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短編第三弾。

またまたシリアスに挑戦中。

どなたか話を短くまとめる能力を売って下さい!

一日一話更新です。

「んん?」


それを見付けたのは本当に偶然だった。気を張り詰めて挑んだ外交の疲れを癒すために、敢えて装飾の無い馬車でゆっくりと帰城していた時に、ふと窓から見える歩道を歩いている、平民と変わらない服装の少女が、どうにも見覚えのある人物に見えて馬車の速度を緩めさせた。

追い越しざまに見た少女の顔は、やはり見覚えのある顔。

しかしこのような街中を供も付けずに一人、平民と変わらない服装で歩くなど考えられない人物で。

理解出来ない状況に、その場は見間違い、似た顔の別人と自分を納得させて通りすぎた。


城に帰ってからもふとした瞬間に平民服を着た人物の事が気にかかり、公務の手も留まりがちになって、どうにもスッキリしないので、自らに与えられた権限で暗部の者に探りを入れさせる事にした。


1ヶ月間の行動調査の結果、驚くべき事実が判明した。


息子である王太子の婚約者であり、侯爵令嬢でもあるシルフィア嬢は、家では使用人から最低限の世話しかされず、寝る間も惜しんでの教育の日々。

しかもその教育とは体罰と言ってもいいもので、内容は今では廃れて誰も見向きもしない古くさいマナーや教養ばかり。

しかも完璧に出来なければ棒や扇子で叩かれるのが日常。

それを教育と称して行うのは侯爵当主の嫁に行った姉と前侯爵夫人である母親。

侯爵夫妻は侯爵邸には寄り付かず、別邸でシルフィア嬢の妹と弟の四人で仲睦まじく暮らしていると言う。


そんな中、時々伯母と祖母の目を盗んで一人で屋敷を抜け出し、平民と変わらない服を着て街を歩いては、顔見知りの平民の商店で店番をしたり、教会で子供達に文字を教えたりして小金を稼いでいるという。


「ねえ、貴女から見て、シルフィアさんは何を思ってこんな事をしているのだと思う?」


侯爵令嬢としてあまりに意味のわからない行動に、思わず調査を担当した暗部の者に尋ねてしまった。


「私から見たシルフィア様は、平民になる準備をすべく、資金を稼ぎ、平民の暮らしに馴染もうとしておられるように見えます」


「……………そうねそう見えるわよね。と言う事はシルフィアさんは息子との婚姻は望んでいないと言う事かしら?」


「妃殿下には報告の義務がありませんでしたので報告しておりませんでしたが、アイク殿下はテレスティ侯爵家の次女であるミュート嬢と親しくされており、学園でも誰もが知る仲になっております」


「なぜ、わたくしに知らされなかったの?」


「陛下がアイク殿下も若さゆえの気の迷いだと仰って、卒業までは多少の羽目を外す事も許そうと仰いました」


「はぁ、あの人は事態が分かっているのかしら?この報告書を見ただけでシルフィアさんは本気で平民になろうとしてるように思うのだけど?」


「私にもそう見えます。しかもテレスティ侯爵家のミュート嬢は家ではシルフィア様に様々な嫌がらせをされたと触れ回っておられるそうで、アイク殿下はその事に酷く同情されシルフィア様との婚約破棄を望まれているようです」


「アイクが望んだところで、勝手に破棄など出来るものでもないでしょうに。シルフィアさんが婚約者に選ばれた意味も忘れてしまったのかしら?」


「シルフィア様の真実の姿を知れば、陛下も妃殿下も理解して頂けると思ってらっしゃるのでは?」


「真実の姿ねぇ?一方の話だけを聞いて決めつけるのが真実なのかしら?わたくしは教育を間違ったかしら?」


「アイク殿下は正義感が強く、少々思い込みが強い傾向にあられますので」


「引き続きシルフィアさんの素行調査と、ミュート嬢の調査も追加でお願い出来る?陛下への報告はわたくしからするから」


「了解致しました」


音もなく姿を消す暗部。

わたくしはもう一度報告書を読み直す。

テレスティ侯爵家の夫人ミュリエルはわたくしの学生時代の同級生でわりと仲良くしていた内の一人。

ほわほわと夢見がちでおっとりとした令嬢だったのに、何があれば娘を一人だけ置いて別邸で暮らす等という事態になるのか?

