第6話 フードコート
図書館は黒を基調とした内装で落ち着いた雰囲気の場所だ。
沙枝は「自習室で待っとるね」と言い左のほうに向かった。
俺は本のある右側に向かう。
ちょっと歩くと館内図があった。それを見て小説コーナーに向かう。
夏休みの図書館にはたくさんの学生がいた。
歳は近くとも俺のことは誰一人知らないであろう人達。
ミステリー小説が読みたい気分だ。俺自身の謎解きに活かしたいし。
できれば沢山時間を潰せる分厚い本がいい。
一冊の本を手に取り、裏表紙に書かれたあらすじを読む。
あれ……これ主人公が犯人だよな。
どうやら俺はこの本を読んだことがあるらしい。
他の本を探そうとすると、ある作者名に目がいった。
この小説家は薬物の所持で捕まったんだよな。
どうでもいい事ばかり覚えてて、肝心の自分のことや妹のことを思い出せない自分が嫌になってきた。
とりあえず作者の情報を知らない、普通の分厚い小説を適当に借りることにしよう。全3巻を手に取って貸出カウンターに向かう。
しかし、そこにこんな張り紙が。
『貸出カードを作るには身分証が必要です』
困ったな。俺には身分証がない。
沙枝を頼ろう。来た道を引き返し、自習室に向かう。
そこでラノベを読んでいる沙枝を見つけ、小声で話しかけた。
「俺身分証なくて貸出カード作れないんだけど……貸してくれない?」
「ええよ」
そうして俺は3冊の本を借りた。
よく考えたらこれどうやって持ち帰るんだ……と思っていると沙枝が鞄からレジ袋を取り出した。
「そのまま持つと重かろー」
俺はそれを有難く頂き、袋に入れて図書館を出た。
「お昼ご飯、イオンのフードコートでかまん?」
「よく分からないから任せる」
イオンのフードコートに着いた。
イオンモールはすごい。俺が今まで見てきた田舎の風景とは全く違ってすごく人で賑わっている。
俺はマックのダブルチーズバーガーを、沙枝は丸亀製麺のネギを大量に乗せたうどんを食べる。
ダブルチーズバーガーは俺が想像した通りの味だった。たぶん食べたことがある。
何も分からない世界で想像通りのものが口の中に広がるとかなり安心する。
全部食べきったら、安心感で忘れた事も思い出す。
「あ!図書館で横浜に関する本見ときゃよかった。せっかく手掛かりっぽいもん見つけたのに」
「また行けばええよ。
……横浜かぁ…………
私のお姉ちゃん、横浜に住んどるんよ」
「へえ〜偶然だな」
「もしかしたら正樹くんと知り合いやったりして」
「うーん横浜市って広いし、人口多いし、そんな偶然出会えるほど狭くはないと思う」
「まあ都会やもんな」
「お姉さんってどんな人なんだ?」
沙枝は目を伏せながら答えた。
「看護師目指してる大学2年生。
性格はみんなから愛されるすごくいい人。
私はちょっと苦手やけどね」
「いい人なのに苦手なのか?」
「うん……
最近そのお姉ちゃんが帰省してきよって、なんか家の中居心地悪いけん、ほんで正樹くんの家行ったんよ」
「そうだったのか
一緒にしていいのかは分からないけど、俺の家にもやばい妹がいるからちょっと気持ちわかるな」
「正樹くんの妹、やばいん?」
「ああ。
そもそもの記憶喪失の原因はあいつだからな。俺の飲み物に薬をサーッと混ぜて記憶を消したと本人が言ってた」
「ほんな理由やったんや……
お互いほんま大変なきょうだいを持ったなぁ」
「ホンマだぜ」
あっやべ。
妹のことを思い出していたら、朝妹に言われたこと思い出した。
『お兄ちゃん、わたし今日一日中部屋でゲームやるから荷物来たら受け取っといて』
「荷物!!!!!」
「荷物がどうしたん?」
「家に来る荷物を受け取る予定だったのについ外出してしまった」
「あらら。ほんなら帰ろか」
「沙枝も帰るのか?家にお姉さんがいるんだろ?」
「もう気分は晴れたし、何より正樹くんがバス乗るの心配やけん」
「バスひとつ乗れない自分が情けなくなるぜ」
帰りはなんとか沙枝のアドバイスなしでバスに乗ることができた。
朝降りたバス停で降りると、夏の日差しとコンクリートの照り返しに襲われ、夏を感じた。
「今日はありがとう。この本があればだいぶ暇を潰せる」
「こちらこそありがとう。
ほな、私はあっちの方向やけん。またね」
沙枝の長い髪が遠ざかるのを見送って、俺も家に帰った。