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夢幻の書  作者: こばこ
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第十一章「疑惑」⑥

 セディアの問いに、ラスクは、

「ああそうだ」

と思い出した顔をした。

「もう一つあるんだ。あいつらが……ウィンとロディが、嘘をついていると考える理由。これはさっきのほど重要じゃないかもしれないが、なまりだ」

「ああ」

「お前も気付いてたか?隠そうとしてるみたいだが、抑揚の付け方に南方の訛りがある」

「お前に最初あったのと似てるよな。国境付近の村はみんなあんな感じなのか?」

「確かに、俺たちの言い方に似ている。が、似ていても違う。まあ村によっても癖があるし、俺が全ての村の癖を知ってるわけじゃないが」

「それの何が問題なんだ?」

 セディアには言いがかりのようにも聞こえる。

「南方の育ちだってこと、なんで隠すんだろうな?」

 なるほど。チクシーカを経ってからこれまで、北ノ国の南側を旅してきたのに、なぜ出身に触れないのかということか。ラスクの立場からすれば、そこに疑問を持つのも納得できる。

「例えば」

 セディアは考えながら口を開いた。これまでのラスクの疑念を説明し得る、彼らの出自。

「例えば?」

「あいつらは南方の貴族の出で、何らかの理由で没落して自力で生きていかざるを得なくなった。そこで、剣の腕を利用して用心棒稼業をしていた。似ていないのは異母兄妹だから。これでどうだ?」

「異母兄妹か、なるほどな。それはあり得る。それを隠している理由は?」

 ラスクの口調からは、否定はしないが納得もしないという意志が読み取れる。セディアも、この仮説で彼が納得するとは思っていない。思っていないが、あて推量を披露する。

「没落した理由が、俺の南方での戦い方のせいだとか」

「あんたに気を遣って隠してるってか。まあ、それがいちばん平和な可能性だな」

「わりとありそうだけどな」

 セディアの珍しく楽観的な発言に、その分引き締めるかのようにラスクが口調を重くした。

「どんな可能性がありそうでも、俺たちは最悪を想定して動くべきだ」

 もちろんそうだ。だからこそ、セディアは、

「お前の考える最悪はどんな場合だ?」

と問うた。

「まず、あいつらに出会ったこと自体が仕組まれていたかもしれない」

「は?」

 思わず視線がウィンのいるであろう方を探る。その姿は樹々に隠れて見えない。

「あれはフローラが呼んだんだろ?」

「だけどな、嬢さんが襲われた時に、近くにいた憑座仲間が助けてくれるってのも都合が良すぎると思わないか?襲ってきた奴らはあいつらの仲間で、やばくなったらフローラが助けを求めるのを見越してたとしたら?」

「それで信用させて俺たちと行動を共にし、思い通りに動かすことが目的だとしたら?今俺たちは春日国を目指してる。だけど、そもそも今回の計画を漏らしたのが、春日国の……東の一派で、あいつらがその仲間だったとしたら?国内でラージ家の手に渡さず、春日国に生きたまま連れ出すことが使命だったとしたら?あっちに着いたら、あんたいきなり身柄を拘束されるってこともあり得るぜ」

「東の一派が……ミカサがそもそも裏切ってると言いたいのか?」

 声に僅かに熱がこもったのを、ラスクは聞き逃さなかったようで、

「怒んなよ。最悪の可能性を考えてるだけだ。そして、俺たちはその場合でも対応できるようにしとかなくちゃいけないんだ」

と言った。

「確かにそれは最悪だな」

 本当に、最悪だ。あらゆる意味で。

「ただな、どっちに転んでも良い面もある」

 ラスクが気を取り直すように言った。

「何だよ?」

 こんな状況下での、良い面?

「最初にあんたが言ったろ。今のところ、理由はどうあれ、あいつらがお前らを一生懸命守ってくれてることだ。あれは正直助かってる。護衛が俺だけだったら、最初の追手で全滅しててもおかしくない」

「そうだな。命懸けで……守ってくれている」

 セディアは、彼を庇って斬られた時のウィンの表情を思い出す。崩れ落ちる前の微笑みを。あれはどういう意味の笑みだったのだろうか。

「時が来るまでなのか、それとも本当に人助けなのか。本心は分からんけど、今は有り難く受け取っとこう」

「明日には敵になるかもしれないんだな」

「たぶん、今日明日ってことはないと思うぜ。裏切るとしても、どこかに着くとか、裏の準備が整うとか、そういうきっかけがあるはずだ」

「きっかけ……」

「あいつらが外部の誰かと連絡を取ってる様子はない。ただ、巫女と同じで、風の憑座とは心の中だけで話ができるんだろ?それが怖い」

 重い沈黙が、二人の間を満たした。

「俺たちにできることは、出来るだけあいつらの意見を聞かずに、俺たちで俺たちの行動を決めることだ。巫女も危険だ」

 ラスクの言葉に、セディアは目を閉じて考えた。ラスクは、正しい。

「あと、最初に言ったろ、あいつらに気を許すな。余計な情報を与えるな」

 そう、ラスクが正しい。

「……わかった」

 理解するしかない。それが、セディアの……皇太子の立場なのだ。

「ただの良い奴だったら、心苦しいなあ」

 ぼそっと、本音をつぶやいてみる。目の前にいるのは、それができる数少ない相手だ。

「ただの良い奴だったら、あんたの立場も分かってくれるだろうさ」

 励ますようにぽんと背を叩いて、ラスクは先立って野営地に戻り始めた。

 いつの間にか腕いっぱいに溜まっていた木の枝に自分で少し驚いてから、セディアはラスクの後を追った。

活動報告に「本作の固有名詞について」として、某有名作品との固有名詞の重複について述べています。

説明のため、舞台設定の説明など、若干ネタバレにつながりかねない内容についても言及しています。

固有名詞について気になった方は、ご承知の上お読みください。


端的に言うと、名前が被ってるけどパクリじゃないし、重複を恐れて名前を変えちゃうとお話が成り立たなくなるよ、ということを説明しています。

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