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誤字報告、感想、ブクマをありがとうございます!
二作続けて悪役が妹ですが、作者は妹に恨みを持ってる訳ではありません。
シルフィア嬢は心身の療養の為に城の離宮に隔離してある。
ろくな使用人のいない侯爵家にも、当然別邸にも置いておけないので、仕方無く王家で預かる事にした。
いいえ、本音を言えば王家の印象をより良くするため。
幼い頃からの婚約者だったアイクの言葉でも態度でも酷く傷付いていたはず、その事で王家への不信感や拒否感を持たせない為に手厚く世話をする。
この魔法と花の国と称えられる我が国随一の魔力量を誇るシルフィア嬢は、その膨大な魔力量ゆえに魔法が使えない。
コントロールの利かない魔力は暴走の恐れがあり、シルフィア嬢程の魔力が暴走すれば、この国は瞬く間に半壊するだろうとの恐れから、シルフィア嬢は物心付く前から魔力の封印をされた。
その事でまさか伯母と祖母がシルフィア嬢を侮り見下し、さらに虐待までするとは思ってもみなかったけれど、父親である侯爵に見向きもされなくなる等と思いもしなかったけれど。
学園に入学して自分が魔法を使えない事を疑問に思ったシルフィア嬢は、教師に相談をして初めて自分の魔力が封印されている事を知ったそうだ。
魔力が多く封印された者は、3年に1度の魔力検査が義務でもあるのに、シルフィア嬢はただの1度もその検査を受けていなかった。
改めて検査した結果、封印を破る寸前まで魔力が溜め込まれていたらしい。教会からの至急の知らせを聞いた時は本当に肝を冷やした。
それからは、その膨大な魔力は月に一度、魔道具を外され国を守るバリアの魔道具へと補充されるようになった。
シルフィア嬢が補充をし始めてから、この国に賊や魔物が攻め入ってきた事は無い。
今ではなくてはならない存在のシルフィア嬢。
国としては何としても掌中に置きたい存在。
幼い頃から言い聞かせてきたにも関わらず、アイクはシルフィア嬢を蔑ろにし、裏切った。
自らの腹を痛めて産んだ我が子は当然可愛い。けれどこの国と天秤にかける事は出来ない。
わたくしはこの国の王妃なのだから。
愚か者達の刑が決まり、最後にシルフィア嬢との面談を許された。
念のためにわたくしも同席する。
まずはアイク。
アイクは王命に逆らって婚約を破棄しようと企んだ事と、本来は婚約者のシルフィア嬢のための婚約者準備金を、ミュート嬢のために使っていた横領の罪で王太子の座から下ろされた。
継承権は無くなり、私財のほぼ全てをシルフィア嬢への慰謝料として差し出す事となった。
部屋に入ると、アイクは酷く驚いたような顔をしてすぐに俯いた。
この数日で酷く窶れて草臥れた風情。
「シルフィア嬢、すまなかった。私は親の勝手に決めた婚約に反抗する未熟な子供だった。ミュート嬢の言葉に騙され、その言葉が真実かどうかの確認を怠った。報告書を何度も読み返し、自分の愚かしさに落ち込んだ。本当に申し訳なかった!」
許しを乞わず、潔く謝罪だけを繰り返すアイク。
「アイク殿下は正義感が強く、だからこそ妹の言葉に憤っておられたのでしょう?妹との関係が何時からなのかは存じ上げません。ですが幼い頃に婚約者としてお会いしてからそれなりの時間が有りました。出来る事なら一度で良いからお話をしてみたかった、そう思うのは贅沢でしょうか?それだけが残念でなりません」
「っ!すまない!」
アイクはシルフィア嬢の言葉にもう顔も上げられない。
話はそれで終わり、次の部屋へ。
テレスティ侯爵は夫妻共に同じ部屋におり、同時にシルフィア嬢と会う事に。
テレスティ侯爵夫妻は子女の養育義務放棄、シルフィア嬢への虐待を知っていて放置していた罪、アイクと婚約者の交流のためのお茶会にシルフィア嬢と偽ってミュート嬢を連れてきていた事で、城への不法侵入幇助の罪で二階級の降爵処分。侯爵家の屋敷の所有権の剥奪、罰金、今後のシルフィア嬢に対する保護者としてのあらゆる権利の剥奪となった。