テレスティ前侯爵夫人も侯爵の姉であるデラル伯爵夫人も苛烈な性格の女性達だけれど、人身御供にでも差し出したかのような現状。

シルフィア嬢への愛情などは無いのだろうか?まるで理解出来ない。

早急に直接シルフィア嬢の話を聞く必要があるだろう。

話し合いの時間を確保するためにも、今は公務を片付けなければ。


王妃ともなれば公務もそれなりの量があり、収穫時期とも重なって書類は山のように日々積み上がる。

それを何とかやりくりして、まとまった時間が取れたのは1ヶ月後。

さらに詳しい調査報告書が届き、それに目を通してからお茶会の準備が整った温室に向かう。

呼び出したシルフィア嬢は既に到着しており、わたくしが近付くと立ち上がって見本のような綺麗なカーテシーで礼をしてくる。

今まではあまり気にもしていなかったけれど、艶の無いプラチナブロンドに透明度の高い深い蒼の目。

顔立ちは誰が見ても美人と言われる顔立ちなのに、着ているものはグレーのドレス。

装飾も少なくアクセサリーは小粒の濁りのある宝石が1つだけ付いた物。

侯爵家の令嬢としては実に地味。

王城に上がるのにギリギリの装い。

息子は婚約者であるこの令嬢にアクセサリーの一つも贈った事が無いらしい。

その割に毎月の婚約者準備予算を使いきっている。


「よく来てくれたわね、シルフィアさん。急に呼び出してごめんなさいね」


「いえ、王妃様に直接お声掛け頂いて光栄に存じます」


「今日はね、貴女とお話がしたくて来て貰ったの、あまり固くならずにお茶とお菓子を楽しんでね?」


「ありがとうございます」


わたくしがお茶を一口飲めば、真似するようにシルフィア嬢もお茶を口にする。

その所作は指先まで完璧に整っていて、学園入学前に王太子妃教育を終了させただけの事はあると納得出来る程完璧。

家では見当違いの古臭いマナーを習わされているなどとは微塵も感じさせない。

このシルフィアと言う令嬢は、とても能力が高く、頭脳も明晰なのに、どこかいつも自信無さげでうつむきがち、表情の変化も乏しい。

さらによく見れば、髪の艶が無いだけでなく、指先や肌も荒れていて、ドレスの裾もヨレが目立つ。

教育と称して体罰を与えるだけで、彼女の伯母と祖母は身に着けるもの一つ与えないらしい。

侯爵である父親は、一年に一度現金を与えるだけで、その現金も使用人に横領されてシルフィア嬢に使われるのは本当に最低限。

ドレスも型落ちや不人気で売れ残りなどを買い叩いた物を与えられるだけ。

一応王太子の婚約者と言う立場があるので、最低限は揃えられていると言うだけ。

シルフィア嬢の妹であるミュート嬢は、学園では姉に虐げられる妹を演じ、私物を壊されたドレスを取り上げられた、暴力を振るわれたなどと騒いでいるようで、王太子である息子もその言葉を鵜呑みにして、シルフィア嬢に辛い態度を取っているとの報告。

つくづく我が息子の不甲斐なさと見る目の無さに嘆きたくなる。


無表情ながらどこか嬉しそうに菓子を口にするシルフィア嬢。

お茶を飲んでほぅと小さな吐息を溢す。

彼女には酷な事かも知れないが、わたくしは王妃として事実を確認しなくてはいけない。

侍従に目配せして報告書をテーブルに置く。


「シルフィアさん、申し訳ないのだけれど、最近色々な噂が聞こえてくるので、貴女の事を調べさせて頂いたの。これはその報告書。正直に話してくれないかしら?貴女は何時からご両親と会ってないの?」


報告書を渡しながら聞けば、ビクッと小さく体を震わせてから、


「失礼致します」


と言って報告書を読み始める。

そして暫くすると、諦めたような微かな溜め息の後に、


「お父様とは3年程前に会いました。お母様とは物心付いてからは会っていないと思います。記憶には無いので」


「そう。貴女の現状はお父様はご存知なの?」


「伯母様とお婆様が定期的に報告をしているようですが、どの様な内容かは存じ上げません」


「使用人の管理は誰が?」


「採用はお父様だと思いますが、伯母様とお婆様は直ぐに人を辞めさせてしまうので、管理と言うほどの事はされてないと思います。家の事を仕切っているのはメイド長です」


「執事は?」


「会った事がありません」


「そう。貴女の家で教育と称して日常的に体罰、虐待が行われているのは知っているわ、お父様に訴えようとは思わなかったの?」


「訴えたところで何も変わりませんから」


「それは、どういう意味?」


「伯母様とお婆様の言葉では、お父様は侯爵家の責務から逃げ出した負け犬との事で、お母様はお父様を盗んだ泥棒猫だそうです。お母様の血が間違っても出てこないように、わたくしを躾けているのだとか。お父様にもその様に申しておりました」


