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森山と出会ったのは、働き始めて二年たった冬だった。
同僚の松本に、どうしても友達が欲しいと嘆いている奴がいると聞いたのだ。
飲み会が開催されたが、すべて松本が負担するというし、一人暮らしで節約癖のある僕にとってはもってこいだった。
昔から野球をやっていた松本は大変筋肉質で、愛嬌がある。僕よりも仕事はできないが、上司に愛されるタイプの男だ。鍛えているからか、胸筋部分がスーツであろうが、Tシャツであろうが、異様なまで型取りが見える。
そんな彼だが、僕とは特に仲がいいわけでもないが、別に断る理由もない。
当日、松本と新宿駅で待ち合わせ、ほかに松本の同期の吉田と青木もいた。
とにかく友達が欲しいといわれてやってきた即席のメンツに動揺しつつ、予約した居酒屋についた。
吉田は同期の中でも妙な立ち位置のやつ。自販機くらいの身長に、そうめんのような体つきの声の高い男だ。可愛いものが好きで、休日になると青木と一緒にぬいぐるみを買いに町へ出るようなメルヘン者だ。
青木は、ひょろひょろした吉田とは逆に達磨が縦に3つ積まれたような、小柄とも大柄ともいいにくい、気のいい女だ。よく食べ、よく眠り、毎日生き生きとしているが、こんな見てくれではあるが、胃腸が弱い。
吉田と青木は集合前にかつ丼を食べてきたらしく、乗り気ではなかったし、松本は店を案内してくれた外国人と話が通じず、なんだかまごまごしていた。
僕は、コースで予約してくれたというし、さっさと飲み食いして、明日に備えて寝たかった。
「はじめまして、森山です」
どうも~だなんて気軽に挨拶なんかして、みんなそれぞれ飲み食いし始める。
彼女がどうやら人見知りらしかったこと、みんながこの飲み会に乗り気でないことからか、彼女は黙々とサラダを食べては、仕事の話をする僕たちに目をやって、時折うなずくなどしていた。
だれも彼女とは話したくなかったのかもしれない。
時々、松本が話題にあがる上司の容姿の説明をしたりして、誇張した表現にみんなで笑ったりした。
「まだ上京して2か月くらいで、友達がいなくて」
森山は自ら本題を話し始めた。
「そうなんだ~!職場の人とかと飲みに行ったり、遊びに行ったりとかは?」
「ご年配の方ばかりで......」
「一人暮らし?」
「彼氏と住んでるんです」
「転がり込んだ感じか~」
「ふふ、まあ、そんなかんじです」
「友達がいなくてもさ、彼氏がいるんならいいんじゃない?」
「そう、ですかねえ......」
青木が一生懸命話をする。
そうだ、お前が一番頑張らないでどうするんだ。頑張れ、青木。
友達が欲しいとかなんとかいいながらも、3:2で半分を男が占めるこの飲み会に、彼女にとって本当に言いがあるかは疑問だった。
森山とはほとんど会話をしなかった。
森山自身がどこで働いているんだとか、彼氏はどんな人なのかとか、誰も聞こうとせず、上司の愚痴話に熱中した。
コースの時間も終わり、2次会なぞすることなく、僕らは解散した。
ちょうどよく酔いが回って、ふわふわしながら電車までの道を、また会社の愚痴なんかを話しながら歩いた。
終始気遣いをするように僕たちを眺めたり、話を聞いているふりをして笑ってみたりしている森山だが、そもそも森山は酒が飲めなかった。
「じゃあ僕は京王線なんで!お疲れ様でした!」
「お辞儀深いんですね」
「あ、癖で」
「おもしろい癖ですね」
「は、はあ」
彼女とはそれだけを話して、電車に乗った。
適当に解散して後日、森山から連絡がきた。