部屋に入るなり、
「シルフィア!ごめんなさい!お母様を許して!貴女を犠牲にするつもりは無かったの!だけどお義姉様とお義母様に毎日のように責められて、妊娠中の体では耐えられずに、泣く泣く貴女を置いていってしまったの!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「シルフィア、すまなかった。お前が使用人から邪険に扱われているなどと思いもよらなかったんだ!姉上も母上も自分達にそっくりなシルフィアならば可愛がってくれるだろうと思って!」
一応謝ってはいるけれど、言い訳ばかりで許しを乞う姿は不様でしかない。
シルフィア嬢が無反応でいると、
「シルフィア?どうして何も言ってくれないの?怒っているの?そうよね、わたくし達が全て悪いのだからっ」
そのまま泣き出す侯爵夫人、それを支えるように抱き締める侯爵。
その目が少し非難するようにシルフィア嬢を見て、
「私達が恨まれるのは仕方無い、だが少しは何とか言ったらどうだ?お前自身で我々に現状を訴えていれば、こんな事になる前に私達だって対処出来たものを!」
「何を言えと仰るの?あなた方にわたくしの声が届いた事などただの一度も無かったのに」
「何を言う?!そう頻繁ではないが侯爵邸に顔を出した時にでも言えば良かったのだ!」
「伯母様とお婆様が見張る前で?伯母様とお婆様が居ると分かった途端逃げ帰るあなたに?」
「に、逃げてなどいない!それにさっきから何だ?父親に向かってあなたなどと!ミュートの言ってたように礼儀も知らないのは本当だったのだな?!」
「父親らしい事を何一つして頂いた事も無いのに?」
「養っていただろう!」
「金を出すだけなら他人でも出来ますわね?」
「もう!もう止めて!わたくしが、わたくしが悪いのよ!子供を手放したわたくしが全て悪いの!ごめんなさい!お願いよシルフィア、許してくれなくても良いから、もう一度だけチャンスを頂戴!もう一度あなたと家族をやり直させて!お願いよ!」
他人事ながらよくそんな事が言えるな?とつくづく思う。
この期に及んでまだ娘に甘える気だろうか?
「無理ですね。わたくしには物心付いた時から家族はおらず、周りは敵だらけでしたから。家族が何かを知りませんもの」
切って捨てるように宣言するシルフィア嬢が、小気味良いとさえ感じるのはわたくしだけかしら?
「教えてあげるわ!あなたには可愛い妹も弟も居るのよ!一緒に暮らせばすぐに仲良くなれるわ!だって家族ですもの!」
「その可愛い妹は、わたくしのありもしない虐めを声高に訴えて婚約者を奪おうとしてましたね?」
「あれは、そう!きっとあなたが羨ましかったのよ!王太子殿下の婚約者なんて、女の子の憧れですもの!ちょっと羨ましくて、悪戯してしまっただけよ!」
その言葉でこの侯爵夫人もミュート嬢の事に噛んでいたのが分かった。
むしろ唆していたのかもしれないとも思える。
「羨ましかったから、ちょっとした悪戯で会った事もない姉を陥れたのですか?悪戯の感覚で犯罪を犯すとは、どう言った教育をしたのですか?貴族令嬢としてと言うより人としてどうかと思いますが?」
「そんな!そんな大袈裟に捉える事じゃないのよ!」
昔から夢見勝ちなところが有ったけれど、学生時代と全く変わっていなくてガッカリする。
これで侯爵夫人を名乗っているのだから、本当にこの国は大丈夫かしらと不安になる。
「現にあなた方も妹も犯罪者としてここに居るんですよね?」
侯爵夫人は信じられないと言った顔で黙り込む。
侯爵は今にもシルフィア嬢に飛び掛かりそうなほど身を乗り出しているが、そんな事を許す筈もなく警備の騎士に抑えつけられている。
侯爵夫人は今にも気絶しそうな顔で床に崩れ落ちた。