「それでお父様はなんと?」


「なにも」


「なにも?」


「なにも仰らずに、そのまま別邸にお帰りになりました」


「……………………そう。報告書を見て思ったのだけど、貴女は平民になりたいの?」


「いずれそうなるための準備をしています」


「いずれそうなる?」


「アイク王太子殿下は、妹のミュートを妃としたいようで、わたくしとの婚約を破棄しようと計画しているようです。そうなればわたくしは侯爵家の令嬢としては失格となり、お父様や伯母様、お婆様には家を追い出されると思うので、その時の為に準備をしています」


「貴女自身はアイクとの婚姻をどう思ってるの?」


「アイク王太子殿下は、わたくしとの婚約を最初から望んではおられなかったようですから」


「アイクがそう言ったの?」


「はい。親が勝手に決めた婚約だから仕方無く従うが、お前を好きになるかはわからない、だから近寄るな、と仰っておられました」


「でも定期的なお茶会や交流のために出掛けたりはしているのでしょう?」


「いいえ。王太子殿下と二人だけでお会いしたのは10歳の時にお父様に婚約者として紹介頂いた時だけです」


「たった一度きり?アイクからプレゼントなどはされた事は無いの?」


「毎年誕生日に贈って頂いたハンカチは取ってあります。花は萎れてしまいましたが」


「…………………誕生日のプレゼントが花とハンカチだけ?他の物を贈られた事は?」


「ありません」


「ただの一度も?」


「はい」


手に持った扇子がミシミシと音を立てて、慌てて力を抜く。


「そう。貴女に聞きたい事はこれでだいたい聞けたかしら。貴女の今後も含めて、一度関係者を集めて話し合いが必要なのだけど、貴女には辛い話になるかもしれないわ。それでも参加してくれる?」


「はい勿論です。覚悟は出来ております」


毅然と顔を上げて言ったシルフィア嬢は、身形に合わずとても気品があった。王妃であるわたくしが見惚れる程の気品が。


暗部からの更なる追加報告書が届き、息子であるアイクの所業、ミュート嬢の虚言、テレスティ侯爵家の現状を全て書類としてまとめ、陛下とテレスティ侯爵に届け、話し合いの場を設ける為に日程の調整を行う。


話し合いの場を設けられたのは半月後。

陛下、わたくし、テレスティ侯爵夫妻、シルフィア嬢、アイクとミュート嬢も学園から呼び出し全員が応接間に揃う。


テレスティ侯爵夫妻は最初から顔色が悪く、アイクとミュート嬢は何故か自信あり気にピッタリと寄り添っている。

陛下は見た目では分かりにくいが、狼狽えていらっしゃるわね。


「ようこそ皆様、お集まり頂いてありがとう。今日集まって頂いたのは、シルフィアさんの今後の事を話し合うためよ」


「シルフィア嬢の?」


「ええ、陛下。報告書はお読み頂けたかしら?」


「ああ、読んだ」


「その上で、アイクが陛下に申し出ている婚約破棄の願い、その理由をどう解釈されます?」


「……………あの報告書が真実ならば、アイクは令嬢に簡単に騙される愚か者。テレスティ侯爵家次女ミュート嬢は王太子を騙した極悪人として刑に処さねばならない。それにテレスティ侯爵夫妻の罪も問わねばなるまい」


「待って下さい、父上!報告書とはなんの事ですか?私は何も聞かされず母上からの呼び出しに応じただけなのです!なんの事を仰っておられるのですか?」


アイクの訴えに、素早く反応した執事が陛下にも提出した報告書を渡す。

それを読んだアイクは、ワナワナと震え、


「こんなものは捏造だ!誰かの陰謀に違いない!こんな報告書を作った者こそ刑に処すべきです!」


「その報告書を書いたのは暗部の者。そして調査を命じたのはわたくしですが、わたくしが刑に処されるのかしら?ねえアイク、貴方は自分の今までの行いが本当に正しいと胸を張って言える?何一つ疚しい事は無いと?」


「は、は、母上、何故このような事を」


「シルフィアさんはね、実の親に省みられる事もなく、使用人に最低限の世話しかされず、伯母と祖母の虐待にも耐えて、それでも素晴らしく聡明で、誰かを非難する事もなく、婚約者の貴方の意思を尊重して平民になる準備までしていたのよ?そんな令嬢を助けてあげたくなるのは人として当然でしょう?」


