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霧の中  作者: 野々花
1/9

プロローグ

 霧の中、歩いていた。一人で。


──ウォン、ウォォン…ウォォン……。


 どこからか、胸に迫るような低いサイレンのうなりが響いてくる。


(ああ、また壊れてやがるな)


 ぼんやりと思う。そんな自分に、彼はハッと足を止めた。


「あのサイレンのもとが、帰るところなのだろうか……?」


 つぶやいてみる。

 けれど、全てが霧のようにぼんやりしていて、分からない。それ自体、重大なショックであるべきなのに、その緊迫感がない。

 足は自然にサイレンから遠ざかっていく。

 後ろ髪を引かれるような意識をわずかに持ちながら、それでも彼はやみくもに歩いて、サイレンの鳴る場所から遠ざかっていった。まるで、そうするつもりであったかのように。

 いや、実際、そうだったのである。

 胸に抱いた、それのために。

 彼は、それをぎゅっと握り締めると、いても立ってもいられなくなって、足早にその霧の森を、出口を求めて彷徨った。

 とにかく、ここを離れるんだ──それが彼に分かる唯一のこと。

 手の中のそれのために、そして記憶を取り戻すために、彼は歩き続けた。


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