もう話す事は無さそうなのを見て取ってシルフィア嬢は部屋を出る。
閉まったドアの向こうから悲鳴のような声が聞こえたが、シルフィア嬢は振り向きもせずに次の部屋へ向かった。
祖母である前侯爵夫人と伯母である伯爵夫人は捕縛されてはいるが、シルフィア嬢に危害を加える恐れがあるので会わせる事は出来ない。
この二人は実際にシルフィア嬢を理不尽な教育と称し、罵倒し叩き、使用人に命じて牢に入れるなどの傷害監禁の容疑で貴族籍の剥奪。侯爵家の財産を勝手に売却した事で、窃盗の容疑も加わり、個人資産の没収。
伯母の嫁ぎ先であるデラル伯爵家当主は、妻がその様な事をしていたとは全く知らず、関与も見られなかった事から、シルフィア嬢ヘ相応の慰謝料を払う事で罪には問われなかった。
最後は妹であるミュート嬢。
ミュート嬢は虚偽の噂を広め、王太子の婚約者を貶め、その座を奪おうとした侮辱罪と名誉毀損罪。
王太子を虚偽の噂で騙した詐欺罪。
王太子の婚約者の為の予算をそれと知っていて使い込んだ横領罪。
王太子の婚約者の侯爵令嬢と偽っての城への不法侵入罪。
今回の罪人の中で一番重い罪に問われるのはこのミュート嬢。
彼女は犯罪奴隷として娼館に送られる事が決定している。
私物の全てを売却され、奴隷として売られた金額と共にシルフィア嬢への慰謝料とされる。
部屋に入ると椅子に縛り付けられたミュート嬢の姿が。
「お姉様のせいよ!全部お姉様が悪いんじゃない!誰にも愛されないくせに!どうしてアイク様の婚約者から下りないのよ!だからわたくしが下りやすくしてやったんじゃない!誰にも愛されないくせに!どうして平気な顔して生きてられるのよ!お父様にもお母様にも全然似てないくせに!本当は、お父様とお母様の子供じゃないんじゃないの!そうよ!だから愛されないのよ!そのくせ魔力が多いってだけで婚約者に選ばれるなんて!魔法も使えないくせに!」
キンキンと耳に刺さるような声で喚くミュート嬢。
ミュート嬢は子爵家出身の母親に似たのか、魔力量は学園でもかなり低い方。
シルフィア嬢は、奇跡と言われるほどの魔力量の持ち主で、その事で婚約者に選ばれたのは事実。
「誰からも愛されてないくせに!わたくしとアイク様は愛しあっているのよ!ずっとずっと子供の頃から仲良くしていたのに!その仲を引き裂こうとするなんて、この人でなし!絶対に許さないんだから!」
大声で喚くせいで、肩で息をするほどゼイゼイと息を荒げるミュート嬢。
ちょっと息が整うと、直ぐにまた大声で喚く。
「わたくしは!愛されて育ったもの!お父様にもお母様にもたっぷりの愛情を注がれて育ってきたもの!誰にも愛されなかったお姉様なんかより、わたくしの方がアイク様に相応しいに決まってる!魔法だってちゃんと使えるし!お姉様よりもずっとずっとアイク様の役に立つわ!」
「醜いわね」
口を出すつもりは無かったのに、思わず溢れてしまった言葉に、ミュート嬢が固まるように黙る。
なのでつい、
「教養も感じられず、マナーも全く成っていない。魔力も弱くて、口から出るのは嘘ばかり。親に愛されたから何なのかしら?シルフィアさんは酷く片寄った間違った教育と言う名の暴力を受けていたのに、自ら学んで完璧なマナーや教養を身に付けている。どう考えてもシルフィアさんの方が素晴らしい女性だわ、貴女達家族の嘘に騙されなければアイクは今もまだ王太子で居られたかと思うと、母親として貴女を恨む気持ちは抑えられないわね」
この際だからと本音を言えば、ミュート嬢はブルブルと体を震わせ、
「そんなの嘘!学園ではわたくしは多くの友人とアイク様に囲まれて、皆に褒められたもの!お父様もお母様もわたくしは太陽のようだって言ってくれたもの!成績だって普通より上だったし!マナーだって先生に何度か褒められた事があるわ!王妃様はお姉様の味方だから、わたくしを非難するのよ!王妃様なのに、お姉様ばかり贔屓するなんて間違ってる!」