「お姉様はそんな素晴らしい人ではありません!わたくしを日々虐めぬいて酷い噂をばら撒くような人物です!礼儀も知らず傍若無人で我が儘で!」


「ねえ、傍若無人で我が儘で礼儀知らずは誰かしら?わたくし貴女に発言を許してはいなくてよ?」


「も、申し訳ありませんエレンティーヌ様!娘は少々お転婆なところがありまして!」


「ほら、子が子なら親も礼儀知らず。ねえ、テレスティ侯爵夫人?わたくしはこの場に王妃としておりますの、何時までも学生時代を引きずって、名前呼びは困りますわ?それに貴女にも発言を許してはおりません」


我ながら冷たい声が出た。向けた目の冷たさも相当なのだろう、侯爵夫人は夫にすがり付いて息も絶え絶えになっている。

だけどこの程度で止めてあげる訳にはいかない。


「ねえ、侯爵、侯爵夫人、あなた方はどう言ったお考えで、屋敷にたった一人長女だけを置いて、別邸などで暮らしているのかしら?そんな事をすれば令嬢は使用人から侮られてろくな世話もされないだろうと想像もしなかったのかしら?それに自分達に厳しくあたる姉や母が、残された令嬢に酷い扱いをするとは微塵も考えなかったのかしら?いいえ、あなた方は学生時代からとても優秀だったもの、それも想定済よね?その上で長女だけを放置したのは、自分達への非難を長女に擦り付けるためよね?思惑は上手く行ったようね?シルフィアさん一人に姉や母の非難が行っても、自分達は平和に穏やかに暮らせるものね?それにね、シルフィアさんはアイクと二人きりで会ったのは婚約者として紹介された時たった一度きりなのですって。毎月開かれているアイクとのお茶会には、侯爵も付き添いとして来ていたわよね?当然陛下のお決めになった婚約者であるシルフィアさんに付き添って来ていたのよね?」


ガタガタと目に見えて震える侯爵夫妻。今更その罪深さを思い出してももう遅い。


「ねえ、ミュート嬢、同じ学園に通って、貴女とシルフィアさんは同じ学年だった。ご両親から自分の姉の現状は何一つ聞いていなかったのかしら?生まれてこの方、ほとんど一緒に暮らした事もない姉が、どうやったら服や物を壊せるのかしら?どうやったら暴力を振るえるの?わたくしには全く理解出来ないわ?教えて下さる?」


ミュート嬢を見て言えば、報告書を見ていない彼女はそこまで知られているとは知らず、今更ガタガタと震え出した。


「ねえアイク。王命で決まった貴方の婚約者は誰かしら?毎月の婚約者準備予算を使いきっているけれど、おかしいのよね?シルフィアさんは定期的なお茶会や交流も一切無く、誕生日に貴方から花とハンカチしか贈られた事がないそうなの、貴方は毎月誰と会っていて、何に誰に婚約者のための予算を使いきっているのかしら?」


ダラダラと汗を流し、目をキョロキョロとさせるアイク。

本当に何故こんなにも愚かに育ってしまったのか?厳しく育てたつもりだったのに、どこで間違えたのか、頭だけでなく胸も痛い。


「陛下、アイクとシルフィアさんの婚約は、アイクの不貞により破棄、婚約者準備予算を使い込んでいた横領の容疑。テレスティ侯爵夫妻はシルフィアさんへの虐待の幇助、それと妹であるミュート嬢をアイクの婚約者と偽って毎月のように王城に無断で侵入させた罪。前テレスティ侯爵夫人とデラル伯爵夫人は、侯爵令嬢であるシルフィアさんへの傷害容疑。ミュート嬢は故意に王太子の婚約者を貶めた侮辱罪と王太子であるアイクを騙した詐欺、それとアイクの婚約者に用意されていた婚約者準備予算の横領、以上の罪で厳罰に処して下さいませね?」


「い、いやしかし、それではアイクの継承権にも差し障りがあるだろう?」


「ねえ陛下、暗部の者からは随分前から報告が上がっていたのですよね?アイクとミュート嬢の不貞の疑いと、アイクとシルフィアさんの交流が全く無い事の報告が、それにも関わらず、アイクを注意する事すらせず、若さゆえ多少の羽目を外す事もあると放置?陛下が報告を重く受け止め、直ぐにでもアイクを諌めてさえいれば、ここまで愚かな行為はしなかったかも知れないのに。せめて罪を犯した者には相応の罰を受けさせないと示しが付きませんよ?それともこの期に及んでシルフィアさん一人に責任を押し付けて、他を丸く収めるなどと言いませんわよね?もし万が一、陛下がその様な愚かな決断を下されるのなら、わたくし、シルフィアさんを連れて実家に帰りますわ」


