第1章 01 はじまり
「大丈夫か?」
これが俺「柊 楓」と「茅野 双葉」との初めての会話である。
高校に入学して2週間あまりが過ぎた頃、俺は制服をクリーニングしたくて、ゴールデンウィークでクリーニング屋が休みになる前に高校の制服をクリーニングしに行った。
その帰り道、家の近くにある公園のベンチに座っている同じ学校の制服を着た生徒を見つけた。セミロングにベージュ色の髪が風でサラサラしている。さらに目鼻が整っていてる。俺は直感的にこれが所謂「美少女」というものであるのだろうと思った。と言っても俺とは関わることの無い人だと思って去ろうとしたのだが、よく見ると黒いタイツの片方が破けていている事に気づいた。見て見ぬふりをしようとしたのだが、思考とは裏腹に気づいたら俺は「大丈夫か?」と声をかけていた。
「はい。大丈夫です。」
彼女は、俺との壁を作りながらそう言ったもののその場を動こうとしない。周りを見渡しても友達がいる様子もない。
ふと、ベンチのそばにピアスが落ちていることに気づき、ピアスを拾おうとしゃがんだら、タイツが破れている所から少し血が滲んでいる事に気づいた。
「足が痛いのか?待ってろ」
俺はピアスを拾ってすぐ近くのコンビニに行き、湿布や絆創膏などを買った。
公園に着いた時、彼女は足の血を拭こうとティッシュを取りだしていた。親しい中でもない俺が応急処置する訳にも行かないと思い、湿布などを渡す事にした。
「……ありがとうございます。」
戸惑いながらも彼女は湿布などを受け取り腫れている足に貼ろうとした。しかし、しゃがむにも足が痛いのか動きづらそうだったので、俺が貼ることにした。
「足に貼ってあげるから、俺のブレザーで膝下を隠せ。」
クリーニングで綺麗にしたばかりのブレザーを取り出し、彼女に渡した。
「後ろ向いててください…」
彼女に従い、俺は後ろを向いた。
そうすると納得してくれたのか、ブレザーを受け取り膝下に掛け黒いタイツを脱いでくれたので応急処置を行った。
問題はここからだった。この状態で歩けるかと言うと難しいと考えていた所
「湿布ありがとうございます…あの…家は近いので1人でもう大丈夫です。」
そう言って彼女は立ち上がろうとした。
しかし
「あっ、」
足がまだ痛いのだろう。直ぐにバランスを崩しベンチへ座ってしまった。
俺も、ここまで来て「それじゃあまたね。」なんて言えるほど薄情者でもない。
「バッグ持っておぶってやるから荷物くれないか?」
俺は、おんぶの姿勢を取りつつ彼女の荷物を渡すように促した。
「いえ、ほんとに近いのです。」
申し訳なさそうな顔をしてこちらを覗く。その目は少し赤くなっているのに気づいた。
「いいから。その状態だと歩くのは難しいと思うぞ
別に理由を聞こうとか話がしたいとかそんなつもりは無い。」
そう言うと、困った顔をしながら意を決したのか手を肩に掛けてくれた。
俺のブレザーはさすがに持ちにくかったので羽織ってもらい、おぶった。
女の子の匂いが鼻腔をくすぐり、細身なのになんか柔らかいものが当たった気もしたような…なんてくだらない考えを直ぐに振り払い、彼女の案内に続いた。
「ここです。ここの7階です。」案内されたのは俺の住んでるマンションの7階だった。
「1人なのか?」
「はい。私以外は住んでないですよ。
それでは、連れてきてありがとうございました。」
そう言って会釈をし、玄関の扉を閉めていった。
なぜか悲しそうな顔をしていた気もしたが深追いはしなかった。
ちなみに余談だが
俺は、一人暮らしマンション生活を始めたてである。地元から電車で2時間かけて学校に行くのが大変だったのと両親の出張などの仕事関連を鑑み、両親が気を利かせてくれて、1年に数回確認のため訪問する事を条件に一人暮らしを許してくれた。
彼女も似たような理由を抱えているのかと無駄に考えながら家に着き、クリーニング済みの制服を取り出そうとした時、気づいた
「あっ、ブレザー渡しっぱなしだ。時間的にまた戻るのも変だし明日にするか。同じ学生服だったし、明日会えるだろう。でも名前、分からないんだよな。」
そう思いながら、夢の中へ落ちていった。
初めまして、ししゃもと言います。
初めての執筆になるので至らぬ点があると思いますがそこも含めて楽しんでもらったら何よりです。
よろしくお願いします。