「学園で人に囲まれていたから何だと言うの?王太子の婚約者が学力が真ん中より上?マナーの教師にたまに褒められた?その程度で許されると思っているの?そんなものは出来て当たり前の事よ。そして何より貴女は多くの嘘を付いた。それをさも真実の様に吹聴して回った。お姉様お姉様と言うくせに、そのお姉様への敬意も親愛もまるで感じられない。貴女は口ばかりね。それを信じた周りもどうかと思うけど、嘘がばれたからには、もう誰一人貴女を信じる者は居ないでしょうね」
「わた、わたくしは!わたくしは!愛されているの!だからお姉様もわたくしを愛するべきなの!だからお姉様はアイク殿下をわたくしに譲るべきだったのよ!王妃様をどうやって味方に付けたのか知らないけど、お姉様は愛する妹のために、わたくしを庇うべきよ!」
唾を飛ばして喚く姿は醜悪でしかなく、こんな令嬢に簡単に騙された息子やその周辺にいた人間の見る目の無さにこの国の将来が本気で心配になる。
ここまで沈黙していたシルフィア嬢が静かに話し出した。
「ねえ、ミュートさん、貴女にとってお姉様って何なのかしら?自分に都合の良い道具?踏みつけても構わない奴隷?愛されて育った貴女は、愛されずに育ったわたくしに何をしても良いの?それはなぜ?学園に入るまで、会った事も無いわたくしを平気で貶める事の出来る貴女の人格は、酷く歪んでいるのね?お父様もお母様も、伯母様とお婆様から逃げ出すために、わたくしを生け贄に差し出した。貴女もそんな両親にそっくりね?良かったわ、そんな歪んだ両親に愛されて育たなくて、貴女のように歪んだ人間に成るところだったもの。両親に愛されて育った貴女を、わたくしも当然のように愛して全てを譲るべき?ごめんなさいね、わたくし愛されずに育ってきたから、愛するって何か分からないわ。貴女の事は血の繋がっているだけの他人だと思ってるから、これ以上何か言われても、応えてあげられないのごめんなさいね」
本気で反省しているような顔で頭を軽く下げるシルフィア嬢。
その姿を見てポカンと口を開けて固まるミュート嬢。
呟く様に溢れた言葉は、
「お、お姉様?血の繋がっただけの他人って。どうしてそんな酷い事を言うの?血が繋がっているなら、家族じゃない、わたくしを助けてよ!」
最後は喚きになっていたけれど、その時顔を上げたミュート嬢は、部屋に入ってきてから初めて、正気の目で真正面からシルフィア嬢を見て、
「うそ、お姉様がこんなに綺麗なはずがない!そんな嘘よ嘘嘘嘘!お姉様が綺麗になっちゃったらアイク様を取られる!イヤ、イヤ、イヤ、イヤよ!イヤーーーーーーー!!」
叫ぶだけ叫んだらバタンと気絶して、縛り付けられた椅子ごと倒れた。
シルフィア嬢は困惑した顔をしているわね。
「さあ部屋を出ましょう」
促せば素直に言う事を聞いて部屋を出る。
廊下を歩きながら、未だ困惑顔のシルフィア嬢に、
「アイクも貴女を見て驚いていたでしょう?」
「はい」
「貴女はね、本来とても美しい容姿を持っているのよ。でも誰もそれを磨こうとはしなかった。貴女自身もね?だからこの数日で、メイド達に磨かれた貴方は、本来の美しさを取り戻した。見違えるように綺麗になった。ご両親は保身のために目が曇っていて見えなかったようだけど、ミュート嬢はほんの少し正気を取り戻した時に、貴女の容姿がとても美しい事に気付いてしまった。絶望したのでしょうね?全ての能力で上回っていた貴女に、唯一彼女が対抗出来たのは、指先まで丁寧に磨かれた愛された容姿だけだったのだから。嘘で固めた自分の、唯一丁寧に磨かれた容姿だけは嘘では無かったから。でもそれも貴女の方が上だった。まあ、もう関係も無くなるのだし気に病む事は無いわ」
「はい。ありがとうございます」
こうしてシルフィア嬢に関する婚約破棄の騒動は収まった。
それでもまだシルフィア嬢を帰す事はしないけれど。
今度はシルフィア嬢の気に入る殿方を探さなくてはね!