「ま、ま、待て!待ってくれ!勿論その様な愚かな決断はしない!罪を犯した者には厳罰を処す!シルフィア嬢へもアイクの資産から相応の慰謝料を払わせる!だから実家へ帰るなどと言わないでくれ!」


「ええ、ええ。当然陛下ならば正しい判断をして下さると信じておりますわ!ではわたくしはシルフィアさんを連れて席を外しますわね!後はどうかお願い致します」


「ああ、わかった。任せてくれ」


シルフィア嬢を連れて部屋に戻り、お茶を一口飲んだところで、シルフィア嬢がおずおずと尋ねてきた。


「質問をお許し頂けますか?」


「ええどうぞ」


「なぜ王妃様はわたくしにそこまで良くして下さるのでしょう?」


「あのねシルフィアさん、これはわたくしが貴女の味方をしたわけでは無いのよ。罪を犯した者をそのまま放置して、何の罪も無い者を犠牲にする、そんな事が許されてはこの国は無法地帯と化すわ。全ての罪を暴く事は無理でも、王妃であるわたくしの目の前で起こった事ならば、厳正に対処するのが務め。わたくしは王妃ですもの。この国の法を作る立場の者が、法を破る者を許す事は出来ません。今回は貴女が被害者でしたけれど、もし立場が違って貴女が加害者に回るのならば、わたくしの持つ牙は貴女を容赦なく貫くでしょう」


「………………ありがとうございます。ありがとうございます。法を守る立場からと言う事でも、わたくしは生まれて初めて、人に庇って頂けました。ありがとうございます。このご恩は生涯懸けてお返し致します!」


「いいえ、貴女に恩など無いのよ。貴女はとても強い女性だわ。親から放置され、誰にも世話をして貰えずに、虐待まで受けていながら、貴女は勤勉に学び、決して腐らず、人として素晴らしい人格を得た。なぜそうも曲がらずにいられたのかは不思議だけれど、貴女は素晴らしい女性だわ。もう貴女を邪魔する者は誰も居なくなった。好きに生きなさい。貴女がイキイキと生きていける国を作るのがわたくしの役目ですもの」


声も無く泣くシルフィア嬢。

ずっと張り詰めていたものが切れてしまったかのようにその姿は弱々しく儚げに見えた。

以前わたくしを圧倒した気品はそこには無く、ただただか弱い少女の姿がそこにはあるだけ。

ずっと、平民のような服を着て街を歩いていてさえ、滲み出る気品を隠せなかったのに、今はただの少女に見える。

いったい今まで彼女はどれだけ張り詰めて生きてきたのだろう?愛される事無く生きてきた彼女が、なぜこうも真っ直ぐで聡明に育ってこられたのだろう?彼女の魂の高潔さには驚くばかり。

そして、彼女が王太子の婚約者に選ばれた一番の理由。

この、魔法と花の国と称えられるこの国随一の魔力量。

これは王家としても見逃せない資質。

王妃としてはこの資質を逃す事は出来ない。

愚かなアイクが駄目ならば、他の手を考えるまで。

わたくしはこの国の王妃なのだから。

泣き疲れて意識を失ってしまった彼女を運ばせ、客間に寝かせる。

さて、王家にとって唯一無二のこの彼女を、一番幸せに出来るのは誰かしら?慎重に選ばなければ!


すみません!

前作で三話終了と書いてましたが四話でした!

自分で書いといて忘れてるとか!

これもそれも暑さのせいだよ!

皆様も熱中症などにはお気をつけて~!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] それを教育と称して行うのは現侯爵の嫁に行った姉と前侯爵夫人である母親。 現侯爵夫妻は侯爵邸には寄り付かず、別邸でシルフィア嬢の妹と弟の四人で仲睦まじく暮らしていると言う。 分かり…
[一言] >アイク殿下は正義感が強く、少々思い込みが強い傾向にあられますので 公平に見れないのであればそれは正義感とは縁遠い代物だけどね
[気になる点] まえがきは誤字報告できないので。 「短編第三段」ですが、「短編第三弾」の方がよろしいのでは?
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