパーで買い物をして家で食べましょうか。」
2人はバスの中でも手を繋いだままだった。
バスをおりると楓は、さすがにここでは手を繋がなくて大丈夫かと手を離した。
「手、ありがとうございました。はぐれないように握ってくれて。あとワガママ聞いてくれて。」
「ああ、茅野の好きな事をすると言ったしな。手は、さすがにここら辺は顔見知りも居る可能性もあるから。それに人混みもないし。そんな事より、今日は流石にお互いに疲れたし、スーパーによらず出前を取らないか?」
「出前ですか?」
作る気があったところ申し訳ないなと楓は思いながら提案した。
茅野は意外な提案に少し驚いたような顔を見せた。
「嫌ならいいんだ。ただ疲れてる茅野に夜ご飯作ってもらうのは申し訳ないと思ってな。」
「そんな、気にしなくていいのに。でも確かに家が目の前なのに素通りしてスーパー行ってまた戻るのも億劫ですね。分かりました。柊さんがよろしければ私はそれでも大丈夫です。」
何か言われるかと思った楓は了承してくれた事にホッとした。
「出前ならうちで食べるか。いつも頼むし、登録しているアプリに住所設定してあるしな。」
「わかりました。ではこのまま帰宅しましょうか。」
2人は楓の家に向かった。
「ここが柊さんの部屋ですか。ちゃんと綺麗にされてますね。というかキッチンとか新品のように使われている形跡すらありません。」
ジト目で楓のことを見てきた茅野をリビングのソファに案内し、出前の話に話題を変えた。
「茅野は、食べたいものあるか?」
楓は、茅野に出前のアプリをみせると、ファストフードからファミレスなどのものまで様々なメニューが取り揃えていることに驚いていた。
「そうですね。外食をあまりしないので詳しくは無いのですが、このチキンを食べてみたいです。」
茅野が選んだのはフライドチキンのお店だった。
「じゃあそれにしよっか。」
楓は、フライドチキンを頼んだ。
「茅野は、水族館のお土産コーナー行かなくて良かったのか?」
楓は、ソファで自分の部屋では無いからだろうか、ソワソワとしている茅野を見兼ね、クッションを渡した。
「クッション使うか?使っていなのあるけど。」
「お言葉に甘えて貰ってもいいですか?」
茅野はクッションを抱えるように持ち落ち着いたのかソワソワしなくなった。
「クッションありがとうございます。先ほどの質問ですが、水族館のお土産は人も多かったのでいいかなと。それに遊びに行けただけで満足だったので。対して考えてなかったです。」
茅野は本当に満足しているのか水族館で撮ったペンギンの写真を見てニコニコしていた。
「ならいいんだけどな。茅野が楽しめたのなら良かったよ。」
「柊さんはいつも優しいですよね、なんか柊さんといると何となくホッと気が緩んでしまって、凄く安心できます。今日なんてはぐれないように手を繋いでくださって、助かりました。」
「そ、そうか。」
楓がどぎまぎしているとインターホンが鳴り逃げるように玄関へ行き、フライドチキンを受け取った。
「フライドチキンきたぞ。さすがに腹減ったな。」
現在の時刻は20時である。水族館で飲み食いはしていたもののしっかりとした食事はお昼だけだった楓はお腹がすいていた。
「そうですね。私もお腹ぺこぺこです。」
お互いにリビングでテーブルに並べられたチキンを頬張った。
「柊さん、これ美味しいですよ。」
そう言ってクリスピーチキンを口に近づけてきた。楓は、困惑しながらも多分これ無意識だなと諦め一口食べ、茅野にお返しをしてやった。
「茅野、こっちのメープルシロップのかかったドーナツも美味しいぞ。」
そう言って口に近付けた。茅野は自分がした事にやっと気づいたのか固まっていた。
「さすがに無意識はやめとけよ。」
「は、はい。ごめんなさい。」
茅野は、未だに顔を赤らめリスみたいにドーナツを頬張っている。楓は、困ったものだなと言いながらも内心は荒れている心を鎮めようとしていた。
そんなこんなでフライドチキンを食べ終わりしばらくテレビを見ながら話していた。
時計が22時前になった頃、楓はそろそろテーブルのゴミを捨てに行こうと立ち上がった。茅野には、いつも世話になっているからとソファに移ってもらった。フライドチキンは紙の箱に入っており、取り分けるお皿を多少使っただけなので特に片付けるものも少なく、楓は1人でゴミをまとめて捨てに行き、戻るとソファでスマホを見ながら寝ている茅野を見つけた。
(おいおい、無防備過ぎるだろ。)
(どうするか。揺らして起こすか?でも疲れている所を起こして帰ってもらうのも申し訳ないしな。起きるまで待つか?いやいや変だろ。部屋までおぶって…いや無いな。)
楓が出した結論は肩を軽く叩いて起こす事だった。
「茅野、起きろ。そろそろ部屋に戻ろう。夜も深けて来たし。」
茅野は、一向に起きる気配がない。
(これはどうすればいいんだ。女の子の体に無闇に触るものでもないしな。)
本当に困った楓は、最終手段である自室のベッドへ移動させようとした。
(すまない、茅野。)
そう思いながら、お姫様抱っこの状態で茅野を持ち上げた。
(おいおい、軽いとは思ったがこいつほんとにご飯食べているのか?)
楓がそんな心配をするほど軽かった。白いワンピースを着ていたのでわからなかったが腕は細く、小さな手に華奢な体とあどけない顔が近くにあり楓は一人で取り乱していることに我がら呆れた。
ゆっくり起こさないように自室に運ぶと楓はソファで眠気が来るまでスマホを見ながら眠りについた。
明日はお休みします。
よろしくお願いします。