勿論、王家と深い関わりのある貴族家から選ばれるように、色々と考えなくては!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
陛下はアイクの問題があってから気を落とされて、少々公務が滞りがち。
その分がわたくしに回ってきて、シルフィア嬢のお相手探しに中々本腰を入れられない。
アイクは心を入れ換えて、事態が明るみになった針の筵のような学園に通い、今までの腰巾着のような取り巻きとは別の生徒達と、積極的に交流を持とうとしている。
私物を売り払ってしまったので、王族としてはみすぼらしい装飾の一つもない服装をしているけれど、その顔は憑き物が落ちたようにさっぱりとして、時折シルフィア嬢とも話をするそうだ。
そして酷く落ち込んでいる。
実際にシルフィア嬢本人と話をしてみれば、ミュート嬢の嘘はすぐに判明した。
ミュート嬢の口から出るシルフィア嬢の話は、その全てが嘘だった。
学園に入学するまで一度も会った事が無い相手を、日々悪者の様に嘆いて見せたミュート嬢。
それを信じてシルフィア嬢へ酷い態度を取っていたアイク。
たまにシルフィア嬢が居ない事を確認してからお茶の時間に来るアイクの愚痴が止まらない。
色々調べる過程で後から知ったのだけど、実はアイクとミュート嬢の交流は、幼い頃から始まっていて、陛下が息抜きとして城を抜け出すのは知っていたけれど、まさかアイクを連れてお忍びでテレスティ侯爵家別邸に遊びに行っていたなどとは全く知らなかった。
そこで幼い頃から知り合っていた二人は、学園に入る前にはお互いを意識する仲になっていたとか。
幼馴染みと言っても良い相手やその家族ぐるみで、長年嘘を重ねられてきたアイク。騙されるのも仕方無いと思えてくる。
と、言う事は、諸悪の根元は陛下じゃない?自ら婚約者を決めておきながら、友人の家にその本人が居ない事に気付きもせず、その妹を婚約者だと勘違いして微笑ましく見守っていた?ミュート嬢はテレスティ侯爵と共に何食わぬ顔で王太子の婚約者と名乗って堂々と城に、アイクに会いに通っていた?陛下もたまに参加して一緒にお茶をした?
それにも関わらず落ち込んでいる?落ち込んでいるせいで公務が滞っている?
あら?わたくしったら何を呑気に陛下の後始末などしているのかしら?
沸々と湧いてくる怒りに、アイクが恐れた様に退出していくけれど、今はそれに構っている暇がない。
ええ、ええ、陛下とはじっくりと話をしなくてはね!
陛下とはじっくりしっかりみっちりとお話をさせて頂き、反省して下さった陛下は、3年間無休で無給で公務に勤しんで頂けるそう。
今までわたくしに回ってきていた分も、それ以上の分も引き受けて下さるそう。
反省の気持ちを表すためにも、陛下が大事に大事にしていた魔剣も、煌びやかなマントも、部屋に置いてある邪魔なだけの金の椅子も売り払ってくれるそう。
1年間分の陛下の給料を上乗せされて、王家から支払われるシルフィア嬢への慰謝料も、陛下の諸々売り払った私財から支払われる。
王の代替わりまでさせてやろうかと思ったけれど、まだまだ確りとキッチリとミッチリと働かせてからでないと納得できないものね!宰相とも相談して、今までは大目に見ていた陛下の素行にもキッチリと監視を付けた。当然よね!
ああ、これでシルフィア嬢のお相手探しに本気になれるわ!
シルフィア嬢はこの半年で見違えるように美しくなった。
容姿だけでなく、内からの輝きが溢れるように。彼女を虐げる存在が無くなった事で、雰囲気も随分と明るくなった。
アイクとの事で、平民になろうとしていた彼女は、学園に通う生徒の身分にも拘りはなく、平民も高位貴族も同じ学園の生徒として接している。
ミュート嬢の言葉が全て嘘で、その事で罪に問われた事は広まっているので、今までにあった偏見や嘘に踊らされていた生徒達も、直接本人に接する事でシルフィア嬢の人気が急上昇している。
噂が広まる前まではシルフィア嬢と仲良くしていた幾人かの令嬢達は、気まずくなって遠巻きになったり、令嬢らしさをかなぐり捨てて謝罪して仲を戻したりと様々。
謝罪した令嬢達を快く許し以前のように接する姿が見られ、シルフィア嬢の人気は更に高まる。
以前のアイクの人気を遥かに凌ぐほど。
これは急がないと高位貴族家に拐われる恐れが出てきたわ!
候補は五人まで絞った。
陛下の一番下の弟。アイクの弟でわたくしの二番目の息子。宰相の次男。公爵家の長男。侯爵家の若き当主の五人。
誰を選ぶかはシルフィア嬢の自由だけれど、出来ればこの五人の中から選んでほしいところ。
この五人はいずれも王家への忠誠心に溢れ、多少の裏は有っても、裏切らないと信頼出来る人物達。
さて、ではより良く知り合うために、お茶会でも開こうかしら?勿論お見合いとして緊張され過ぎてもいけないから、知り合いの令嬢も何人か呼ぶけれどね!
フフフ、楽しみになってきたわ!
より良いこの国の未来のためにも頑張らないと!
わたくしはこの国の王妃なのだから!
ええと、読者様により良い言い回しを教わったので、ちょっと修正しました。
ご指摘ありがとうございました!