第4話 夕食を作ろう
家に帰ると、リビングには相変わらずスマホで動画を見ている妹がいた。
「ただいま」
「おかえりー
そうだ、今日の晩御飯はお兄ちゃんが作ってね」
「えー俺記憶喪失なんだけど……」
「記憶喪失でも知識だけは残ってるんだからできるでしょ」
知識だけは残ってるからできると妹が言っている。
つまり俺は記憶喪失前に料理の知識があったのか?
「とりあえず作ってみるか」
冷蔵庫を確認する。
卵、キャベツ、豚肉、玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、ポンジュース、牛乳。
カレーを作れそうだな。
しかしカレールーはない。
なので米を炊飯器にセットした後、買い出しに行くことにした。
外に出るとさっきよりも暑さが和らいでいる。
さっき通った道で見かけたスーパーに行くことにした。
無事迷わずスーパーに辿り着き、カレールーのコーナーに来た。
しかしカレールーはどの辛さを買えばいいんだろう。愛菜に聞いておけばよかった。
愛菜もだが、そもそも俺がどの辛さまで食えるのかが分からない。
とりあえず誰でも食えそうな甘口を買って帰った。
さて、カレーを作ろう。
野菜を切って炒め、煮込み、最後にルーを入れて完成。
すんなりできた。記憶喪失前の俺はカレー作りができたんだと分かる。
「お兄ちゃん、これ辛さ何?」
「甘口」
「うっそ!お兄ちゃんが甘口のカレー作るなんて……」
「だって俺や愛菜の辛さ耐性分からないし」
「ちゃんと考えてくれたんだ……ありがとう!いただきます!」
愛菜がカレーを美味しそうに食べる。
それを見て俺は嬉しくなった。
俺もカレーを食べる。
甘い。俺はもっと辛いのがすきだな。
「愛菜は辛いの苦手なのか?」
「うん。甘口しか食べれない。
いつも家でカレー食べる時は私だけお金渡されてコンビニでなんか買ってこいって感じだったし、こうしてお兄ちゃんと一緒にカレー食べれるのすごく嬉しい」
愛菜の笑顔を見て暖かい気持ちになったのと同時に、過去の俺に対して愛菜に甘口カレー作ってやれよと思った。
夕食を食べ終わった後、愛菜が先に風呂に入った。
特にやることも無いのでテレビをつけた。
東京都議会の汚職事件や、千葉のゲリラ豪雨による降水。
あまりにも自分と関係がないつまらない出来事だが、やることがないからひたすらニュースを見ていた。
暫くすると悪いニュースが終わり、ゲリラ豪雨から代官山で注目のパンケーキ屋に移った。
ここは愛媛なのに東京のニュースしか流れないなと思っていると、愛菜が風呂から出てきた。
パジャマ姿の愛菜が俺のほうに近づいてくる。
「ドライヤーするからそこ座らせて」
俺はソファを離れ、風呂に入ることにした。
洗面所に行くと昼間見た時はなかった俺のものらしきパジャマとタオルが置いてあった。愛菜が出してくれたんだろう。
湯船に浸かると、人生(今日)の様々な出来事を思い出す。
記憶を消してきた妹、家の中の探索、ひまわり畑の髪の長い少女、愛菜との夕食。
今後どうなるのか、全く想像ができない。
とりあえず明日は暇つぶし出来るものを探そう。そう決意して、風呂を出た。